獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
343 / 368
本編

ゴール!

しおりを挟む
 「出口だー!」

 煌めく夕日が眩しい地獄谷です。
 三巳達がダンジョンから出て来ました。

 「おかえり三巳」

 そしてそれを野営の準備をしていたロダに迎えられました。

 「あれぇ!?ロダ達のチームゴールしてたん!?」
 「うん。ダンジョンが動いたから探索は後回しにして先に出といたんだ」

 そうです。勿論の事でロダも参加していました。残っていたチームの内の一つです。

 「ロダってば相変わらず遊び心が弱いって言うか、安全第一なんだもの」

 そうつまらなそうに言うのはミナミです。ロダと同じチームにいました。

 「ふふふ、怪我が無くて良かったわ」

 そう言って微笑むのはリリです。リリは危ない事には手を出さないので、救護班としてダンジョンを通らない道から来ていました。

 『ご無事で何よりです。三巳様』

 大きな翼を広げて影を作るのはサラちゃんです。リリを安全に地獄谷まで連れて来てくれたのです。どうやらネルビーが先回りしてサラちゃんにお願いしていた様です。
 そのネルビーは岩の上で鼻提灯出してピスピスと寝息を立てています。

 「そっかー。ロダはロウ村長と違うなー」
 「あははっ、そうだね。ロウ村長なら今頃全ての道を楽しんでそうだよね」
 「然もありなん」

 頷く三巳は改めて集まった山の民を確認します。

 「んーと。残ったチームはーっと」
 「4チームかな?」

 指折り数える三巳に、ロダが先んじて答えます。ロウ村長とレオを数えない辺り、状況をわかっています。

 「ぬぬ。けっこー多い。幾チームかはロウ村長が見つけてたとしても探し漏らしあるかも」

 唸ってダンジョンを睨む三巳は、警戒心剥き出しに耳と尻尾をピン!と立てます。

 「探すなら一緒に行こうか?」

 ロダが言って、三巳はその目をじっと見て、そしてリリを見ました。
 リリはそれにニコッとして返してくれます。
 三巳は神妙な顔で頷くと、

 「んじゃ行こう。もしも他のチームが揃ったらレオに言って吠えて貰えるか?レオの声なら三巳離れてても多分わかるから」
 「あら」
 「まあ」
 「ほほほほほ」

 その言葉に頬を赤くしてニマーとする女性陣です。

 「へえ」
 「ほお」
 「ふーん?」

 男性陣も軽く目を開いて三巳を見ます。ちょっとは何か変化があるのかもしれないと思ったのです。
 そんな様子に気付かない三巳はロダを連れ立ってまたダンジョンに入って行きました。

 「ぬ。また変わってる」
 「いきなり道が3つに別れてるね」

 入って直ぐに複数チームが待機出来る広場が形成され、その奥に道が3つ出来ていました。

 「三巳が出る時は1つだった」
 「僕達の時もそうだよ」

 三巳とロダは互いに顔を見合わせて、改めて道を確認します。
 三巳は左の道から楽しそうに尻尾を振って、ロダは右の道から警戒しつつ見える範囲は全てチェックして。

 「何か書いてある」

 そして見つけました。

 「三巳の方も書いてあるんだよ」

 三巳も見つけた文字を指差して伝えます。
 ロダが見つけた文字は、

 『最難関』

 です。
 三巳の見つけた文字は、

 『反対出口最短距離』

 でした。

 「迷路かな?」
 「遊園地なんだよ」

 お互いの見た文字を伝え合って、一拍置いて、出た言葉は同時でした。

 「遊園地?」

 遊園地は山には有りません。ロダが聞き返すと三巳は遊園地の楽しさを熱弁しました。

 「それは楽しそうだね。特にめりーごーらんどはリリが好きそう。三巳には作れないの?」
 「ぐにゅ。三巳、しがないOLだったから……。機械にも弱くて……。システムとかわからん……」

 スマホすら出て来たのは三巳が年を取ってからです。ガラケーですらお局と呼ばれていた時代なので、今の若い子の様にスマホでチョチョイと調べられないのでした。

 「ふうん?残念だね?」

 OLもわからないロダですが、三巳が残念そうなのはわかるので同情してくれます。

 「うぬ。遊園地作った人は偉大だったんだよ」

 特にでずにーは楽しかった思い出が詰まっています。きっと絶対レオと行ったら楽しいに違いないのにと、歯痒い気持ちで歯を喰いしばっちゃいます。

 「でも!ダンジョン楽しいな!」

 そんな三巳の山にも遂に念願の遊び場が登場しそうです。いえ、本来のダンジョンの用途は違うでしょう。けれども三巳にとってダンジョンは此処しか知りません。だからダンジョンといえばもう立派な遊園地なのです。

 「行きもな、燕の巣があったり槍が飛んで来たりしてな、でも皆にはまだまだの出来だったみたいで酷評でな、ダンジョン悲しんでたんだよ。この道もダンジョンの頑張りの証な気がするな!」
 「成る程。確かに僕達が出口に一直線で行ったら何だか哀愁を感じた気がした。そうか、ダンジョンって感情があるんだね」
 「!そう!そんな気がするんだよっ」

 ダンジョンは力の坩堝から発生すると言われています。
 そしてそれは精霊や妖精と通じるものがあります。
 ならばダンジョンにだって人格ならぬダンジョン格があるのかもしれませんね。
 三巳は納得に頷き、改めて別れ道を見ました。

 「村側出口一直線は無いよな。なら真ん中か右の道に行くんだよ」
 「問題はどっちに行くかだけど」
 「うぬ。三巳はロウ村長なら最難関行ってる気がするんだよ」
 「ははっ、確かにロウ村長なら自力で最難関に到達してそうだよね」

 という訳で最難関はロウ村長に丸投げです。
 三巳達は真ん中の道を行くことにしたのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...