獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
341 / 368
本編

どれだけ合流出来たかな?

しおりを挟む
 三巳とロウ村長とレオはまだダンジョンを攻略中です。
 別々の分岐点を行っているので、この先にどれだけのチームが残っているか分からないからです。

 「しかし凄いな、山の民ってのは」

 レオは感嘆の声を上げて周囲を見渡します。
 分岐点を進んでは行き止まりで戻って違う道を行き、発見したチームを吸収していったので大所帯です。その誰もが楽しそうにダンジョンを堪能していました。
 都度都度でロウ村長がダンジョン豆知識を披露するので、攻略中と言うより観光ツアー中になっています。

 「お。今動いたか?」
 「だな。地魔法班状況分析する」
 「風魔法班風の流れを読むぞ」

 変化が起こると一度止まって状況を確認します。
 その様子が災害救助隊の連携の様にしっくりしていてレオは頼もしく感じていました。

 「おお!?おいおい何だこの風の流れはっ」
 「下っているだと!?これまで登りしか無かった地獄谷への道に新たな経路か!?」
 「いやいや待てよ!風が流れてるって事はどっか外に繋がってる筈だろ!?こっから下って繋がるってどれだけ距離あんだよ!」
 「地魔法でも下り道確認した!けど途中で行き止まってるぞ?」
 「んな馬鹿な!」

 風魔法班と地魔法班が驚愕に彩られます。
 状況がわからない他の人達は、取り敢えずロウ村長を見ました。
 その視線にロウ村長は力強く頷きます。

 「うむ!ダンジョン内は力の坩堝だからな。風位は平気で動くぞ。嵐や吹雪も起こるから注意が必要だ」
 「洞窟内で!?凄えなダンジョン!」
 「吹雪だと今の服はキツイな。誰か防寒対策持って来たか?」
 「ええ?梅雨の時期とは言え今は夏本番前よ?流石に無いわー」

 そのまさかの事態を想定した山の民は一様に狼狽えます。そしてふと気付いて一斉にレオを見ました。
 レオは言われんとしている事を把握して喉を引き攣らせます。

 (この人数は流石に無理だろ)

 「……ダンジョンなら多少の火魔法も平気だろ。風魔法と火魔法で防寒は出来るさ」
 「「「成る程ー」」」

 レオの言葉に納得した山の民も一安心です。
 しかしてそれはそれとして問題はどう進むかです。変化する道では残ったチームを探すのも一苦労です。道中でロウ村長が

 「最悪の場合はワシが天井に風穴開けるから心配はいらん」

 とか物騒な事を言っていたので、そうならない為に今出来る事は全てやらなければなりません。

 「三巳の方はどうなってるかしら」

 此処が変わっているならば三巳の所も変わっている筈です。三巳にはダンジョンそのものの知識が皆無なので山の民より危険な気がしています。

 「ま。三巳だしな。あれでも神族で獣神だ。何とかしてるさ」

 まだ短い付き合いのレオですが、三巳には楽しむ才能がある事を理解していました。そして獣の帰巣本能は侮れない事も我が事で理解しています。
 そんなレオに山の民もそれはそうだと、今は残ったチームを探すのに注力するのでした。

 一方三巳は。

 「ぷくしっ!」

 盛大にクシャミをしていました。

 「誰か噂してるんだよ??」

 鼻先を指でグシグシしてキョロキョロします。
 三巳に合流していた山の民はそれを見て

 「三巳の噂なんて年中してるわよ」

 と言います。
 三巳はちょっぴし照れて尻尾をそよがせました。

 「そうなん?へへ、どんな噂なんだろ」
 「そうねえ。大体は美味しい物を発見したら三巳好きそうとか」
 「野球を始めた時もそんな話で盛り上がったな。案の定楽しんでくれたし」
 「うぬ。でも三巳には野球はハードル高かったんだよ」
 「あははは!確かに打ったボールを追い掛けるのは凄かったけど、投げたボールも追い掛けちゃうんだもんな!」
 「うぐにゅ。その節はどーもなんだよ……」

 三巳達も世間話を楽しみながら残ったチームの探索を進めています。
 先程のダンジョン変動にも動じずサクサク進んで行く様は、ロウ村長からしたら無警戒に過ぎる事でしょう。
 けれども大丈夫です。三巳もいざとなったら天井を突き破る所存ですからね。

 「残ってるのが後何チームかわかんないのがネックなんだよ」
 「そうだな。三巳に合流したのが2チームだろ。参加したのが10チームだから」
 「いやいや、その内の3チームは三巳とロウ村長とレオだろ。なら7チームで良いだろ」
 「ああそうか。て事は残り5チームの内ロウ村長がどれだけ回収してるか、だなー」
 「うーにゅ。取り敢えず他に居ないか探しつつ、一旦地獄谷目指そーかな」
 「それで良いんじゃないか?揃ってなけりゃまた潜りゃいいんだしよ」
 「うにゅ。そーだな、そーする」

 と言う事で一旦地獄谷へ目指してサクサク進む事にしました。けれどもダンジョン変動は短時間で何度も起きている為、それはとても難解な事と思えました。

 「リアル迷路楽しいんだよ」
 「迷路なんて子供の頃に土魔法で作ったのを遊ぶ程度だったからね。あれはあれで楽しかったけど、やっぱ本物には敵わないって思い知らされたわ」

 でも大丈夫です。そんな事でへこたれる者は山の民にはいません。皆三巳の山遊びに鍛えられているのです。楽しい事を楽しむ能力は山の民一同が持ち合わせているのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...