獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
335 / 368
本編

ダンジョンって不思議なんだよ!

しおりを挟む
 初ダンジョン攻略中の三巳とレオがいます。
 ダンジョンと化した洞窟はとっても入り組んでいて迷路の様で楽しいです。

 『んあっ!』

 しかも何故かトラップまで有りました。
 三巳は踏んでしまったスイッチからソーっと脚を退かします。

 『いや踏んだ時点で起動してるだろ』

 今更慎重になっても遅いってものです。
 レオは警戒を高めて周囲を確認します。すると奥の方からゴロゴロと音が聞こえて来ました。

 『丸岩系か』

 全く動じず奥を注視していれば、真っ直ぐ伸びたちょっと坂道になっている奥から何かが見えてきました。丸い大きな岩が壁や天井を擦りながら向かって来ています。

 『玉ー♪』

 そしてボール大好き三巳が反応して突撃しに行きました。ワフワフと鼻息荒く尻尾を振っています。そして玉が転がる速度より速かった三巳は、

 ドッカーン!

 という轟音を立てて真ん中を突き破ってしまいました。

 『いや何でそうなるんだ』

 レオが頭を抱えたくなったのも仕方ありません。
 けれどもそれ以上に三巳は突然無くなった玉に、悲しそうな顔で耳と尻尾をシュンと垂れ下げています。勿論自業自得です。
 暫くフンフン壊れた丸岩を嗅いでいましたが、何も変化はありません。仕方なく三巳はトボトボとレオの元に帰って来ました。

 『玉無くなっちゃったんだよ』
 『そりゃ、あの勢いで突っ込めばな』
 『うぬ。今度は止めてみせるんだよ』

 意気込む三巳でしたが丸岩の罠はそう何度もあるものではありません。気合いも虚しく少し変わったエリアにやって来ました。

 『川だ』

 洞窟の側面に沿って小川が流れています。
 顔を入れて覗いて見ると太陽も無いのに水草が生えています。そしてあるのは水草だけではありませんでした。

 『ぶばっ!?ぶばび!』
 『いや何言ってるかまるでわからん』

 レオの冷静なツッコミに三巳は顔を上げると興奮した顔で肉球で川を指します。

 『鰻がいたんだよ!』
 『鰻?あの不味いやつか』

 どうやらレオは食べた事があるらしく、珍しく顔を顰めました。きっととても不味かったのでしょう。
 けれども前世日本人の三巳はそれに大いに首を傾げます。

 『鰻重はとってもとっても美味しいんだよ』

 ジュルリと涎を垂らして言う三巳の言葉は説得力があります。レオは美味しい物を美味しく食べる三巳を見てきているからです。

 『へえ。そりゃ興味あるな』

 不味い物がどうやったら美味しくなるのか想像も付きません。レオは川を覗き込んで鰻の影を追います。
 影は三巳達の気配に気付いたのか、逃げる様に深い場所へと泳いで行ってしまいました。

 『追うか』
 『うぬ!』

 という訳で急遽鰻狩りに出発です。
 三巳の頭ではもう鰻が鰻重にしか見えていません。
 追い掛けて追い掛けて。気付いたら明るい場所に来ていました。

 『にゅあ。天井空いてる』

 そうです。上はポッカリと空いていて、太陽が中をサンサンと照らしていたのです。

 『あれ?雨いつの間に上がったんだ?』

 不思議がる三巳にレオは軽く頭を振ります。

 『いや、本当の空じゃねえな。ダンジョンてのは時折りそんな現象も見せるらしい』
 『ほえー』

 結局不思議現象だという事でマジマジと空を見上げます。けれども本物の空にしか見えません。だって洞窟の外では鳥も空を飛んでいるのです。
 三巳はあの鳥も幻かと勘繰って良く見ますが、やっぱり本物にしか見えません。

 『どう見ても本物のトンビなんだよ』
 『トンビ?へえ、俺にもまだ知らねえ鳥がいたのか』
 『うぬぅ?見た事ない?ジャングルにはいないのかな?』

 不思議がる三巳ですが実は不思議でも何でもありません。モンスター蔓延る世界で普通のトンビが悠々と空を駆けられる訳がないのです。
 つまりそれこそが本物ではない確証になるのですが、

 『三巳の山でもそいえば見た事ないかも?』

 三巳は全く気付きません。
 レオもトンビが何かわからないので、

 『そうか』

 とだけ言ってトンビを見ます。しかし良く見ても凡そモンスターに対抗出来る要素が発見出来ず、謎生物として認定しました。

 『うーにゅ。しかし広いんだよ。そんなにおっきな洞窟じゃなかったのになー。ダンジョンって面白いなー』

 特にトンビには拘りがない三巳は、早々に空を見飽きて周りを探検しだします。
 空間は円形に広がり、日が当たる場所では草花が生えています。辿って来た川は中心部に向かい、真ん中辺りで小さな池を形成していました。他には川が無いので池が行き止まりの様です。

 『鰻って川のイメージ強いけど、池にもいるんかな?』

 レオは未だにトンビを見ていたので1人で池を観察です。
 池は透明度が高く、池の底が良く見えました。

 『はわー凄いんだよ。水草もそこに隠れてる魚も丸見えなんだよ』

 これでは狙われ放題じゃないかと、鰻を獲りに来た筈の三巳が魚達を心配します。
 三巳の言葉にレオも気付いて池の底を見に来ました。

 『へえ、こりゃ凄ぇ。ジャングルじゃあこーは行かねえな』

 水に鼻を近付けてクンクン嗅いでみます。

 『ま、毒は無いわな』

 水草も魚も元気に泳いでいます。一応安全を確認しただけなのです。
 レオは一口飲んでみて味も問題ない事を確かめてから喉を潤しました。
 三巳もそれを見て喉を潤します。

 『うぬ。普通の水』

 どうやら回復の泉では無い様で、ちょっぴしガッカリです。

 『回復の泉無くなってないといーな』

 とっても神秘的でお気に入りの観光スポットなのです。無くなったら悲しいですし、リリもきっとガッカリするでしょう。

 『ん?回復の泉もあんのか』
 『ダンジョンになる前はあったんだよ』
 『なら有るさ。てか其処が原点の可能性もあるわな』

 レオの言葉に三巳は成る程と合点がいきます。
 確かに回復の泉は魔力が満ちていましたからね。

 『見つかるといーんだよ』
 『そりゃ広さによって難易度たけえな』
 『?洞窟はそんなに広くなかったんだよ。分かれ道はあったけど』
 『ダンジョンは元の広さに起因しねえんだと。だからまぁ、踏破してみねえと広さはわかんねえんだ』
 『ほぇー。そなのかー』

 しかしそうなると心配になってくる事があります。

 『夕ご飯までに帰れるかな?』

 きっと今日もクロが美味しいご飯を作ってくれます。早く帰ってレオを紹介しないとレオの分がありません。
 心配が心配を呼んで喉をクルクル鳴らしてしまいます。

 『あー……。ま、今日は何の準備もしてねえし、探検は明日以降でも良いんじゃねえのか』
 『ん!それもそーなんだよ!』

 という訳でこの日は鰻だけ獲ってお家に帰るのでした。

 なお鰻はクロが美味しく鰻重にしてくれました。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...