獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
329 / 368
本編

竹の子狩りで

しおりを挟む
 三巳は今、久し振りの竹の子狩りに参加しています。

 「オリンピック……間に合わなかった……」

 大きな籠を背に背負ってしょもんと項垂れています。楽しみにしていた分ガッカリは大きいのです。

 「まあまあ気を落とすなって三巳姉!」

 背負い籠ごとパンパンと背中を叩くのはロハスです。あれから年長組の仲間入りをしたロハスは、年中組の時から更にグンと背も伸びて大人の男らしさが出て来ました。
 頼もしくなったロハスをロダは嬉しそうに見ています。
 今回の竹の子狩り参加は、保護者兼護衛としてロジンとロダ。その他はロハス達年長組に、年中組とその母親か父親か又はその両方です。子育て中の母熊が近くに居なければ、毎年行う子供達のお楽しみ行事なのです。

 「ロハスはもうすっかりお兄さんだなー」

 何年経っても子供達の成長は嬉しいものです。
 三巳は頼もしくなったロハスにホロリと涙しています。

 「まーな!ってもロダ兄にはまだまだ追いつかねーけど」

 グヌヌと悔しそうに力瘤を震わせるロハスに、隣を歩くミオラが呆れた溜め息をこれ見よがしに吐きます。

 「ロダ兄ちゃんはロウ村長に次ぐ人だよ?そう簡単に追い付ける訳ないじゃない」
 「そうだけどよー……」

 冷静な指摘にロハスはそれでも悔しそうに肩を落とします。

 「ほらほら。楽しくお喋りするのも良いけど、足元や周囲の気配を疎かにしないようにね」

 幾許か速度が落ちていたロハス達を、ロダが直ぐに気付いて注意します。ロダは殿しんがりを務めているので皆の動きが良く見えているのです。

 「「はーい」」

 それに頷きつつも唇を尖らせるロハスは、周囲を見て息を吐きます。

 「そうは言っても最近モンスターって俺達襲って来ないんだよな」

 ロハスはボソリとミオラにだけ聞こえる様に呟きます。
 ミオラも苦笑して頷きつつも、

 「油断大敵だよ」

 と嗜めます。

 「ミオラはお姉さんになったなー」

 それを全て聞こえていた三巳がまたしてもホロリと涙しました。
 それはそれとして三巳はミオラの言葉でふと周囲を確認します。

 (居るは居る。けど、確かに何かしたがってる感じはしないなー)

 何年か前までは三巳の目がない所は自然界の営み弱肉強食の世界でした。しかしリリが来てから少しづつ変化していた山の生き物達は、山の民達に攻撃性を見せなくなっていたのです。

 (まあ、リファラのモンスターが人族と夫婦になって子供も産まれてるしなー)

 もしかしたらもう家族の一員みたいになってるのかなと、三巳は平和な空気に酔いしれます。
 とはいえ理性でカバー出来ないのが子育て中の母熊です。彼女達は子供達しか見えていません。三巳ですら子育て中は近付いたら威嚇されるのです。
 そんな事を思っていたからでしょうか。漸く竹の子のエリアに入った所で熊の気配を感じ取りました。
 ロジンとロダは一気に警戒体勢になります。
 そんな2人にいち早く気付いた保護者組が警戒体勢に入り、次いで子供達が防衛体勢に入りました。
 三巳は邪魔をしない様にお口にチャックをするが如く、毛を膨らませて毛玉三巳になります。お顔だけだして様子を伺っていると、竹藪からガサゴソと近付く音がしてきます。
 緊張感が高まる中、ロダがロジンと先頭を変わります。
 ロジンが最後尾に付いた頃合いで竹藪から黒い影が見えたと思ったら、ゆっくりとロダ達に近寄りすっかり大きな熊の形を見せました。
 息を呑む子供達を他所に、大きな熊はその場にペタリと座ります。そしてその後ろから可愛い可愛い子熊達が顔を出したではありませんか。
 これにはもう皆ビックリです。三巳も開いた口が塞がりません。
 子育て中の母熊の気の立ち用は、話し合いが通じないレベルの筈だからです。

 「ええっと?僕達竹の子取りに来たんだけれど、良い……のかな?」

 警戒体勢はまだ解きませんが武器からは手を離したロダが尋ねます。
 母熊は脚にしがみ付きつつも興味深そうにロダ達を見る子熊を見ます。そしてロダを見て、

 「がう」

 と言いました。
 全く威嚇感が無い所か、穏やかなその様子にロダは困惑します。そしてこの異常事態に三巳を見ました。

 「良いかな三巳」

 山の主は三巳です。母熊が良しとしても三巳が良しとしなければ良しではないのです。
 三巳はトトトと母熊に近寄ってみます。一歩離れた所で止まってしゃがむと子熊達を観察します。
 その間母熊は様子は見ていても特に何もして来ません。
 子熊達は初めて目にした生き物達に興味津々。でも怖い。という感情を如実に表しています。

 「うーにゅ。どーしたんだ?警戒しないのか?」

 三巳も初めての事に困惑しています。
 母熊は穏やかな表情で三巳に顔を近付けると、その頬をペロリと舐めました。

 『この山は子育てするのにとても良い環境ね。最近はとても心が落ち着いているのよ。それはきっと貴女という神の守護と、リリの癒し手のお陰』

 母熊の話に三巳は成る程と得心がいきました。
 リリの癒しの力は動物やモンスターの心に作用しています。だからこそリリには動物やモンスターが心を許しているし、リファラも共存出来るまでになったのでしょう。
 そして今リリが住むこの山でも同じ事が起きようとしているのです。

 「それじゃあ一緒に竹の子狩りする?」

 楽しい予感に三巳は尻尾をワサワサと振って興奮気味に聞きました。
 それに母熊はニコリと笑って頷きます。

 『是非一緒させて欲しいわ』

 そんな訳で竹の子狩りは、急遽参加者が増えて賑やかに行われたのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...