獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

スキーの誕生

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 猛吹雪でヴィンも炬燵で蜜柑と添い寝をしている日の事です。今日も今日とて三巳は精霊探しを頑張っています。
 ネイチャースキーにハマった三巳は村にいる時から魔法の板を生成しています。そこへ山の民がやって来ました。

 「何だい?それは」

 山の民は魔法の板を指差して尋ねます。
 三巳はいざ行かん!と気合いの入った前進ポーズのまま動きを止めて、上半身だけを声の主へと向けました。

 「山スキー?」

 実はスキーの種類は詳しく無い三巳です。山で遊ぶから山スキーと認識していました。
 また新しい言葉に山の民は目を輝かせます。だって三巳が突如思い出す物事は、大抵楽しいが詰まっているのですから。
 山の民は見様見真似で魔法のスキーの板を生成します。そして三巳の隣に並びました。

 「一緒に行っても良いかな?」
 「良ーけど、猛吹雪なんだよ?」

 視界は隣の人なら何とか見える程度の真白の世界です。
 しかし山の民はめげません。伊達に子供の頃から三巳と遊んでいないのです。

 「雪山は僕の領分なのさ。寧ろ最近鈍っていたから丁度良いよ」
 「うぬ。その心意気や良き。じゃあ三巳の精霊探し手伝ってくれるか?」
 「ああ、ヴィンの為だね。それなら喜んで手伝うよ」
 「それじゃあ宜しくな、ロスカ」

 三巳はストック持った手を上げてニカリと犬歯を剥き出しにして笑います。
 ロスカと呼ばれた山の民はその手にコツンと拳を合わせてニッコリ笑います。

 「宜しく、三巳」

 そんな訳でこの日は山の民と一緒にネイチャースキーです。
 取り敢えず手始めにスキーの動かし方からレクチャー開始です。とは言え三巳も遊びでしかした事がないので三巳流ですが。

 「こういう平の所とか登りはこうやって足を動かすんだよ」

 言いながら足を進めてみせると、ロスカも見様見真似で足を動かします。

 「へえ、これは雪に埋もれなくて便利だね」
 「うぬ!そんでな、登りキツかったらこうやって逆八の字でエッジ?をきかせるんだよ」

 思いっきり漢字で説明していますが、勿論山の民達の言語は日本語でも中国語でもありません。
 しかし三巳の謎言語には慣れています。ロスカは直ぐに八がスキーの向きを示していると気付きました。

 「こうだね。えっじ?はスキーの角の事で合っているかな?」
 「うぬ!多分あってる!」

 勿論専門知識皆無の三巳です。相変わらずの良い加減説明ですが、伝われば良い精神です。
 そんなこんなでいざ出発です。
 精霊は何処にいるのか、そもそもいるのかさえわからないのです。進む先は気分で決めます。

 「しかし精霊とはね。種類によっては視認が出来ない種もいるらしいけれど」
 「うにゅ?そーだっけ。三巳は普通に見えてるからなぁ」
 「そりゃ三巳だもの」

 三巳は精霊より神秘的な存在の自覚が皆無です。ロスカは神族だからの意味で言ったのですが、三巳は三巳凄いと自分を褒め讃えます。

 「んふー♪三巳けっこーな長生きさんだからかな?猫又じみてるんだなっ」

 ロスカは自分の言った意味を全く理解されていない事に気付きます。しかしスキーでも器用にスキップしだした三巳が可愛らしいので、黙っている事にしました。

 「そうだね。おっと、大分雪が深くなっているね。雪の精霊が遊んでいるのかな?」

 スキーを履いていても次から次へと降る雪で、魔法の板の上にも雪が積もってきています。ロスカは板を振って雪を落とすと周囲を見渡しました。

 「そいえば自然的な何かあると何々がどーしたーみたいな話って出て来るな。迷信じゃなくて実は意味あったりするのかな?」

 同じく板の雪を落として三巳が天を見上げます。
 見上げた空は真っ白で、轟々と降る雪が顔に当たっては解けて頬を滑り落ちていきます。吐く息も真っ白で、まるで自分が雪の一部になった様な錯覚を起こしてきます。

 「迷信もあるけれど、実際に起きた事もあるんじゃ無いのかな。実際に間欠泉が噴き出す時は大抵サラマンダーがご機嫌になっていたしね」
 「おお!そーだったのか!」

 新事実に俄然三巳のやる気は上げ上げです。猛吹雪の影からヒョッコリ精霊が顔を出すかもとキョロキョロしちゃいます。

 「真っ白」

 しかし猛吹雪過ぎて一寸先は白でした。
 ロスカはクスリと笑うと三巳の頭をポフリと撫でて慰めます。

 「これだけ勢いがあると中々難しいね」
 「うにゅぅー……」
 「気配を読んでみるかい?」
 「……んにゃ、恥ずかしがり屋さんだったら可哀想なんだよ。きっとビックシしちゃう」
 「そうだね、地道に探そうか」
 「んにゅ」

 という訳で視認で確認続行です。
 しかし真白の世界での精霊探しは難易度MAXでした。

 「見つからぬ」
 「見つからないね。もう時期夕方になるけれど、まだ続けるかい?」

 ロスカの問いに三巳は腕を組んで「フン」と鼻息を立てて考えます。

 (このまま続けたら父ちゃんのご飯冷めちゃうかも)

 帰る頃には夕飯時だと正しく計算して頷きます。

 「帰る」
 「そうだね、それが良いよ」

 という訳でこの日も収穫ゼロで帰還です。足を上手に動かして板の向きを反対にすると、その先は下り坂です。

 「残念だね。晴れていたら僕らの軌跡が見えただろうに」

 一寸先は白の世界では下り坂である事さえ判別不能です。
 三巳は晴れていた時の光景を思い描き残念そうに頷きました。

 「うぬ。また晴れてる時にスキーしよーな。取り敢えず危ないから三巳から離れない様に後ろ着いて……見えない……」

 三巳が先導して前へ進むとロスカの姿が白に消えました。

 「はっはっは!見事に見えないね!仕方ないから周囲の雪だけ魔法で避けるよ」

 ロスカは言うと風を操り周囲に降る雪だけを散らします。その分散らされた雪は他に積もっていくのでジッとしていると雪壁が出来そうです。

 「早めに抜けれるかな」

 心配するロスカですが三巳は得意そうに胸を張ります。

 「にゅっふっふー♪帰りはもっと楽しいんだよっ」

 三巳は板を真っ直ぐにしてストックをザックと前から後ろへと突き押し流します。するとス~っと登るよりスムーズに前へ進んで行きました。

 「おや!これは中々にどうして」

 驚いたロスカは楽しそうに目を輝かせると見様見真似で前へ進んでみます。そしてそれはとても気持ち良く、風を切る様に前へと進んで行きました。

 「あっは!ははは!良いね!これはとても良いものだよ!三巳っていうひとはこんなに楽しいものを今まで隠していたなんて!帰ったら根掘り葉掘り聞かせて貰わないとならないね!」

 新雪の上をスッスッス~ッと滑り降りて行く様は、スキー場を滑り降りるのとはまた違った楽しいがあります。とはいえスキー場を知らないロスカ達山の民にはこれだけでも十分刺激的な楽しさです。
 この日帰って三巳に聞けるだけを聞いたロスカが、アルペンもクロカンも何ならジャンプ台まで作るのはまだ少し先のお話です。
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