獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

お土産話も終わって

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 「それでな。島神のじっちゃが種くれたんだよ」

 秋だけれど暖かいグランで、日向ぼっこ中の三巳が身振り手振りで一生懸命お話しています。

 「そうか。そりゃ良かったな」

 隣で聞いてくれているのは勿論レオです。
 バスケもどきを港で心ゆく迄堪能したので、広場で休憩をしているのです。
 ベンチに腰掛けて、お土産の煮干しを食べながら三巳が土産話に花を咲かせています。
 クロは獣姿で体を解したい母獣に付き添ってジャングルに行ってるので2人きりです。

 「にゅふ~」

 話し終えて満足すると、煮干しで喉が渇いていたと気付きました。
 煮干しを両手で持ったまま飲み物を探します。しかし用意していた飲み物は話しながら飲み切っていました。
 三巳はショボンと耳と尻尾を垂らしてしまいます。
 レオはそんな三巳に自分のお茶を渡してくれました。
 殆ど飲んでいないのでまだタップリあるお茶を三巳は嬉しそうにゴクゴク飲みます。そして飲み切った所でやっと「ぷはー」と息を漏らしました。
 完全に妹の面倒を見る兄とそれに甘える妹の図です。

 「ありがとなんだよ」

 空になったお茶を見た三巳は、そういえばこれはレオのお茶だったと気付きます。やっちゃった感で耳と尻尾を垂らして上目遣いでお礼を言いました。
 それにレオはふっと笑うと頭を撫でてくれます。

 「気にすんな。お替わりいるか?」
 「にゅ。もー大丈夫だいじょぶなんだよ」

 撫でられて嬉しそうに尻尾を振っていると、母獣とクロの気配を近くに感じます。視線を寄越すと丁度家の角から姿が見えた所でした。

 「おかえり母ちゃん父ちゃん」
 「ただいま三巳。レオも三巳の面倒見てくれてありがとう」
 「いや、土産話が面白くて楽しかったさ。な、三巳」
 「!うにゅ!」

 嬉しそうにバッサバッサと尻尾を振る三巳に、クロは破顔し、レオももう一度頭を撫でてくれます。

 「ではそろそろ帰るとするかの」

 何をして来たのか満足そうに顔をツヤツヤさせる美女母が、サクリと帰宅を促しました。

 「母ちゃんはもー良いのか?」
 「ああ。ジャングルは骨のある奴が多くて良いの」

 三巳は

 (何して来たんだ本当に)

 と思いましたが決して口にはしません。何が藪蛇になるかわからないのです。

 「レオはまだ山に来れなそーか?」
 「あー……。最近また乱獲者が横行しててな。目が離せねぇんだ。悪いな」
 「うにゅぅ~。仕方ないけど寂しいんだよ」
 「ま。手が空いたら行くさ。その時は宜しくな」
 「うぬ!絶対なんだよ!」

 こうして三巳達はレオの案内でグランを出てジャングルへ行きました。
 ジャングルでは乱獲者が迷惑行為をしていると聞いていましたが、全く鉢合わせません。気配のけの字も無い状況に三巳は

 (あれ?)

 と思います。だって乱獲者がいないならレオも山にだって来れるかもしれません。けれども油断大敵火がボーボーです。

 (今はたまたま来てないだけかも)

 1人で納得してうんうんと頷き安全にジャングルを進みます。レオがチラリと母獣を見て目礼をした事に気付いてもいません。
 母獣はニヤリと笑って機嫌良さげに尻尾を振りました。

 「どーしたん?母ちゃん」

 機嫌良さそうな母獣に三巳も油断してニコニコと訪ねます。
 すると母獣は口はニッコリなのに氷河の如く視線で三巳を射抜きました。
 その冷たい視線に三巳はピャッと飛び跳ね毛を膨らませます。そしてソソソとレオの鬣に隠れました。

 『平和主義も鈍感が過ぎれば毒じゃの』

 クツクツと怖い笑い声を上げる母獣に、三巳はブルブルと震え出します。目の前の鬣に思わずキュキューッとしがみ付く位には背筋に冷たい物が降りています。

 「なん。何なん?」
 『逃げるでないぞ』
 「だから何なん!?」

 三巳は母獣からの底知れない恐怖に体がゾワゾワしています。体を温めようと、しがみ付いている鬣に体を埋めて押し付けてしまっています。
 鬣を引っ張られているレオは、グイグイと押されて尚も冷静に歩を進めています。内心で痛いと思っていますがされるがままです。どうしたものかと思案しつつ頬を寄せて三巳を視界に収めます。鬣に埋もれていて足しか見えませんでしたが。

 『頑張る三巳は格好良いだろうな』

 そしてポツリと、しかし確実に聞こえるように呟きの様に言いました。
 案の定レオに良く思われていたい三巳は耳をピンと立てます。そして口をふよふよさせて鬣から出て来ます。

 「にゅふ~。何でもドンと来いなんだよっ」

 怖さなんてレオの一言で吹き飛びました。
 鼻息荒く胸を張る三巳に、母獣は娘の将来が少し心配になるのでした。
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