獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
315 / 368
本編

お土産いっぱい

しおりを挟む
 「レオー!」

 三巳は今、宙を飛んでいます。

 「おい。まじか」

 レオはそんな三巳を見上げて苦笑しています。そして三巳の落下地点を予測して移動しました。
 そうです。三巳は船が港に着いた途端、橋を渡すのももどかしく飛び降りたのです。両手足を目一杯広げて。さあ受け取ってと言わんばかりに。
 レオはそんな気持ちを汲んでしっかりと受け止めて抱き締めてくれます。
 その温もりに満足気に「むふー」と鼻息を漏らした三巳は尻尾をブンブカ振りました。勿論広げていた両手足はガッチリとレオを囲んで離しません。

 「おかえり」
 「ただいまなんだよ!」

 レオが背中をポンと叩いてやっと地面に足を着けました。
 尻尾が振れるのは止まらない三巳は、フンスフンスと鼻息が荒いです。

 「お迎えしてくれるって思わなかった」

 帰れる日がわからなかったので約束もしていません。
 なのに待っていてくれたレオに、三巳の心はキラキラが溢れて止まりません。今にも気持ちを爆発させそうな三巳です。

 「ジャングルから気配を感じたからな。三巳の気配はわかりやすい」

 レオは三巳の頭を撫でて落ち着かせながら言います。
 三巳は気持ちの良いレオの手に頭を押し付けグリグリしながら思います。

 (三巳わかりやすいのか!)

 神気は抑えていますが気配は抑えていません。その事に気付いていない三巳は尻尾を鼻に近付けてクンカクンカと嗅いでみます。勿論気配はわかりませんでした。

 「潮の香りしかしない」
 「気配は匂いじゃねえからな」

 レオは呆れ笑いをしてポンポンと頭を叩きます。そしてふと三巳の背後に立つ美女母を見ました。

 「ま。戦いに身を置いてなけりゃ気配読むなんざしないから、な」

 美女母の笑っている様で怖い笑顔に、何となく弁明してあげます。それで三巳へのお説教が無くなるかまではわかりません。しかし背後の怖い気配には敏感な三巳の青い顔は幾分か良くなりました。

 「み、三巳レオにお土産ある!」

 三巳は話を逸らそうと不自然に尻尾収納に手を入れます。暫くゴソゴソ動かして、お目当てを見つけると

 「てってれー♪」

 と言って取り出しました。

 「猫じゃらし」

 レオは三巳の手に持つ猫じゃらしに笑みを凍らせました。

 (猫だと思ってんのか)

 確かにネコ科では有ります。しかし戯れないレオは貰っても困ります。飾る場所も無いです。

「あ。間違った。レオにはこっち」

 しかし杞憂でした。三巳は自分の手の物を見て目を丸くすると直ぐに別の物と取り替えます。

 「バスボか。珍しい」
 「レオ知ってたのか」
 「まあな。交易品はある程度履修済みだ」

 人を知る事はジャングルを守る事にも繋がります。特に交易品はジャングルの密猟にも繋がるのでちゃんと学びました。

 「何年か前に店に置いてあったぜ」

 グランの港は唯一の交易玄関口です。他所からの商人は、ここぞとばかりに珍しい物を売り出しています。
 けれどもレオは買っていないので手にするのは初めてです。
 三巳からバスボを受け取ると物珍し気にバスボを操りどんな物がを確かめています。
 すかさず三巳がもう一個取り出してドリブルを披露しました。

 「こうやって遊ぶ」

 ムフーと満足気にドヤる三巳ですが、別にバスボはそれ用のボールではありません。遊具扱いされてはいても一応実なのです。
 レオは実に決まった遊びが無いのはわかっていましたが、三巳があまりにも楽しそうなので乗ってあげる事にしました。

 「成る程ね。こうか」

 バスバスと見事なドリブルを披露したレオに、三巳は拍手喝采です。

 「凄い!レオ初めてなのに上手!」

 バスケっぽい動きを見ると何となくシュートもして欲しくなります。
 三巳は魔法のプロジェクターマッピングでバスケのゴールっぽい物を描きました。

 「レオ!あれの輪の中に投げて上から通すんだよ!」

 ドリブルをしていたレオはその姿勢のまま輪を見ます。

 (また訳のわからない物作ったな)

 そうは思っても可愛い妹分に期待の目で見られて心の中で肩を竦めます。そして輪との距離と高さを把握して、ドリブルを止めるとポイッとバスボを投げました。

 「え!?」

 近くまで行って投げると思っていた三巳はビックリ仰天です。何故ならレオと輪の距離は、3ポイントの位置より遠かったのです。
 三巳はポカンと大口を開けてバスボの行く末を凝視で見守ります。瞬きも出来ません。
 バスボは綺麗な軌跡を描いて見事に輪を潜り抜けました。
 港にはポーンポンポンとバスボが跳ねて転がる音だけが響きます。

 「こんな感じか」

 レオのなんて事ない風に言う声が聞こえて三巳はハッとしました。

 「あー!凄いぃぃっ!レオかっちょいー!」

 大きく勢いよく拍手をしてその場でピョンピョン飛び跳ねます。
 あまりに激しい拍手に港に居合わせた人々も何となく拍手してくれました。お陰で港に拍手の音が響いています。
 流石に少し恥ずかしかったのか、レオは短く咳払いすると三巳の頭に手を置いてジャンプを止めます。しかしその場で早足踏みを初めて興奮する三巳に、恥ずかしいのも馬鹿らしくて笑ってしまいました。

 「満足したか?」
 「うにゅ!レオかっちょ良くて大好きなんだよ!」

 レオへの好感度が爆上がりの三巳に、レオも優しく笑って頭を撫でてくれるのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

処理中です...