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本編
クロの回想 続きの9
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愛しい神様に手当てをして貰った場所まで戻って来た。
走っている間にも天気は変化を繰り返して、激しく雷鳴が鳴り、海方向へ幾つも落ちて行くのを見た。
しかし嵐は逆に収まり、曇天は無くなってはいないけれど道は走り易くなっていった。
そして愛しい神様を感じられる崖で立ち止まる。
「……どうやってあそこに行くにゃん?」
来る事までしか考えていなかった自分に愕然とする。
陸地の嵐は収まっているけれど、海はまだ荒れに荒れている。イカダどころか大きな船でも渡れないだろう。
そうこうしている間にも島方面はカラフルな雷が落ちては鳴り響いている。
アタフタと何か方法が無いかと思案していたら、突然島が光輝いた。突然の事に目をやられ、急いで瞑ったけれど暫く目が見えなくなる。
しかし、
「な!?何にゃ!?」
「何処にゃここ!」
「!クロウド!」
島の仲間達の声と、アッシュが私を呼ぶ声に見えない目で声の方を振り向いた。
徐々に戻る視界にアッシュや他の友人。そして母さんが映る。
「……皆……無事だったにゃ……」
折角戻った視力が涙で歪む。
「「「バカッ!それはこっちのセリフにゃん!!!」」」
揺れる叱責の言葉は、友人の温もりと共に心に溶けた。
ぎゅうぎゅうに抱き締められる。その温もりを抱き締め返す事で互いの無事を喜ぶ。
「ご飯食べれてたかにゃ?」
「ああ、島神様が猫缶いっぱい出してくれたにゃ」
「?猫缶て何にゃ?」
「丸い密閉された鉄に入ったお魚にゃ。俺達も初めて見た時は驚いたにゃ」
「島神様が保存食だから大事に食べるって教えてくれたにゃ」
「島神様の声が聞こえたにゃ!?」
「普段はカゲニテッスルけど今は有事だからって言ってたにゃ」
アッシュ達の説明にも意味はわからなかったけれど、お腹を空かせていなかったのは安心した。安心したら力が抜けてその場にヘタリ込んでしまう。
「にゃはは……今更筋肉ギシギシ言ってるにゃ」
それはそうだろうと思う。何故なら今までほぼノンストップで駆け回っていたのだ。
「クロウド……」
ヘタリ込んで情け無くも眉を下げる私の前に島の皆が集まる。
普段は腫れ物を触る様に必要最低限しか接してこない人達がだ。
「私達の為に走ってくれてたにゃん……?」
「当たり前にゃ。皆大切な友達で、仲間で、家族にゃ」
キッパリと目を見て言うと、皆はバツが悪そうに俯いた。
「俺達、クロウドは1人で逃げたと思ったにゃ」
「!?皆を見捨てたりしないにゃよ!?」
「アッシュにも怒られたにゃ。クロウドはそんな薄情な奴じゃ無いって」
シュンとする姿に耳も髭も下げてアッシュを見る。
アッシュは誇らしそうに胸を反らすと、尊大にフンと鼻息を漏らした。その横にいる友人もニンマリ笑っている。
私はアッシュ達の友情に胸が熱くなった。
「ありがとにゃ」
嬉しくて耳裏をアッシュの喉元にグリグリ擦る。
それを笑って背中を叩かれた。
「友達なら当たり前にゃ。逆の立場でも同じにゃん?」
「うん。そうだにゃ。当たり前にゃ。私もアッシュ達を信じてるにゃん」
一頻り無事と再会を喜び落ち着いた頃合いで今までの事を皆に話した。
其々「ううむ」と腕を組んだり、空を仰いだりと悩みを見せている。
「そうだったにゃ」
「大切な事なのに気付かなかったにゃ」
けれども私が言いたい事はわかってくれた様だ。
「島神様にお礼するにゃん!」
「そうだにゃ!ずっと貰ってばかりだったにゃ!」
「島神様だって拗ねちゃうにゃん!」
息巻く仲間達に私はウンウンと頷く。
「問題は何をしたら良いのかにゃ?」
問われた事に皆が「う~にゅ」と腕を組んで唸りを上げる。
「お魚あげるにゃか?貰ったら嬉しいにゃん」
「神様はご飯食べにゃい」
「毛糸玉いっぱいあると楽しいにゃん」
「島神様はどうやって遊ぶにゃ?」
「またたびは?」
「島にいっぱい生えてるにゃ」
「じゃあ猫じゃらしもダメにゃねー」
いっぱい良い案が浮かぶけれど、そのどれもが島神様には不要に思えてしまう。
大人達が首を捻らせる下で、話を聞いていた仔共達が耳をピョコンとさせて前に出て来た。
「お肩トントンするにゃ?」
女の仔がお父さんの腰をトントン叩いて言った。
お父さんはとても気持ち良さそうだ。
「お肩トントン?」
「肩揉み?」
「マッサージ?」
ポツリ、ポツリと繰り返される言葉。
確かにと思う。年長者程肩揉みは喜ばれる。
ましてや島神様は私達を始終抱えてくれているんだ。きっととっても肩凝りな筈。
皆同じ事を思ったのか、一斉にハッとして島を見た。
「「「島神様―――!いつもありがとーにゃー!
お礼にお肩トントンするから落ち着いて欲しいにゃー!」」」
そして肉球をメガホンにして一斉に呼び掛けた。
それが届いたのか雷がピタリと止まる。
トントンにゃー。
頭に直接響く声。
「島神様にゃ!」
長老が肉球を指して叫ぶ。
モミモミにゃー。
「お礼するにゃ!」
にゃーん♪
すかさず叫べば島神様が一面に咲き乱れた。
木々が色付き、天は晴れ渡り、空からはキラキラしたものが降ってきた様にも見える。
しかし何故か島神様以外の神様達からは爆笑が聞こえた。
『そう来たかえ。ほんに面白いのう』
遠くにいた愛しい神様が颯爽と現れた。
クツクツと笑う犬歯が可愛らしい。
『島のよ。彼らから労られたくば、独占的な囲い込みと過干渉な過保護を改めるのじゃ。それではこの者達が成長せぬであろう』
にゃー……。
島神様と私達の間に壁となって立ち塞がる愛しい神様に、島神様は口惜しそうにしている。歯軋りが聞こえて来そうだ。
『言っとくけど、これ譲歩だからねー。流石に家猫化した子達をほっぽっとく訳にいかないしさー』
「だからと言って彼等や他の種族との交流を阻害する事は罷りならん」
他の神様達からも口々に言い募られて、流石に島神様も頷くしかない様だ。顔は見えないのに悔しそうなのがアリアリとわかる。
『聞けぬならこのままその空間ごと神界に封じるかの。今ならこれだけの仲間もおる事だしのう』
わかったにゃー!
触れ合い禁止令に、島神様は見えない降参ポーズで譲歩された神界の掟を受け入れた。
こうして神様達の言い合いは一応の収束を見せた。
走っている間にも天気は変化を繰り返して、激しく雷鳴が鳴り、海方向へ幾つも落ちて行くのを見た。
しかし嵐は逆に収まり、曇天は無くなってはいないけれど道は走り易くなっていった。
そして愛しい神様を感じられる崖で立ち止まる。
「……どうやってあそこに行くにゃん?」
来る事までしか考えていなかった自分に愕然とする。
陸地の嵐は収まっているけれど、海はまだ荒れに荒れている。イカダどころか大きな船でも渡れないだろう。
そうこうしている間にも島方面はカラフルな雷が落ちては鳴り響いている。
アタフタと何か方法が無いかと思案していたら、突然島が光輝いた。突然の事に目をやられ、急いで瞑ったけれど暫く目が見えなくなる。
しかし、
「な!?何にゃ!?」
「何処にゃここ!」
「!クロウド!」
島の仲間達の声と、アッシュが私を呼ぶ声に見えない目で声の方を振り向いた。
徐々に戻る視界にアッシュや他の友人。そして母さんが映る。
「……皆……無事だったにゃ……」
折角戻った視力が涙で歪む。
「「「バカッ!それはこっちのセリフにゃん!!!」」」
揺れる叱責の言葉は、友人の温もりと共に心に溶けた。
ぎゅうぎゅうに抱き締められる。その温もりを抱き締め返す事で互いの無事を喜ぶ。
「ご飯食べれてたかにゃ?」
「ああ、島神様が猫缶いっぱい出してくれたにゃ」
「?猫缶て何にゃ?」
「丸い密閉された鉄に入ったお魚にゃ。俺達も初めて見た時は驚いたにゃ」
「島神様が保存食だから大事に食べるって教えてくれたにゃ」
「島神様の声が聞こえたにゃ!?」
「普段はカゲニテッスルけど今は有事だからって言ってたにゃ」
アッシュ達の説明にも意味はわからなかったけれど、お腹を空かせていなかったのは安心した。安心したら力が抜けてその場にヘタリ込んでしまう。
「にゃはは……今更筋肉ギシギシ言ってるにゃ」
それはそうだろうと思う。何故なら今までほぼノンストップで駆け回っていたのだ。
「クロウド……」
ヘタリ込んで情け無くも眉を下げる私の前に島の皆が集まる。
普段は腫れ物を触る様に必要最低限しか接してこない人達がだ。
「私達の為に走ってくれてたにゃん……?」
「当たり前にゃ。皆大切な友達で、仲間で、家族にゃ」
キッパリと目を見て言うと、皆はバツが悪そうに俯いた。
「俺達、クロウドは1人で逃げたと思ったにゃ」
「!?皆を見捨てたりしないにゃよ!?」
「アッシュにも怒られたにゃ。クロウドはそんな薄情な奴じゃ無いって」
シュンとする姿に耳も髭も下げてアッシュを見る。
アッシュは誇らしそうに胸を反らすと、尊大にフンと鼻息を漏らした。その横にいる友人もニンマリ笑っている。
私はアッシュ達の友情に胸が熱くなった。
「ありがとにゃ」
嬉しくて耳裏をアッシュの喉元にグリグリ擦る。
それを笑って背中を叩かれた。
「友達なら当たり前にゃ。逆の立場でも同じにゃん?」
「うん。そうだにゃ。当たり前にゃ。私もアッシュ達を信じてるにゃん」
一頻り無事と再会を喜び落ち着いた頃合いで今までの事を皆に話した。
其々「ううむ」と腕を組んだり、空を仰いだりと悩みを見せている。
「そうだったにゃ」
「大切な事なのに気付かなかったにゃ」
けれども私が言いたい事はわかってくれた様だ。
「島神様にお礼するにゃん!」
「そうだにゃ!ずっと貰ってばかりだったにゃ!」
「島神様だって拗ねちゃうにゃん!」
息巻く仲間達に私はウンウンと頷く。
「問題は何をしたら良いのかにゃ?」
問われた事に皆が「う~にゅ」と腕を組んで唸りを上げる。
「お魚あげるにゃか?貰ったら嬉しいにゃん」
「神様はご飯食べにゃい」
「毛糸玉いっぱいあると楽しいにゃん」
「島神様はどうやって遊ぶにゃ?」
「またたびは?」
「島にいっぱい生えてるにゃ」
「じゃあ猫じゃらしもダメにゃねー」
いっぱい良い案が浮かぶけれど、そのどれもが島神様には不要に思えてしまう。
大人達が首を捻らせる下で、話を聞いていた仔共達が耳をピョコンとさせて前に出て来た。
「お肩トントンするにゃ?」
女の仔がお父さんの腰をトントン叩いて言った。
お父さんはとても気持ち良さそうだ。
「お肩トントン?」
「肩揉み?」
「マッサージ?」
ポツリ、ポツリと繰り返される言葉。
確かにと思う。年長者程肩揉みは喜ばれる。
ましてや島神様は私達を始終抱えてくれているんだ。きっととっても肩凝りな筈。
皆同じ事を思ったのか、一斉にハッとして島を見た。
「「「島神様―――!いつもありがとーにゃー!
お礼にお肩トントンするから落ち着いて欲しいにゃー!」」」
そして肉球をメガホンにして一斉に呼び掛けた。
それが届いたのか雷がピタリと止まる。
トントンにゃー。
頭に直接響く声。
「島神様にゃ!」
長老が肉球を指して叫ぶ。
モミモミにゃー。
「お礼するにゃ!」
にゃーん♪
すかさず叫べば島神様が一面に咲き乱れた。
木々が色付き、天は晴れ渡り、空からはキラキラしたものが降ってきた様にも見える。
しかし何故か島神様以外の神様達からは爆笑が聞こえた。
『そう来たかえ。ほんに面白いのう』
遠くにいた愛しい神様が颯爽と現れた。
クツクツと笑う犬歯が可愛らしい。
『島のよ。彼らから労られたくば、独占的な囲い込みと過干渉な過保護を改めるのじゃ。それではこの者達が成長せぬであろう』
にゃー……。
島神様と私達の間に壁となって立ち塞がる愛しい神様に、島神様は口惜しそうにしている。歯軋りが聞こえて来そうだ。
『言っとくけど、これ譲歩だからねー。流石に家猫化した子達をほっぽっとく訳にいかないしさー』
「だからと言って彼等や他の種族との交流を阻害する事は罷りならん」
他の神様達からも口々に言い募られて、流石に島神様も頷くしかない様だ。顔は見えないのに悔しそうなのがアリアリとわかる。
『聞けぬならこのままその空間ごと神界に封じるかの。今ならこれだけの仲間もおる事だしのう』
わかったにゃー!
触れ合い禁止令に、島神様は見えない降参ポーズで譲歩された神界の掟を受け入れた。
こうして神様達の言い合いは一応の収束を見せた。
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