獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
305 / 368
本編

クロの回想 続きの7

しおりを挟む
 図書館には食べる所が無いらしく、役場で配給された物を食べる。食べながら読んだものについて話し合う。

 「何かあったか?」
 
 ガリオンの問い掛けに私は首を横に振った。

 「有名な神族からレアな神族までの図鑑ばかりだったにゃ。島神様の資料は詳しい事は書かれていないし、愛しい神様に至っては載ってすらいなかったにゃん」
 「神族の本なんて図鑑か物語ばかりだからな。俺の方もサッパリだ」

 聞くと歴史書にも災害の酷さが書かれている位で、それを収めた話は今の所見つかっていないそうだった。

 「よう」

 進展のない話に項垂れていると、冒険者達から情報を集めていた人族が片手を上げてやって来た。
 
 「ようリッツ、その様子じゃ良い話聞けたらしいな」

 ガリオンが手を上げて返し、ニヤリと笑った。
 リッツと呼ばれた人族は頷いて空いていた席に座る。

 「俺達は運が良い。偶々有名は旅の冒険者チームがいた」
 「旅の冒険者は情報通が多いと聞くが矢張りそうなのか」
 「ああ、何でも遠い昔に、ここより遠い地で1人の女性を巡る争いが起きて甚大な被害を齎したらしい。あまりの酷さに女性が仲間達と力を合わせて他の神々に請い願ったんだ。するとその悲痛な声を聞いてくれた力ある神族が仲介に入り、その場を収めてくれたらしい」
 「まるでどっかの国の教会みたいな話だな」

 教会とは神族を祀る組織らしい。島神様を大切にしている私達も教会になるのだろうか。

 「その国の話だ。そもそも教会とやらが出来るきっかけとなった話で、以来その助けてくれた神族を祀ってるんだと」
 「へえ?じゃあその神族はそこに住んでるのか」
 「いや、その神族は遠の昔にその地を離れたんだが、教会だけが力を持ってしまったらしいぞ。というか、その神族が離れたきっかけが教会の有り様が嫌な風に変わってしまったからだと、冒険者達の間では有名らしい」
 「うわぁ。まあ、そりゃ初めの人達は鬼籍に入ってもういないだろうし、残った人達が同じ訳ないからな」

 うんうんと頷くガリオンにリッツ。この街には神族がいないのだろうか。
 疑問に思い首を傾げているとガリオンが困った様に笑った。

 「普通は神族ってのは人前に滅多に現れないんだよ。俺達とは有り様が違うからな」
 「島神様はいつでも側にいるにゃん」
 「あそこはな……まあ、そういう神族もいるってだけで。てかそれ止めさせようとして神族同士の言い争いという名の災害が起きてるんだろ」
 「うにゅ。困ったにゃん」

 項垂れて目の前の冷めたお茶を見つめる。猫舌には丁度良い温度になっただろうか。落ち着ける為にも少しづつ飲んだ。その間にも解決案が目の前で繰り広げられている。それを掻い摘んで考えれば、

 「要は他の神様にお話聞いて貰うにゃ」

 という話に落ち着くと思う。

 「だがその他の神族が何処にいるかが問題なんだよ」
 「?昔の人達は探してお願いしたにゃん?その間争ってた神様達も付いて来てたにゃか?」
 「うん?いや、んな訳、無い。か?」
 「だよな?て事は祈る場所は何処でも良いって事か!」
 「そうだよ!神族達は耳で言葉を聞いてる訳じゃないって書いてあった!心の声を聞くんだ!」

 ガリオンとリッツが天啓を得たりと喜色を描き、ガタン!と勢い良く立ち上がった。私も飲み易くなったお茶を飲みながら神様に願う。

 「島神様と愛しい神様の仲直りのお手伝いして欲しいにゃん」

 届くかわからない願いに、耳をピクピクさせてしまう。
 島神様にお願いする時はお願いと言えば叶えてくれた。他の神様にそれが通じないとは思わなかった。
 ふと視線を感じて目線を上げればガリオンとリッツと司書が引いた目で私を見ていた。
 意味が分からず首を傾げる。

 「うん。まあ、あの島の奴だからな」
 「せめて場を設けるとか無かったのかな」
 「極めて珍しいですね。是非詳しく聞いて文献に残したいものです」

 言いたい事はわからないが、何か他とは違う事をしていたのだと感じた。島で外へ行きたいと言った時の皆の反応と似ていたから。
 ちょっと悲しくなって耳と尻尾が下がってしまう。

 「あ!いや!全然悪くないからな!?」
 「そうそう!猫獣人族がやるとなんか癒されるしな!?」
 「それを言うなら犬獣人族もそうですよ」
 「あれだ!要はモフモフは癒しだから良し!」

 悲しんだのが伝わったのか、人族達は慌ててフォローしてくれた。それにホッコリと嬉しくなって笑みが溢れる。

 「取り敢えず、礼儀も必要だと思うし、俺達流のやり方で場を作るがそれでも良いか?」
 「勿論にゃ」

 確かに今の願いが聞き届けられたかわからない。少なくとも今はまだ外の様子は変わっていなかったのだから。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...