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本編
長旅を終えて
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ドーナツ島から幾つもの港に立ち寄り、三巳達は今目的の島を目の前にしています。
「ここまで2ヶ月かー。船旅って長いんだなー」
見えてきた島影を良く見えるように、手を目の上に当てて身を乗り出した三巳が感慨深く言いました。
「それが船旅の醍醐味でもあるけれどね。けれども今回は最短で着いていると船長さんが言っていたよ」
「そいえば途中の港も段々と停泊期間が長くなってたんだよ」
「ふふふ、そうだねぇ。船に乗る人達は出港日を目安に行動するからそれより早くは出れないんだよ」
「それもそうかー」
のんびりのびのびまったりと会話をするクロの横で、美女母が溜め息を吐きます。
「やっと本性に戻れるのう。前は乗り継ぎ旅だった故、斯様に長い事人型を取ってはおらなんだ。流石に些か肩が凝りそうだ」
「三巳の山へ行く迄は町や村を数十年単位で転々としていたからね。愛しいひとには無理をさせてしまったかい?」
「いや。クロの為ならば何て事は無いわ」
眉を下げるクロに美女母は甘える様に絡んでいる腕に更にスリ寄ります。それが本当に幸せそうのでクロも一安心です。
(そもそも母ちゃん獣神だから肩なんて凝らないんじゃないか?)
美女母とは逆のクロの横で三巳は思いましたが、自身の安寧の為に言葉にするのは差し控えました。空気は読めない三巳ですが、言ったらまた変な試練与えられそうだと危惧したのです。
「前は巡回船じゃないの使ったのか?考えたらそっちと陸路で行った方が早かったりしないのか?」
クロの話にふと思った三巳はそのまま聞いてみます。
すると美女母が目を眇めてきました。
それにビクッと肩を揺らす三巳です。耳も尻尾も緊張でピン!と立ち上がります。
「成る程のう。地理や世界情勢を知らぬとそういう発想に成るのかえ」
その言葉に引き篭もり体質の三巳はザワザワッと毛を揺らし警戒を顕にします。
「し、知らなくても良い事は知らなくても良いと思います」
クロに近寄り身を護りたい三巳ですが、現状それをすると美女母にも近付く事になるのでジリジリと離れてみます。
「人の世などは知らぬとも良いがの。大まかな地理位は把握して欲しいものよのう」
「知らないと不都合あるのか?」
ゴクリと唾を飲み込む三巳に、美女母は一瞬瞳孔を細くし、そして凪いだ顔になりました。
「特には無いの。我が娘が世間知らずだと我が恥ずかしいだけじゃ」
世界をあちこち散歩して回る神狼なので、実は地理にも世界情勢にも詳しかったりするのです。それ故にその娘があまりにも無知過ぎて怒りを通り越して心に寒い風が吹き抜けるのでした。
「三巳は山の事なら詳しいんだよ!山以外にも海にも漁しに行く事もあるし、ちょっとそれより遠出する理由が無かっただけなんだよ!これから!これからだから!」
問題がある訳で無いと知った三巳は、ここぞとばかりに言い募ってみます。チラチラッとクロを見て援護要請も忘れません。
「そうだねぇ。何も知らないという事はまだ真っ新な状態に、これから愛しいひとと私とで色々な色を教えていけるという事。それはとても楽しみでやり甲斐があるねぇ」
「それもそうよの」
クロの声は鶴の一声です。
あっさり頷く美女母に、三巳は安堵の息を吐きました。
「ああ、ほら着岸するよ」
話しているうちに島はもう目と鼻の先にありました。
しかしクロの言葉を裏付ける様に、港らしきものはおろか、町すらも見当たりません。
「うにゅう?岩壁しかない」
近付けど近付けど大なり小なりの港は見えず、到頭船は岩壁に沿って停泊してしまいました。
三巳はこの後どうするのかわからずにキョロキョロします。けれどもわかっていないのは三巳だけでした。
そうこうしている内に船長が何やら魔法を練り始めます。そしてその魔法を空高くに向けて放ちました。
いきなりの事でビックリ仰天した三巳は、目を大きく開けて毛を膨らませます。
「な!?何してるんだよ!?」
驚きながら放たれた魔法の行く末から目が離せません。
魔法は高く高く上がりきった所で「ポン!」と小気味良い音を出して弾けました。
見た目は花火大会や体育祭が始まる時に良く上がる煙玉っぽい花火です。号砲の「ドン!」という音より優しいそれが立て続けに3回、白、赤、緑と色を変えて弾けます。
「す、凄いんだよっ。どうやってやるんだ?村にも取り入れたいっ」
ワクワクソワソワするその見た目に、三巳の尻尾がはち切れんばかりにぶわっさぶわっさと振られています。目もキラキラに輝かせて大きく開かれています。
船長を尊敬の眼差しで見ていると、島からも魔法の気配がしたので振り向きました。
すると島の中程から同じ魔法が立て続けに3回弾けて小気味良い音を返しています。けれども色は白、オレンジ、青と違います。
更に増えた色のバリエーションに三巳の興奮は頂点に達するのでした。
「ここまで2ヶ月かー。船旅って長いんだなー」
見えてきた島影を良く見えるように、手を目の上に当てて身を乗り出した三巳が感慨深く言いました。
「それが船旅の醍醐味でもあるけれどね。けれども今回は最短で着いていると船長さんが言っていたよ」
「そいえば途中の港も段々と停泊期間が長くなってたんだよ」
「ふふふ、そうだねぇ。船に乗る人達は出港日を目安に行動するからそれより早くは出れないんだよ」
「それもそうかー」
のんびりのびのびまったりと会話をするクロの横で、美女母が溜め息を吐きます。
「やっと本性に戻れるのう。前は乗り継ぎ旅だった故、斯様に長い事人型を取ってはおらなんだ。流石に些か肩が凝りそうだ」
「三巳の山へ行く迄は町や村を数十年単位で転々としていたからね。愛しいひとには無理をさせてしまったかい?」
「いや。クロの為ならば何て事は無いわ」
眉を下げるクロに美女母は甘える様に絡んでいる腕に更にスリ寄ります。それが本当に幸せそうのでクロも一安心です。
(そもそも母ちゃん獣神だから肩なんて凝らないんじゃないか?)
美女母とは逆のクロの横で三巳は思いましたが、自身の安寧の為に言葉にするのは差し控えました。空気は読めない三巳ですが、言ったらまた変な試練与えられそうだと危惧したのです。
「前は巡回船じゃないの使ったのか?考えたらそっちと陸路で行った方が早かったりしないのか?」
クロの話にふと思った三巳はそのまま聞いてみます。
すると美女母が目を眇めてきました。
それにビクッと肩を揺らす三巳です。耳も尻尾も緊張でピン!と立ち上がります。
「成る程のう。地理や世界情勢を知らぬとそういう発想に成るのかえ」
その言葉に引き篭もり体質の三巳はザワザワッと毛を揺らし警戒を顕にします。
「し、知らなくても良い事は知らなくても良いと思います」
クロに近寄り身を護りたい三巳ですが、現状それをすると美女母にも近付く事になるのでジリジリと離れてみます。
「人の世などは知らぬとも良いがの。大まかな地理位は把握して欲しいものよのう」
「知らないと不都合あるのか?」
ゴクリと唾を飲み込む三巳に、美女母は一瞬瞳孔を細くし、そして凪いだ顔になりました。
「特には無いの。我が娘が世間知らずだと我が恥ずかしいだけじゃ」
世界をあちこち散歩して回る神狼なので、実は地理にも世界情勢にも詳しかったりするのです。それ故にその娘があまりにも無知過ぎて怒りを通り越して心に寒い風が吹き抜けるのでした。
「三巳は山の事なら詳しいんだよ!山以外にも海にも漁しに行く事もあるし、ちょっとそれより遠出する理由が無かっただけなんだよ!これから!これからだから!」
問題がある訳で無いと知った三巳は、ここぞとばかりに言い募ってみます。チラチラッとクロを見て援護要請も忘れません。
「そうだねぇ。何も知らないという事はまだ真っ新な状態に、これから愛しいひとと私とで色々な色を教えていけるという事。それはとても楽しみでやり甲斐があるねぇ」
「それもそうよの」
クロの声は鶴の一声です。
あっさり頷く美女母に、三巳は安堵の息を吐きました。
「ああ、ほら着岸するよ」
話しているうちに島はもう目と鼻の先にありました。
しかしクロの言葉を裏付ける様に、港らしきものはおろか、町すらも見当たりません。
「うにゅう?岩壁しかない」
近付けど近付けど大なり小なりの港は見えず、到頭船は岩壁に沿って停泊してしまいました。
三巳はこの後どうするのかわからずにキョロキョロします。けれどもわかっていないのは三巳だけでした。
そうこうしている内に船長が何やら魔法を練り始めます。そしてその魔法を空高くに向けて放ちました。
いきなりの事でビックリ仰天した三巳は、目を大きく開けて毛を膨らませます。
「な!?何してるんだよ!?」
驚きながら放たれた魔法の行く末から目が離せません。
魔法は高く高く上がりきった所で「ポン!」と小気味良い音を出して弾けました。
見た目は花火大会や体育祭が始まる時に良く上がる煙玉っぽい花火です。号砲の「ドン!」という音より優しいそれが立て続けに3回、白、赤、緑と色を変えて弾けます。
「す、凄いんだよっ。どうやってやるんだ?村にも取り入れたいっ」
ワクワクソワソワするその見た目に、三巳の尻尾がはち切れんばかりにぶわっさぶわっさと振られています。目もキラキラに輝かせて大きく開かれています。
船長を尊敬の眼差しで見ていると、島からも魔法の気配がしたので振り向きました。
すると島の中程から同じ魔法が立て続けに3回弾けて小気味良い音を返しています。けれども色は白、オレンジ、青と違います。
更に増えた色のバリエーションに三巳の興奮は頂点に達するのでした。
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