獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

吟遊詩人

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 波も穏やかな静かな海の夜に、ポツリと浮かぶ船だけが賑やかな光が灯っています。
 食堂に船客や休憩中の船員が集まって食事を楽しんでいるのです。

 「ブラインもう大丈夫なのか?」

 三巳は昼までダウンしていた筈のブラインに声を掛けて近くの席に座ります。
 ブラインはパーティメンバーと楽しく食事を楽しんでいました。昼間の具合悪さは感じません。

 「おうよ。三巳ちゃんに心配掛けさせちまったし、コリアンナの歌が聞けるってんで気合いで治した!」
 「病は気からって言うけど、壊血病もそうだっのか……」

 医学会もビックリな回復力に、三巳はビックリするのと関心するのとで目をパチクリさせます。

 「それよか楽しみだな。どんな歌が聞けるんだか」

 お酒を片手にツマミを食べながら言う姿に、三巳は本当に元気だと実感して一安心です。
 安心したらお腹が空いてきました。

 「今日のご飯はなんだろー」

 船の食事は数種の決まったメニューと日替わりメニューがあります。船に積める食材は限られているのでその中でやりくり出来るメニューになっているのです。
 三巳は大抵日替わりを頼んでいました。

 「私は焼き魚定食を」

 クロは何時も魚中心のメニューです。

 「我には酒と何かツマミを持って参れ」

 皆がいるので人型の美女母ですが、人型といえども本来食事を必要としていません。けれども一応人目を気にして軽く食べています。

 「母ちゃん本当に食べないなー」
 「三巳も本来は食べずとも良いのだがな。赤児の時からほんによう食べるのう」
 「うぬ?ご飯美味しいんだよ」
 「まあ、クロと三巳の料理が美味なのは認めるがの」
 「ふふふ、私の料理は何時も沢山食べてくれて嬉しいよ」
 「当たり前であろう。クロの愛が篭っておるのだから残さず平らげようぞ」

 食事の前にイチャイチャしだした両親に、三巳は食べる前からお腹いっぱいになった気分になりました。

 「あっ、コリアンナだっ」

 胸焼けしそうで胸を押さえていた三巳ですが、ステージにコリアンナが立ったので注目します。
 コリアンナは薄くてヒラヒラな砂漠の踊り子と羽衣を合わせた様な服装を着て、両手足首に鈴が付いています。
 室内が少し暗くなり、照明がコリアンナに集中しました。

 「遠い地。隠されし丘。風集う大地に愛恵む」

 歌い出したコリアンナは、歌に合わせて踊ります。
 すると鈴がシャンシャンシャラリとメロディを奏でました。
 吟遊詩人の歌は語り掛ける様な歌い方で、三巳が良く口遊むテンポの良い歌い方とはまるで違います。
 童話の様な、民謡の様な、それでいてポップさも失わないメロディは、聞いた人の興味を引くには十分でした。

 「しなやかな民。金色の穂をなびかせ、水流に戯れ暮らす。
 気紛れな風。降り立ち、穂を駆け、滴りに身を置く。
 やがて出逢いし民と風。惹かれし想いを紡ぎゆかん」

 どうやら愛の歌の様だと気付いた三巳は、何となくクロを見て、そして美女母を見ました。
 2人は頬を染めて寛ぎ懐かしむ様に聞き入っています。

 (母ちゃんと父ちゃんの話じゃないよな?)

 三巳は思いましたが、

 「船乗りの歌か」

 隣の席のブラインがお酒をグビリと飲んで言いました。少し酔っている様です。

 「愛の歌じゃないのか?あとブラインは朝まで病人だったんだからお酒控えて欲しいんだよ」
 「良いじゃねぇか。歌姫の歌を聴きながら飲む酒が美味いんだよ」
 「三巳ちゃん。ブラインは自分の事には意固地だから気にしないでね。
 それとこの歌は巡る島に恋焦がれる船乗りの歌なの。海に恋してるって言えばそうだから愛の歌でも間違いないわ」

 エイミーの説明に三巳はビックリ仰天です。思い切り両親を仰ぎ見るくらいにビックリです。

 「え?え?だって、歌詞が、そんなじゃないよーな気が……」

 口をパクパクさせて言うと、クロは照れた様にハニカミんでいます。

 「そうか?最初の歌詞はまだ見た事のない未開の地へ、風の導きで辿り着くって事だろ?」

 混乱する三巳を他所にブラインはコリアンナの歌を聴き入りながら言います。

 「そ、そう言われると、そうかも?」

 ブラインの解説には説得力を感じられ、三巳は納得出来てはいないけれど頷きました。
 その後も何だか両親の恋の歌っぽく感じられる歌詞が散りばめられていましたが、その全てをブラインや他の船客達に解説され、三巳は不思議に思いながらも船乗りの歌として納得した気持ちになるのでした。
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