獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
264 / 368
本編

テーマパークを楽しもう♪

しおりを挟む
 三巳達は今、海辺の綺麗な街並みを歩きながらウィンドウショッピングをしています。

 「ここは海の雑貨屋さん。海岸で拾った物で作ってるんだよ」
 「とてもキラキラしていて綺麗だねぇ」

 美女母やクロが気になるお店を見つけては中へと入って行きます。
 今はクロが気になった雑貨屋さんにいます。
 店の入り口には沢山のアクセサリーが飾ってあり、太陽光を反射して色とりどりに輝いています。その中へ入ればこれまたキラキラした物が見栄え良く飾られていました。

 「これは何で出来ているのだろう。色があるのに透明だよ」
 「うにゅ?そいえば何だろな。ガラスは有っても街じゃ貴重品ってオーウェンギルド長が教えてくれたんだよ」

 地球の様な大量生産はこの世界の工場ではまだ出来ません。破片が海を流れてきてもそれはごく少量でしょう。
 三巳は改めて不思議に思い、首を傾げました。

 「これは玻璃貝の破片だ」

 代わりに教えてくれるのはレオです。
 グランにいる間は三巳がレオと離れたがらないので一緒にいてくれています。

 「玻璃貝とは珍しいねぇ」

 クロがその透明感に納得します。
 けれども殆ど山から出ない三巳は知らない名前でした。

 「玻璃貝ってどんな貝なんだよ?」
 「明るい昼間が長く、熱い地域の限りなく透明度の高い海にのみ生息している貝だな。全身を透明にする事によって外敵から身を隠していると言われている」
 「へー!凄い!見つけたい!」

 レオの説明に三巳がキラキラした目で尻尾を振ります。

 「それじゃあ海で遊ぶ時は貝探しをしてみようか」

 すかさずクロが提案すれば三巳の視線はクロに移ります。

 「ほんと!?やったー!いっぱい探すんだよ♪」
 「ふふふ。取れたら持って帰って玻璃貝のランプを作ってみよう」

 クロはそうと決めればと手に持つ玻璃貝製のお皿を良く観察しました。継ぎ接ぎ部分をどうしているのか見ているのです。

 「ふむ。なれば参考用に買っていくかの」

 クロの為ならば何も惜しまないのが美女母です。
 壁に飾られているアクセサリーからクロに合う物を見繕い買ってきます。そしてそれはクロの黒い三角お耳に着けられたのです。
 クロは耳に着けられたリングを触り、そしてそこから垂れる丸い球体に触れました。

 「愛しいひと」
 「うむ。クロによう似合うておる」

 突然のプレゼントにクロは破顔し喜びを露わにします。
 耳をピピクと揺らせば耳に着けられた球からチリリンという涼やかな音色が聞こえてきます。

 「ありがとう。とても嬉しい。帰ったら頑張って作るから愛しいひとも着けてくれるかい?」
 「勿論だとも。とても楽しみだ」

 またもや始まったイチャイチャです。
 しかし今の三巳は止めません。

 「良いなーアレ。三巳もレオに何かプレゼントしたいんだよ」

 何故なら今はレオが側にいるからです。
 隣でレオの裾を握って見上げてくる三巳に、レオは虚を衝かれました。

 「俺にか」

 少し前にバレンタインチョコを貰ったばかりで寧ろ自分こそ何かを返したい所です。
 レオはふむと考え店内を見ました。そして美女母が見ていた壁を見ます。そこに掛けられたイヤリングやピアス達を。

 (いや。恋人でもないのにそれはねぇな)

 レオにとって耳に着ける飾りは愛の象徴に見えました。直前の美女母を見ていたから余計かもしれません。

 「まだ見たい店はあるだろ。ゆっくり見て回ろうぜ」
 「んにゅ?にゅーん。そだな。母ちゃんと違うの探すんだよ」

 という事で次を目指して出発です。
 脳内マップを開きながら指差し向かう場所はジュース屋さんです。
 春とはいえ南国の暑い日差しは相変わらず体力を使います。喉も渇くので行きつけのお店でココナツジュースを2つ買いました。

 「結構量があるから半分こして飲もー。母ちゃんは父ちゃんとな。レオは三巳とで良ーか?」
 「ああ構わないぜ」

 レオは簡単に了承します。きっと前に来た時と同様に殆どを三巳に飲ませてあげる気でしょう。

 「この先に良い感じの木陰があるんだよ」

 日差しを避けるのに散々お世話になった木です。
 ココナツジュースを持って向かえばそこには前回無かった物がありました。

 「およ?椅子がある……」
 「去年毎日の様にそこで伸びてる毛溜まりがいたからな。住人も涼みに来る様になったって話だ」

 人が集まれば増える物もあるでしょう。椅子はその一つに過ぎません。
 三巳は去年の伸び伸びな自分を思い出してホッペをポッと赤くしました。

 (皆気にしてくれてたのかな?)

 チラリと周囲を見れば和やかに涼んでいる人達が何人もいました。
 そして三巳と目が合うと気軽に手を振ってくれます。
 三巳もそれに手を振り返し、空いている椅子に座りました。

 「折角だから座って飲もう」
 「そうだね三巳」

 三巳の隣にクロが座り、その更に隣に美女母が座ります。
 4人掛けの椅子はあと1人分空いています。丁度三巳を挟んでクロとは反対側です。

 「レオも座るんだよ」

 三巳がポシポシと椅子を叩いて催促します。
 木に背を預けようと思っていたレオでしたが、ここでそれをすると三巳の尻尾がシオシオと垂れそうだと推測ができます。なので大人しく隣に座ってくれました。
 隣にレオが座ってくれて嬉しい三巳はニコーッと笑みを深めます。

 「最初にどーぞ♪」

 そしてレオに先にココナツジュースを渡しました。

 「そりゃどーも」

 レオは軽く片方の口端を上げて笑みを作って受け取ります。そしてひと口飲み、三巳に返しました。

 「ありがとな」
 「うにゅ?もっと飲んで良いんだよ」

 直ぐに返されたココナツジュースを三巳はレオに押し付ける様に突き出します。

 「今はそんなに渇いてねえから三巳が飲みな。それに俺はいつでも飲みに来れるし、な」

 レオに頭を撫でられ三巳は耳をピクピク動かします。

 「にゅ。それじゃ遠慮なく」

 本当に遠慮をしない三巳は美味しそうに残ったココナツジュースをゴクゴク飲んでご満悦になるのでした。

 「まるで兄妹のようじゃの」
 「そうだねぇ」

 そしてそれを横目で見ていた両親は苦笑を漏らすのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...