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本編
クロとレオ
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今、ジャングルに冷たい風が這い寄っています。
「やあ、君がレオ君だね。三巳のお友達の。うちの子と仲良くしてくれてありがとう」
クロがニコリと微笑み手を差し出して言っています。握手の構えです。
それに対しレオは人型になってその手を握りました。握手の文化がわかっていたのです。
「いや、仲良くして貰っているのはこちらだろうな。随分と友好的な獣神が誕生したもんだ」
下町が似合う獣神にレオも随分と気を許しています。
そして三巳と友人という認識でいるのはレオも同じです。まさかクロが将来娘を連れて行く存在だと危惧しているとは思ってもいません。
嫌味の無いニッとした笑みに、クロも拍子抜けしました。
(この分じゃ三巳のお嫁さん行きはまだまだ心配なさそうだねぇ)
もう少し家族団欒を楽しめそうだと安堵したクロも、今度こそ心の底から微笑みを浮かべてレオの手を握り返しました。
対して母獣は嘆息しています。
(やれやれ。友好的も過ぎれば神界より沙汰が下りそうなのだがな。まあリファラの民とごく一部を除いて獣神という事は伏せておるようだしの。この程度なれば何とかなるかのう)
母獣は三巳が独り立ちする時に世界を脅かさないようにと注意をしていました。地上の生き物達と深く関わると、本神の意図しない所で諍いの元になる事があります。母獣はそれを危惧しています。
今の所は神の威光を笠に着て諍いを起こそうとする者も、守護神として利用しようとする者も現れていません。それでも母獣はまだ暫く三巳の行動と周囲の動きに注意が必要だと思いました。
とはいえ三巳は多分一応立派に成神しているのです。少なくとも本人はそのつもりです。なので今更あれこれ言う気もありません。
『レオと言うたか。三巳の行動が過ぎるようであらば叩いて構わぬ。我等が見れぬ時は頼むぞ』
「母ちゃん!?三巳ももういい大人なんだよっ。そんなお酒飲んでハメを外すみたいなことなんて……」
まるで小さい子供扱いに三巳は耳と尻尾を上げて抗議します。しかしその勢いは徐々に失われていきました。
何故なら……。
(いやまあ。社会人に成り立ての頃の飲み会でやらかしたこともあったかも?いやいやでもそんなの若気の至りだしなっ。三巳もお婆ちゃん経験したし、体は兎も角心はちゃんと分別付く年頃だもんなっ。大丈夫!多分!……きっと……)
心の中で言い訳を巡らせましたが結局心の中も尻すぼみになりました。三巳は自分の精神年齢が姿に影響をとてもよく受けていることを理解していないのです。
結果母獣だけでなくレオからも信用の置けない目で見られるのでした。
「さあ。時間も惜しいから進もう」
何とも言えない気まずい空気の中、クロだけは朗らかに手を打ってジャングルを示しました。
三巳は二対の視線から逃れるべく、一も二もなくクロの腕に飛び付き先へと足を進めます。
三巳に腕を引っ張られて歩くクロはとても嬉しそうに尻尾を揺らしています。
母獣とレオは仕方がないなという呆れた顔でその後に続くのでした。
レオの案内で進むジャングルは安全に通り過ぎ、グランへあっという間に辿り着きました。
相変わらずテーマパークを思わせる入り口に三巳のテンションが上がります。
「チケット買いたくなるんだよ」
無いのはもうわかっていますがついキョロキョロしちゃいます。
「イラッシャイー。ヨク来タネー。今日ハパパトママト一緒カー」
入り口へやって来ると以前と同じ人が出迎えてくれました。その視線は三巳の横にいる人型になった美女母とクロに注がれています。
「うぬ。お邪魔しますなんだよ」
門番さんと挨拶をしていざ入国です。
通りを歩けば山には無い景色と香りに美女母とクロもワクワクしてきます。
「そいえば父ちゃんあちこち引越ししてたんだよな?グランは初めてなのか?」
「そうだよ。ここはジャングルか海を通らないと来れないからね」
「まさか本性で来てはクロが住み辛くなろう。特段来ねばならぬ理由もない故来てはおらなんだな」
という訳で2度目ましてな三巳が張り切ってグランの観光案内を買って出ました。
先ず向かうは入り口近くにあるカフェです。
「ここはココアだけじゃなくてフルーツパフェも食べれるんだよ。アイスが無いのが残念だけどとってもカラフルで美味しいからオススメなんだよ」
カフェの入り口には木の板に手描きでパフェの絵とお店の名前がお洒落に描かれています。
三巳が看板を指差していると店内から男の人が出て来ました。白い街並みに黒のエプロンが良く目立つ出立ちです。
「店長さん今日わ」
「久シ振リネ。元気シテタカ」
気安く手を振ってくれたのは昨年に顔見知りになったカフェの店長です。
「うにゅ。今日は母ちゃんと父ちゃんも一緒なんだよ。家族旅行なんだよ」
三巳は嬉しそうに尻尾を振りながら両親を紹介しました。
「三巳チャントテモ良イ子ネ。マタ会エテ嬉シイヨ。何カ食ベテクイイ」
両親と店長が大人の挨拶を済ませると、早速店内へ誘われました。
「にゅ!デラックスフルーツ盛り合わせパフェある!?」
「勿論ヨー」
という訳で初っ端から飲食開始です。
パフェはクロもとても気に入ってくれました。
食べながらもグランの観光案内を休みません。次に向かう場所を話しながら順番を計画していきます。手元に園内マップは有りませんが気分はテーマパークに遊びに来ている感じです。
「それじゃあ次の場所に行こー♪今回時間は有限だからサクサク行くんだよ!」
グランでの滞在期間は3日の予定です。
それまでに紹介したい場所や人はいっぱいですし、家族で海遊びも堪能したい三巳の計画は大忙しなのでした。
「やあ、君がレオ君だね。三巳のお友達の。うちの子と仲良くしてくれてありがとう」
クロがニコリと微笑み手を差し出して言っています。握手の構えです。
それに対しレオは人型になってその手を握りました。握手の文化がわかっていたのです。
「いや、仲良くして貰っているのはこちらだろうな。随分と友好的な獣神が誕生したもんだ」
下町が似合う獣神にレオも随分と気を許しています。
そして三巳と友人という認識でいるのはレオも同じです。まさかクロが将来娘を連れて行く存在だと危惧しているとは思ってもいません。
嫌味の無いニッとした笑みに、クロも拍子抜けしました。
(この分じゃ三巳のお嫁さん行きはまだまだ心配なさそうだねぇ)
もう少し家族団欒を楽しめそうだと安堵したクロも、今度こそ心の底から微笑みを浮かべてレオの手を握り返しました。
対して母獣は嘆息しています。
(やれやれ。友好的も過ぎれば神界より沙汰が下りそうなのだがな。まあリファラの民とごく一部を除いて獣神という事は伏せておるようだしの。この程度なれば何とかなるかのう)
母獣は三巳が独り立ちする時に世界を脅かさないようにと注意をしていました。地上の生き物達と深く関わると、本神の意図しない所で諍いの元になる事があります。母獣はそれを危惧しています。
今の所は神の威光を笠に着て諍いを起こそうとする者も、守護神として利用しようとする者も現れていません。それでも母獣はまだ暫く三巳の行動と周囲の動きに注意が必要だと思いました。
とはいえ三巳は多分一応立派に成神しているのです。少なくとも本人はそのつもりです。なので今更あれこれ言う気もありません。
『レオと言うたか。三巳の行動が過ぎるようであらば叩いて構わぬ。我等が見れぬ時は頼むぞ』
「母ちゃん!?三巳ももういい大人なんだよっ。そんなお酒飲んでハメを外すみたいなことなんて……」
まるで小さい子供扱いに三巳は耳と尻尾を上げて抗議します。しかしその勢いは徐々に失われていきました。
何故なら……。
(いやまあ。社会人に成り立ての頃の飲み会でやらかしたこともあったかも?いやいやでもそんなの若気の至りだしなっ。三巳もお婆ちゃん経験したし、体は兎も角心はちゃんと分別付く年頃だもんなっ。大丈夫!多分!……きっと……)
心の中で言い訳を巡らせましたが結局心の中も尻すぼみになりました。三巳は自分の精神年齢が姿に影響をとてもよく受けていることを理解していないのです。
結果母獣だけでなくレオからも信用の置けない目で見られるのでした。
「さあ。時間も惜しいから進もう」
何とも言えない気まずい空気の中、クロだけは朗らかに手を打ってジャングルを示しました。
三巳は二対の視線から逃れるべく、一も二もなくクロの腕に飛び付き先へと足を進めます。
三巳に腕を引っ張られて歩くクロはとても嬉しそうに尻尾を揺らしています。
母獣とレオは仕方がないなという呆れた顔でその後に続くのでした。
レオの案内で進むジャングルは安全に通り過ぎ、グランへあっという間に辿り着きました。
相変わらずテーマパークを思わせる入り口に三巳のテンションが上がります。
「チケット買いたくなるんだよ」
無いのはもうわかっていますがついキョロキョロしちゃいます。
「イラッシャイー。ヨク来タネー。今日ハパパトママト一緒カー」
入り口へやって来ると以前と同じ人が出迎えてくれました。その視線は三巳の横にいる人型になった美女母とクロに注がれています。
「うぬ。お邪魔しますなんだよ」
門番さんと挨拶をしていざ入国です。
通りを歩けば山には無い景色と香りに美女母とクロもワクワクしてきます。
「そいえば父ちゃんあちこち引越ししてたんだよな?グランは初めてなのか?」
「そうだよ。ここはジャングルか海を通らないと来れないからね」
「まさか本性で来てはクロが住み辛くなろう。特段来ねばならぬ理由もない故来てはおらなんだな」
という訳で2度目ましてな三巳が張り切ってグランの観光案内を買って出ました。
先ず向かうは入り口近くにあるカフェです。
「ここはココアだけじゃなくてフルーツパフェも食べれるんだよ。アイスが無いのが残念だけどとってもカラフルで美味しいからオススメなんだよ」
カフェの入り口には木の板に手描きでパフェの絵とお店の名前がお洒落に描かれています。
三巳が看板を指差していると店内から男の人が出て来ました。白い街並みに黒のエプロンが良く目立つ出立ちです。
「店長さん今日わ」
「久シ振リネ。元気シテタカ」
気安く手を振ってくれたのは昨年に顔見知りになったカフェの店長です。
「うにゅ。今日は母ちゃんと父ちゃんも一緒なんだよ。家族旅行なんだよ」
三巳は嬉しそうに尻尾を振りながら両親を紹介しました。
「三巳チャントテモ良イ子ネ。マタ会エテ嬉シイヨ。何カ食ベテクイイ」
両親と店長が大人の挨拶を済ませると、早速店内へ誘われました。
「にゅ!デラックスフルーツ盛り合わせパフェある!?」
「勿論ヨー」
という訳で初っ端から飲食開始です。
パフェはクロもとても気に入ってくれました。
食べながらもグランの観光案内を休みません。次に向かう場所を話しながら順番を計画していきます。手元に園内マップは有りませんが気分はテーマパークに遊びに来ている感じです。
「それじゃあ次の場所に行こー♪今回時間は有限だからサクサク行くんだよ!」
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