獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
254 / 368
本編

雪壁遊び

しおりを挟む
 学校がお休みの日もあります。
 そんな日でも子供達は仲良く集まり遊びます。
 今はディオ達に雪遊びを教えるのが楽しくて仕方ないみたいです。

 「普通の雪壁は掘ると重みで崩れて危険なんだけど、この広場のは大量に積み重ねる為に圧縮してて硬いんだ」

 ロハスに連れられてやって来たのは水場の無い広場の中でも一番広い場所です。ミオラ、ミナ、ロノロのいつもの仲良し組に、今はディオとそれからファラという同年代の女の子が一緒にいます。
 壁を叩くロハスに続いてディオも雪壁を叩きます。そしてその思った以上の硬さに目を開きました。

 「すっげ!石の壁みたいだ!」
 「だろ?でも雪は雪だから熱系の魔法でこんな風に解ける」
 「あら、子供達私達だけで魔法使ったら危ないわ」

 ファラが心配して眉を下げます。
 それにニコリと返すのはミオラとミナです。両側からファラの手を握って安心させます。

 「勿論大掛かりなのは使わないわ。そんなことしたら折角の雪壁が無くなっちゃうもの」
 「そうだよ。むしろ力を抑えて調節しないといけないから鍛錬にもなるの」
 「そういう事!俺達だけで出来る力と知恵を駆使してやる遊びだから結構高度なんだぜ」
 「成る程な。よっしゃ!やってやろうじゃん!」

 ディオはニヤリと笑って気合を入れます。そしてロハスに顔を合わせました。

 「で?どんな遊びだ?」

 何をするかもわからず気合を入れていたようです。
 ファラは呆れ、ミオラとミナはクスクス笑いました。

 「ま、見てろって。ミオラやるぞ!」
 「はいはい。任せなさい」

 両手に熱の塊を生み出したロハスの背後にミオラは付きます。そしてダイヤモンドダストを半円状に周囲に展開しました。

 「先ずは俺が解かして進むぜ」

 熱の塊を前に突き出して雪壁に向かって歩きます。すると熱に触れた雪壁がジワリジワリと解けだしました。

 「解けたら私の出番よ」

 子供の背丈より少し上位まで解けた所でミオラのダイヤモンドダストがその表面を覆います。すると解けて水っぽくなっていたのが凍りつき、カチカチに硬くなりました。

 「小さいカマクラだな。でもそれは前にも作ったろ?そりゃ雪壁で作れば楽かもだけど」

 既にカマクラは学校の校庭で作り済みです。ディオは今更感が拭えません。

 「これで終わりじゃないのよ」

 ミナがファラと腕を組んで暖を取りつつ微笑みを浮かべて言います。
 ファラも寒いのでミナで暖を取ってロハスとミオラの動向を探りました。

 「あら、本当ね。まだ先に進んでいるわ」

 ファラの言葉にミナを見ていたディオがまた雪壁を見ます。すると雪壁にポカリと空いた穴は更に奥へと深くなっていました。

 「横長のカマクラか?そりゃ一から作るには大変だけど、出来ない訳じゃないよな」

 未だに何が出来るのかわからず、ディオは腕を組んで眉根を寄せてしまいます。
 そうしている間にも穴はどんどんと深くなり、到頭ロハスもミオラも見えなくなってしまいました。
 流石に心配になってきたディオは焦り出します。

 「お、おい……。雪に潰されてるんじゃ……」

 オロオロと助けに行こうか助けを呼ぼうかと右往左往していると、全く見当違いの場所からボコリと雪壁が崩れてビックリしてしまいます。けれどもその崩れた場所から飄々とした様子のロハスが出て来て更に驚き、でもホッと安心しました。
 安心したら今度は何だか無性にムカムカしてきます。ディオは早足でロハスに近寄るとその頭をポカリと叩いてしまいました。

 「!?何す」
 「心配掛けさせんなバカ!」

 ブルブルと体を震わせ怒り顔で、でも泣きそうなディオにロハスの目が見開きます。
 未成年組にはリファラであった悲しい出来事はまだ伝えてありません。ただ親のいない子達が新しくお友達になるとしか聞いていません。
 だからロハスは何でディオがそんなに辛そうな顔をするのかわかりませんでした。

 「えっと……、悪い……」

 ポカンとしながらもディオにそんな顔をして欲しくなくて、ロハスは素直に謝ります。
 ディオも未成年組は事情を説明していないと聞いているので、仕方がないと握る拳に力が入ります。だってディオの悲しみはロハスに関係なんて無いのですから。

 (ああ、でもロハス達なら関係なんて友達なら有るとか言いそうだな)

 ふとそう思ったディオは何故か可笑しくなって自嘲気味な失笑が漏れてしまいます。
 それにロハスはアタフタと慌てて視線を彷徨わせます。そしてふと視線の合ったミオラに視線だけで助けを求めました。
 そんな視線を受けたミオラは「やれやれ」と言いたげに前に出ます。

 「私も、ごめんね。村じゃこういうの普通だから気付けなかったわ」
 「いや……。俺が大袈裟だった。そうだよな、ここは三巳の村で、ロハス達は同い年でも山の民なんだもんな。これ位で急にいなくなったりなんかしないもんな」
 「?当たり前だろ。一応三巳姉に散々遊びと称して鍛えられてるんだから」

 子供達にとって三巳への信頼が厚い様です。大人達が聞いたら慈愛の微笑みを向けられそうですが、子供達にとって三巳はまだまだ頼れるお姉さんなのです。

 (そういえばジョナサン達が三巳の遊びに震え上がっていたな。あんな怖い国の人達でも怖がるんだ、ロハス達も只者じゃないのかも)

 ディオも例に漏れず納得して頷きました。
 そして今度はロハスが出て来た穴を覗きこみます。

 「で?結局これ何なんだ?」
 「トンネルだよ。しかも迷路の」

 そうです。ロハスとミオラが作っていたのは雪のトンネルだったのです。

 「へえ?成る程面白い。どうせなら隠し通路も作ろうぜ」
 「おお!それは良いアイデアじゃん!やろうやろう!」

 こうして絶対の安心感を得たディオとファラも目一杯雪壁遊びを堪能するのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...