獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

住む場所を決めよう

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 村に名前が出来ました。
 「ヴィーナ」です。
 そしてヴィーナへの移住希望者へ住む場所の割り振りが始まりました。

 「若い夫婦と言えども雪山が初めてなら今季は年寄り連中の何処かと一緒にいなさい。そこで冬を越す為のノウハウを学んで欲しい」

 ロウ村長がテキパキとこの子はあそこの家、この家族はあそこの家とホームステイ先を決めていきます。
 親のいない子供達はそのまま養子に迎え入れる予定があるので、何回か家を変えて本人達が良いと言う家を見つける狙いもあります。
 このやり決めには三巳は完全に不参加なので、ここぞとばかりにハーフの赤ちゃんと遊んでいました。

 「いないないばー」
 「あきゃー♪きゃっきゃ♪」
 「笑ったわ!可愛い!」

 小さなお手々を握りしめて振る様に、変顔をする三巳も、一緒にいたリリもデレッと目尻が下がってしまいます。

 「背中に翼があったら仰向けで寝るのが大変そうですわね」

 ハンナが心配して言うと、三巳もリリも確かにそうだと思いました。

 『俺達は基本的にこうやって丸まって寝るから平気だ』

 モンスターのお父さん、名前はジンと名乗りました。奥さんが付けてくれたと嬉しそうに言うので釣られて三巳達もポッと顔を赤らめています。

 「ふふふ、それはとても可愛らしい寝姿なのでしょうね」
 「そうなんです。この子ったらパパの真似っ子が好きみたいで、パパが寝てると同じ姿でまん丸になって寝てるんですよ」

 奥さんことシャナがコロコロと笑って言うと、母親世代が集まり井戸端会議が始まりました。主に子供の話と旦那さんの話で盛り上がりを見せています。
 いつの間にか母獣も美女母の姿で参加していたので、三巳は聞いていられなくて耳をジンと赤ちゃんに向けて聞こえない振りをします。

 「それで、赤ちゃんは何て名前なんだ?」

 尻尾の毛先を赤ちゃんに握らせてあげながら三巳は尋ねます。
 赤ちゃんはもふもふのぬくぬくの毛並みにご満悦に「キャッキャ」と笑顔が絶えません。

 『リン。リリの名から一字貰った』
 「私?」

 ジンに目を見て言われたリリは困惑です。人様の名前に由来される程の偉業を成していないと思っているからです。

 『リリは俺達の様な存在にとってとても特別だ。その名を頂くというのはとても誉れ。でも嫌なら変えるが』

 真剣な眼差しで言われればリリも恥ずかしいから嫌とは言えません。顔をちょっぴし赤くして首を緩く横に振ります。

 「ううん。嫌じゃないわ。ありがとう大切に思ってくれて」

 はにかみながらも拒否をされなかったことでジンはホッと息を漏らします。
 名前を貰う特別さはシャナに教わりました。だから拒否されたら悲しいと思っていたのです。何せついさっき三巳が自分の名前は村に付けるなと大きく嫌がった姿を見たばかりでしたからね。

 さてはて赤ちゃんに癒されている間に住み分けは完了した様です。
 これからロダが住む場所とそこの住人との橋渡しに向かうというので、リリも元リファラの者として付いて行くことにしました。大好きな人達に囲まれて幸せそうなリリです。
 そんなリリの姿に優しく笑うロダがリリと手を繋いでいます。それだけで2人の仲の良さが知れてリファラの民は嬉しそうに笑いました。

 「姫さまも幸せを見つけられて良かったわ」

 シャナが感慨深く言い、ジンが頷き、子供達は興味深く様子を伺っています。
 そんなロダ達にオーウェンギルド長は付いて行きません。

 「ではオーウェン殿はこっちだ」

 ロウ村長に連れられて行ってしまいました。
 赤ちゃんに夢中で聞いていなかった三巳は首を傾げます。

 「オーウェンギルド長は皆と家に行かないのか?」
 「俺は支部を立ち上げに来たからな。村の外れに簡易的な受付所を建ててそこに住む」
 「おおー。でも外は寒いしもう朝は凍るんだよ?建てるの大変じゃないか?」

 三巳の心配にオーウェンギルド長は不敵な笑みを浮かべました。

 「ギルド長は腕っ節だけじゃ成れないんだぜ」

 三巳はギルド長の腕っ節の強さを見た事がありません。強いのはわかりますが。むしろリファラで見てきたのは陣頭指揮です。冒険者達に采配したり情報を集めたり人々の和を取り持ったりしていました。

 「建物建ててるの見た事ないんだよ」
 「そりゃ本格的なのはな。だがな、簡易的な小屋位なら何とでもなる。簡単に造れるし雪の高さに応じて移動も出来る。冒険者は雪山に何ヶ月も籠る事があるからな。割とそういうの出来る奴がいるんだぜ」

 そう言われて三巳も納得して頷きました。

 「それなら良いんだよ。でもずっと支部を置いとくなら春にはちゃんとしたの建てて欲しい」

 三巳の言葉にオーウェンギルド長は目を見開き、そして苦笑を漏らします。だってその言葉は神様からのお墨付きって意味に捉えられます。

 (本当にこいつは神としての自覚が無いな)

 そう思うオーウェンギルド長の横で、ロウ村長は

 「三巳の言う通りだな」

 と大きな声で笑うのでした。
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