229 / 368
本編
山の夏
しおりを挟む
ミーンミンとセミが鳴く夏がやってきました。
連日続く夏空に、子共達が元気に走り回っています。
「夏だなー」
池のある公園では足を水につけて寝転がる三巳がいました。
「これで夏とは、なんて山は涼しいのでしょう」
その隣では今日の授業を終えたハンナが立っています。
侍女として制服を汚すのは御法度だと座ることを固辞したのです。
「うみゅ。南の国は春なのにもっと暑かったんだよ」
常夏の国に比べれば山の夏など暑くもなんともないと、三巳は股下から覗かせた尻尾を振っています。半ば池に浸かっていた尻尾は振るたびに水を撥ねさせ涼やかな印象を更に強めてくれています。
「ふふふ。それはさぞ大変だったでしょう」
「うにゅ。三巳の尻尾はもっさりしてるからなー。熱が籠もりやすくて大変だったんだよ」
「三巳様は自然を大切にしておりますからね。耐えられる内は魔法も使わなかったのでしょう」
「うぬ。ギリギリだった」
ギリギリ耐えた三巳は暑さに対する耐性が出来ていたので、今年の山の夏は涼しく過ごせそうだと、のほほんとした顔をしています。
池の周りでは子供達が水を掛け合って涼を取っているのが見えます。
ハンナは元気な子供達にニコリと優しく微笑みを向けました。
「山の夏は遊び場が多くて宜しゅうございます」
「まーなー。虫取りも川遊びも楽しいし、スイカ割りも醍醐味だ」
「スイカ割りとはなんでしょうか?」
「うぬ?ハンナはやった事なかったかー」
三巳は寝転がったまま不思議そうな顔のハンナを見上げ、そして何かを思いつきました。
「にゅふー♪じゃー明日は川遊びしよー♪そーと決まればリリも誘いに行くんだよ」
ニマニマーッと笑うと楽しそうにそう言ってシュバッと立ち上がり、ハンナが何か言う間も無くタッタカ駆けて行ってしまいました。
ポツンと取り残されたハンナは直ぐに追い掛けます。そして三巳の後ろを付き従う様について行きました。
診療所に辿り着くとリリがミナミ達と楽しくお喋りしていました。
「リリー!」
そこへ突撃して輪の中に入って行きます。
「今日は三巳。ふふふ、三巳はいつでも元気ね」
勢いそのままの三巳を受け止め抱き締めて、リリはニッコリ微笑みます。そのまま三巳の耳の裏をこしょこしょ撫でてあげれば三巳の尻尾が元気良く振っています。
「うぬ。それが三巳だからなっ。それよか明日川遊びするからお誘いに来たんだよ」
「まあ!私達も丁度川遊びの話をしていたのよ。日にちは決めていなかったのだけど……」
そう言ってリリはミナミ達を見回します。
その視線を受けたミナミはニコッと笑って頷いてくれました。
「誘われたなら吉日よ。勿論行きましょ」
「そうね。明日も良い天気になりそうだし、良いんじゃないかしら」
同意の声が一つ上がる度に三巳の尻尾は元気に振られて、行こうと決まった時には高速で動くメトロノームの様にはちきれていました。
「やったー!そしたらデッカいスイカ確保して行くんだよ!そうと決まれば今の内にお願いしてくるー!」
「スイカ割りなら的は小さい方が楽しくない?」
三巳が両手を高く掲げて走り出すと、後ろからミナミに言われました。
「でもこの人数だと足りないんじゃないかしら」
「ダイジョブダイジョブ。
三巳ー!持てるだけ貰って来てー!」
リリの疑問にミナミは軽く笑って言い、そしてもう大分離れていた三巳に聞こえるように大きな声で伝えます。
勿論良く聞こえる三巳の耳はちゃんと聞こえます。
「おー!任せろー!」
振り向き大きく片腕を上げて快く請け負い、更に速度を上げて走って行きました。楽しさはワクワクを加速させてそれが行動に反映されているのです。
上機嫌の三巳はあっという間にスイカ畑へやって来ました。
畑ではタウろんが実のチェックを入念にやっています。
「こんちわー。タウろんよく働くなー。何処の畑でも見ない日は無いんじゃないか?」
『こんにちわモー。草育てるの楽しいモー。良いスイカが出来ると皆喜ぶモー』
「うにゅ。夏にスイカは欠かせないんだよ。
って事で明日川遊びでスイカ割り女子会するから小玉が数個欲しいんだよ」
『わかったモー』
タウろんは三巳から参加人数を聞いて、食べきれるだけの量に目印のリボンを巻いていきました。リボンを巻かれたスイカは丁度明日食べ頃になっていそうな物ばかりです。中にはもう食べ頃の物もあります。
このスイカ畑はタウろんがお手伝いではなく、一から自分で育てているのです。だからどのスイカがいつ頃実になって、いつ頃食べ頃になるかを把握しているのです。
「凄いなー。もう独り立ちしてるんだもんなー」
『ありがとうモー。でもお手伝いももっとしたいモー』
「おー。何だかとっても耳が痛いお話なんだよ……」
働くのが嫌では無いですが、出来れば縁側で一日中ボーッとしていたい三巳は耳を両手で塞いで遠くを見つめるのでした。
連日続く夏空に、子共達が元気に走り回っています。
「夏だなー」
池のある公園では足を水につけて寝転がる三巳がいました。
「これで夏とは、なんて山は涼しいのでしょう」
その隣では今日の授業を終えたハンナが立っています。
侍女として制服を汚すのは御法度だと座ることを固辞したのです。
「うみゅ。南の国は春なのにもっと暑かったんだよ」
常夏の国に比べれば山の夏など暑くもなんともないと、三巳は股下から覗かせた尻尾を振っています。半ば池に浸かっていた尻尾は振るたびに水を撥ねさせ涼やかな印象を更に強めてくれています。
「ふふふ。それはさぞ大変だったでしょう」
「うにゅ。三巳の尻尾はもっさりしてるからなー。熱が籠もりやすくて大変だったんだよ」
「三巳様は自然を大切にしておりますからね。耐えられる内は魔法も使わなかったのでしょう」
「うぬ。ギリギリだった」
ギリギリ耐えた三巳は暑さに対する耐性が出来ていたので、今年の山の夏は涼しく過ごせそうだと、のほほんとした顔をしています。
池の周りでは子供達が水を掛け合って涼を取っているのが見えます。
ハンナは元気な子供達にニコリと優しく微笑みを向けました。
「山の夏は遊び場が多くて宜しゅうございます」
「まーなー。虫取りも川遊びも楽しいし、スイカ割りも醍醐味だ」
「スイカ割りとはなんでしょうか?」
「うぬ?ハンナはやった事なかったかー」
三巳は寝転がったまま不思議そうな顔のハンナを見上げ、そして何かを思いつきました。
「にゅふー♪じゃー明日は川遊びしよー♪そーと決まればリリも誘いに行くんだよ」
ニマニマーッと笑うと楽しそうにそう言ってシュバッと立ち上がり、ハンナが何か言う間も無くタッタカ駆けて行ってしまいました。
ポツンと取り残されたハンナは直ぐに追い掛けます。そして三巳の後ろを付き従う様について行きました。
診療所に辿り着くとリリがミナミ達と楽しくお喋りしていました。
「リリー!」
そこへ突撃して輪の中に入って行きます。
「今日は三巳。ふふふ、三巳はいつでも元気ね」
勢いそのままの三巳を受け止め抱き締めて、リリはニッコリ微笑みます。そのまま三巳の耳の裏をこしょこしょ撫でてあげれば三巳の尻尾が元気良く振っています。
「うぬ。それが三巳だからなっ。それよか明日川遊びするからお誘いに来たんだよ」
「まあ!私達も丁度川遊びの話をしていたのよ。日にちは決めていなかったのだけど……」
そう言ってリリはミナミ達を見回します。
その視線を受けたミナミはニコッと笑って頷いてくれました。
「誘われたなら吉日よ。勿論行きましょ」
「そうね。明日も良い天気になりそうだし、良いんじゃないかしら」
同意の声が一つ上がる度に三巳の尻尾は元気に振られて、行こうと決まった時には高速で動くメトロノームの様にはちきれていました。
「やったー!そしたらデッカいスイカ確保して行くんだよ!そうと決まれば今の内にお願いしてくるー!」
「スイカ割りなら的は小さい方が楽しくない?」
三巳が両手を高く掲げて走り出すと、後ろからミナミに言われました。
「でもこの人数だと足りないんじゃないかしら」
「ダイジョブダイジョブ。
三巳ー!持てるだけ貰って来てー!」
リリの疑問にミナミは軽く笑って言い、そしてもう大分離れていた三巳に聞こえるように大きな声で伝えます。
勿論良く聞こえる三巳の耳はちゃんと聞こえます。
「おー!任せろー!」
振り向き大きく片腕を上げて快く請け負い、更に速度を上げて走って行きました。楽しさはワクワクを加速させてそれが行動に反映されているのです。
上機嫌の三巳はあっという間にスイカ畑へやって来ました。
畑ではタウろんが実のチェックを入念にやっています。
「こんちわー。タウろんよく働くなー。何処の畑でも見ない日は無いんじゃないか?」
『こんにちわモー。草育てるの楽しいモー。良いスイカが出来ると皆喜ぶモー』
「うにゅ。夏にスイカは欠かせないんだよ。
って事で明日川遊びでスイカ割り女子会するから小玉が数個欲しいんだよ」
『わかったモー』
タウろんは三巳から参加人数を聞いて、食べきれるだけの量に目印のリボンを巻いていきました。リボンを巻かれたスイカは丁度明日食べ頃になっていそうな物ばかりです。中にはもう食べ頃の物もあります。
このスイカ畑はタウろんがお手伝いではなく、一から自分で育てているのです。だからどのスイカがいつ頃実になって、いつ頃食べ頃になるかを把握しているのです。
「凄いなー。もう独り立ちしてるんだもんなー」
『ありがとうモー。でもお手伝いももっとしたいモー』
「おー。何だかとっても耳が痛いお話なんだよ……」
働くのが嫌では無いですが、出来れば縁側で一日中ボーッとしていたい三巳は耳を両手で塞いで遠くを見つめるのでした。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる