獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
219 / 368
本編

学校見学

しおりを挟む
 話し合いが終わればロウ村長一行は三巳を待つだけです。待っている間は1人もしくは全員でロウ村長に付いてあちこちを見て回っていました。
 ウィンブルドン伯爵は先に自国へ戻っています。何故なら国王に相談したり領内の受け入れ体制を整えたりやる事が沢山あるからです。

 ロンとミズキは劇団に短期弟子入りしているのでこの日はロザイヤが1人でロウ村長に付いています。そして2人はリドルとオーウェンギルド長に連れられて学校に来ていました。

 「ほお、これが学校か」

 ロウ村長は入り口のガラス窓から邪魔にならない様に中を見学し、感心して顎を摩りました。
 ロザイヤも食い入る様に目を大きくして、黙々と中を見ています。

 「ここは高学年のクラスです。授業は共通学と選択学とあります。共通学は国語、数学、一般教養を。選択学はそれぞれ将来仕事をするのに助けとなる授業を選びます」

 説明をしてくれるのはリドルの護衛兼秘書の男の人です。ビシッとしたスーツを着ているのでロウ村長とロザイヤは窮屈そうだなと思っています。

 「どういった授業が選択出来るのだ?」

 ロウ村長が教室から目を逸らさずに訊ねます。

 「一番生徒数が多いのは農林水産系です。農業、漁業、畜産業などに別れています。次に多いのは経営学です。騎士学は今は無く、代わりに自衛隊があります」
 「王制じゃねぇし、リファラ人は争いを厭うから軍も作らねぇ」

 秘書の人の補足をオーウェンギルド長がします。争い事に特化しているオーウェンギルド長としてはヤレヤレと態度で表していますが、その目は優しくてそんなリファラの民が大好きだと伝わります。

 「とはいえ国民を守る力が必要な事は痛感したからね。だから自衛隊は特に男の子に人気だよ」

 リドルが元気良く手を上げる男の子を見てニコリと笑って言いました。
 きっとあの子は自衛隊に入っているのでしょう。よく見れば体のあちこちに小さな傷が付いています。

 「活発な良い子だ。ウチのロハスと気が合いそうだ」

 ロウ村長は村の子供達を思い出して目元を柔らかくします。
 同じ事を思ったのでしょう。ロザイヤも頷きました。

 「何れは交換留学もしたいね」

 リドルも頷き、子供達の未来に思いを馳せるのでした。

 教室を離れ、次に向かったのはロダ位の子達がいる別棟です。先程のは所謂小学校で、内容としては専門学校程度までを学ぶ場所です。そしてここはもっと本格的な設備が整っていました。

 「ここはより高度な技術を学んだり研究する専門棟です。高学年を過ぎれば卒業し、其々就職しますが、特筆した能力のある子や研究熱心な子はこちらの棟に進学します。私達の国では前の学校を一般技術学校、そしてこちらを高等技術大学と呼んでいます」
 「他の国じゃ王侯貴族だけの学園があったり、もっと細かく4段階に分けて学校を変えて行く国もある」

 秘書の人とオーウェンギルド長の説明に成る程と頷き校内を歩いて回ります。
 特にロウ村長はハンナに相談された事もあって熱心に聞いています。

 (リリやハンナがとても良い子なのはきちんと学んで来れたからか。ふうむ、どれここは思い切って……)

 「どのクラスにも教える者が使用していた板があったな。あれは何処ぞでか買えるのだろうか」
 「黒板ですね。それでしたら受注製作となります。必要とする場が限られている為普段は作っていません」
 「どれくらいで仕上がる?」
 「ではこの後工房へ寄りましょうか」
 「おお、それは有難い。良いだろうかリドル」
 「勿論ですとも」

 こうして次へ向かったのは工房です。
 工房は大学内に有りました。受付は校内と校外と2箇所有り、校内は関係者のみの受付です。リドルは勿論校内へ案内しました。

 「ほお、子供達が受付をしているのか」
 「はい。ここは購買と言って、販売業を学ぶ場の一環となっています」

 大きく開いた窓口に男女の生徒が並んで立っています。そしてリドルに連れられたロウ村長を見て緊張して固まっています。
 窓口の下には透明のケース内に授業で使う筆記用具などの必需品が並び、窓口の奥には裁縫道具からよくわからない物まで大きな物が並んでいます。
 リドルは固まる生徒に苦笑しました。

 「この方は三巳の村の村長だよ。黒板を作るのにどれ位時間が掛かるのか教えて欲しい」

 国の偉い人が連れている人だから粗相があってはダメだと思っていた生徒は、三巳と聞いて途端に力が抜けました。

 「三巳ちゃんとこの人か~」
 「三巳ちゃん所の村長さん、リリちゃんと三巳ちゃん元気ですか?」

 最早三巳はリファラに良き友として浸透していたので、その友達は良い人だと安心しきっています。

 「これこれ、今は仕事中だろう」

 流石に公私混同を許しては勉強になりません。
 リドルに注意されて気付いた2人は直ぐに姿勢を正します。

 「「いらっしゃいませ!」」

 機敏に反応して態度を改める柔軟さに若さを感じます。
 ロウ村長はニカリと笑うと、うむうむ頷き真っ直ぐ生徒の目を見ました。

 「黒板の作成所要時間を知りたい。もしも時間が掛かる様なら村の者に作って貰うから作り方を教えて貰えるだろうか」

 「はい、黒板ですね。教室で使用するタイプですと大体1日頂いていますが、その後7日程乾燥保管をして頂いてからのご使用となります」

 女子生徒が説明している間に男子生徒が奥の棚から持ち運び用の小さな黒板を持ってきてくれます。そして裏返したり黒板塗料の部分を触って貰ったりして制作工程を説明しました。

 「成る程な。では一つ作って貰おう」

 乾燥だけなら村でも出来ます。ロウ村長は頷き気軽に依頼を出しました。
 これにビックリしたのはロザイヤです。お金の使い方を学んだばかりですが、それでもきっと黒板は高いだろうとお金の心配をしているのです。

 「心配するな。ワシは若い時分に稼いだ自前の金がある。ギルド銀行に預けたままだが下ろせば買えるだろう」

 そういえばロウ村長は若かりし頃に外の国で冒険をしていました。という事は少なからず金銭のやり取りをした事があるという事です。そして山ではそれらを使わないのでそのまま保管されているのです。

 「確かギルド銀行の長期取引無しでの保管期間は50年だったな」
 「そうだ。冒険者は行方不明になる事があるが、年月を経てひょっこり戻る事もあるからな。
 しかし山の民は外に出た事が無いのだと思っていたが」

 オーウェンギルド長の疑問にロウ村長は豪快に笑うと、若かりし日の事を話して納得して貰い、そしてお金を下ろす事に成功したのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...