獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
212 / 368
本編

グラン入国!

しおりを挟む
 珊瑚の育つ南国の海。白い砂浜。そして緑豊かなジャングル。其れらを背景に佇む青年がいます。
 彼は先程まで確かにライオーガの姿をしていました。けれども今は何処からどう見ても人族そのものです。獣人族でもなく、ただの普通の人族です。

 「ひゃー!ラオ君変身出来たのかっ!あー!匂いも人っぽい!うひゃー!行ける!?一緒に行けるのか!?」

 大興奮で尻尾をブンブカ振って耳をピコピコ動かす三巳の額を、レオは人の形の手で押さえました。

 「落ち着け」
 「うぬ」

 大きな手の平で視界が遮られたことでスンと気を鎮めることに成功した三巳です。耳も尻尾も落ち着きを取り戻しました。けれども良く見ると尻尾の先っぽだけはフリフリ振っていて嬉しさが伝わります。
 レオは無意識に漏れる苦笑いを、空いている方の手で隠しました。

 「寧ろ三巳の方が大丈夫か?神気ダダ漏れだぜ?」
 「うぬ!大丈夫なんだよ!ちゃんと抑えれるっ」

 言うなりシュッと漏れ出る神気を引っ込めます。けれども隠そうとしない耳と尻尾はそのままです。
 レオが怪訝に見るので三巳は自分の耳を両手で触ってペタンと閉じました。

 「耳と尻尾も隠さないとダメか?三巳はこれが無いと落ち着かないんだよ」
 「ダメってこたあ無えよ。あの国は獣人族も多いからな」
 「おおっ、獣人族は父ちゃん以外初めましてなんだよ」
 「ま、それにそれが三巳のチャームポイントだってんならそのままで良いんじゃねーか?可愛いぜ」

 サラッと言って三巳の頭を撫でるレオに三巳は胸がドキンと高鳴りました。

 (う、うーにゅぅ……。山の民には無いスマートさなんだよ。三巳は聞き慣れなくて照れてしまうんだよ)

 けれども褒められて喜ばない三巳はいません。「にゅふふふふ~♪」とご機嫌に鼻歌混じりに笑いが止まりません。

 「それじゃあいっちょ行くか」

 歩き出した旅人姿のレオを追い掛けて三巳も行きます。そして尻尾収納から身分証を取り出してハタと気付きました。

 (ラオ君持ってないよな。コレ。むむ……大丈夫なんだよっ、三巳ちゃんとお金も持って来たからなっ。入場料は三巳に任せるんだよっ)

 ドヤ顔のお姉さん顔でレオを見上げる三巳です。
 勿論そんな三巳の心内など知らないレオはサクサクとグランの入り口に向かって歩いて行きます。
 そして到着しました。三巳念願のグラン(入り口)です。
 そして三巳はガーン!と雷に打たれました。

 「うにゅぅぅ……身分証パスポートが要らない国があったなんて……!」

 そうです。なんとグランには国壁など無く、また入り口も便宜上設けられただけのテーマパークっぽい形の枠組みだけだったのです。つまり入り放題出放題です。

 「だ、大丈夫なのか!?」

 他国の事なのに心配してオロオロする三巳は、地球の国家間の諍いのニュースを思い出して青褪めます。

 「ヤー、大丈夫ダヨ旅ノ人ー。ココ滅多ニ人来ナイ陸ノ孤島ネー」

 三巳とは対照的にあっけらかんと笑うのは南の国っぽくラフな、けれどもお洒落な感じの服を着た一応門番っぽい仕事をしている人族のお兄さんです。手に持っているのは槍です。飾りに鷹の羽っぽいのが付いています。
 三巳は一瞬にしてテーマパークに来たと勘違いしちゃいます。

 「うぬ。それで入場料を払う窓口は何処なんだよ?」
 「ダカラタダダヨー」

 チケット売り場を探してキョロキョロする三巳に、門番のお兄さんはスンとした顔に口をニコリとさせて言いました。
 そして隣で事の成り行きを見守っているレオは

 (神族って奴は変なのが多いのかね)

 とこれまたスンとした顔をしていました。

 「イーカラ入ルナラ入ルー」

 門番のお兄さんに背中を押され、三巳はドキドキしながら門を潜ります。
 門を潜るとそこはもう憧れの南の国です。そこらかしこにラフな格好の老若男女がゆったりまったり過ごしています。人族と獣人族が同じ位いるでしょうか。クロの様に二足歩行の動物っぽい獣人族がいる中に、三巳の様に肌は人族で獣の耳と尻尾が生えている人達もチラホラいます。それでも顔立ちは人族と獣人族の間の子な顔で、三巳の様に完全に人族な顔の人は今のところ見当たりません。

 「ぬぅー。リリが言ってたのはコレかー。三巳はハーフにしてもちょっと異質な見た目だったんだなー」

 三巳は自身の顔をモニモニ触ってハーフらしき人達と比べました。

 「いねえ訳じゃねえんだろうが。ま、珍しい見た目ってのはそうかもな」

 レオも三巳の頭をポフポフ叩いて撫で撫でして言います。撫でると三巳がどうにも気持ち良さそうな顔をするのでつい撫でてしまいます。
 沢山撫でられて満足した三巳は気を取り直していざ観光……をしようとしてそうでない事を思い出して頭を振りました。

 「違うんだよ。カカオの木なんだよ。早く帰るって約束したからな。先ずはカカオの木を探すんだよ」

 チラチラと観光したい気持ちを横目に三巳はキリリとした顔を作り、いざ探索を始めるのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...