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本編
バレンタイン後の山の民
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到頭念願叶ってバレンタインデーを設けられた後のお話です。
「バレンタイン……大好きをチョコに乗せて伝える日……」
そう呟くのは先日スケートイベントでほんのり恋心を芽生えさせた女の人です。
「……あの人に、思いを伝えるチャンス?でも……私はチョコを持っていないわ」
へっぴり腰で震えるその両手を優しく支えてくれた。一緒に楽しく滑ってくれた。そんな男の人を思い頬をちょっぴし染めています。
そしてそんな人は一人だけではありませんでした。
「リファラに行けば買えるらしいけど、通貨は何一つ持ってないしな~」
悩める女の人の所へふらふらやって来るのもまた悩める男の人や、
「そもそも山の外は……流石に……ねぇ。まだやっぱり怖いわ」
別の悩める女の人達です。
そうして気付けば何も無いけれど静かに過ごすにはもってこいの広場に悩める山の民が集まっていました。
「あ……ロハス」
「ミオラ」
そして悩めるお年頃な青少年です。
下の子の面倒を見て大人の階段登りつつあるロハスとミオラもふらふらやって来て広場でばったり会いました。そして視線が合った途端に2人は同時に頬をピンク色に染めます。
「あの、ね。スケート。楽しかった。手を引いてくれてありがとう」
「ううん、俺がミオラと滑りたかったから」
ロハスが真っ直ぐ目を見てハッキリと言うので、ミオラはポポポッと更に頬を染めます。しかも目が潤んだのでしょうか、何だかとってもロハスが格好良く輝いて見えました。
「……あの、んと、ミオラね、ロハスにチョコレートあげたいなって思ったの。でも村の何処にも無くて、三巳姉ももう使い切っちゃったって」
自身の手をキュッと握りモジモジするミオラは、それでも真っ直ぐな目を返して言います。
その視線を受けてそれを聞いて、ロハスは軽く目を見張ります。そして同じく頬を更に染めると「ふはっ」と目を細めて笑いました。
「俺も。ミオラにあげたくて。一緒だな」
その笑顔が眩しくて、ミオラも「ふっ」と柔らかく笑います。
「うん。一緒」
そうしてどちらからともなく手を伸ばし繋ぎました。
「いつか山の外行ってチョコ持ってくる。だから今はこれ、貰ってくれる?」
そう言ってロハスは一輪の赤い薔薇を取り出しました。
「お花!?今冬なのに……?」
勿論雪に埋もれた山にはお花は生えていません。ミオラはビックリして恐る恐るその薔薇を受け取りました。そして気付きます。
「あら?これは造花なのね。凄いわ本物かと思っちゃった!とってもキレイ」
嬉しそうに目をキラキラさせるミオラを見て、ロハスは照れます。照れたまま「へへっ」と快活な笑みを見せました。
「三巳姉ちゃんがさ、バレンタイン発祥の国だと薔薇をあげるんだって教えてくれたんだ。でも折角キレイに咲いてるのに皆が薔薇を摘んだら無くなっちゃって寂しいし、そもそも冬の雪山じゃ手に入らないしな。
だから作った」
まだまだ年中組の少年ロハス。何とも器用な一面を見せてくれました。
ミオラは感激して目が潤んでしまいます。
「ミオラも、ミオラもロハスに薔薇を作りたい」
「ホント?すっげー嬉しい!」
こうしてバレンタインを気に一つの小さな恋のメロディが生まれました。
そしてそれを一部始終見ているのが娯楽の少ない恋バナ好きの山の民達です。彼等も感激して心の中で拍手喝采をしていました。
「俺、家戻る」
「わ、私もっ」
そそくさと帰って行く山の民達は、これから薔薇作りに忙しくする事でしょう。
こうして山の民の村に、薔薇の造花を送り大好きを伝えるバレンタインが定着していくのでした。
後日談な三巳は後に語ります。
「うーにゅ。合ってるんだけど三巳はチョコ食べる日のが嬉しいんだよ」
そう言った三巳の家の玄関には薔薇の造花が彩られ、とっても華やかになっていたのでした。
「バレンタイン……大好きをチョコに乗せて伝える日……」
そう呟くのは先日スケートイベントでほんのり恋心を芽生えさせた女の人です。
「……あの人に、思いを伝えるチャンス?でも……私はチョコを持っていないわ」
へっぴり腰で震えるその両手を優しく支えてくれた。一緒に楽しく滑ってくれた。そんな男の人を思い頬をちょっぴし染めています。
そしてそんな人は一人だけではありませんでした。
「リファラに行けば買えるらしいけど、通貨は何一つ持ってないしな~」
悩める女の人の所へふらふらやって来るのもまた悩める男の人や、
「そもそも山の外は……流石に……ねぇ。まだやっぱり怖いわ」
別の悩める女の人達です。
そうして気付けば何も無いけれど静かに過ごすにはもってこいの広場に悩める山の民が集まっていました。
「あ……ロハス」
「ミオラ」
そして悩めるお年頃な青少年です。
下の子の面倒を見て大人の階段登りつつあるロハスとミオラもふらふらやって来て広場でばったり会いました。そして視線が合った途端に2人は同時に頬をピンク色に染めます。
「あの、ね。スケート。楽しかった。手を引いてくれてありがとう」
「ううん、俺がミオラと滑りたかったから」
ロハスが真っ直ぐ目を見てハッキリと言うので、ミオラはポポポッと更に頬を染めます。しかも目が潤んだのでしょうか、何だかとってもロハスが格好良く輝いて見えました。
「……あの、んと、ミオラね、ロハスにチョコレートあげたいなって思ったの。でも村の何処にも無くて、三巳姉ももう使い切っちゃったって」
自身の手をキュッと握りモジモジするミオラは、それでも真っ直ぐな目を返して言います。
その視線を受けてそれを聞いて、ロハスは軽く目を見張ります。そして同じく頬を更に染めると「ふはっ」と目を細めて笑いました。
「俺も。ミオラにあげたくて。一緒だな」
その笑顔が眩しくて、ミオラも「ふっ」と柔らかく笑います。
「うん。一緒」
そうしてどちらからともなく手を伸ばし繋ぎました。
「いつか山の外行ってチョコ持ってくる。だから今はこれ、貰ってくれる?」
そう言ってロハスは一輪の赤い薔薇を取り出しました。
「お花!?今冬なのに……?」
勿論雪に埋もれた山にはお花は生えていません。ミオラはビックリして恐る恐るその薔薇を受け取りました。そして気付きます。
「あら?これは造花なのね。凄いわ本物かと思っちゃった!とってもキレイ」
嬉しそうに目をキラキラさせるミオラを見て、ロハスは照れます。照れたまま「へへっ」と快活な笑みを見せました。
「三巳姉ちゃんがさ、バレンタイン発祥の国だと薔薇をあげるんだって教えてくれたんだ。でも折角キレイに咲いてるのに皆が薔薇を摘んだら無くなっちゃって寂しいし、そもそも冬の雪山じゃ手に入らないしな。
だから作った」
まだまだ年中組の少年ロハス。何とも器用な一面を見せてくれました。
ミオラは感激して目が潤んでしまいます。
「ミオラも、ミオラもロハスに薔薇を作りたい」
「ホント?すっげー嬉しい!」
こうしてバレンタインを気に一つの小さな恋のメロディが生まれました。
そしてそれを一部始終見ているのが娯楽の少ない恋バナ好きの山の民達です。彼等も感激して心の中で拍手喝采をしていました。
「俺、家戻る」
「わ、私もっ」
そそくさと帰って行く山の民達は、これから薔薇作りに忙しくする事でしょう。
こうして山の民の村に、薔薇の造花を送り大好きを伝えるバレンタインが定着していくのでした。
後日談な三巳は後に語ります。
「うーにゅ。合ってるんだけど三巳はチョコ食べる日のが嬉しいんだよ」
そう言った三巳の家の玄関には薔薇の造花が彩られ、とっても華やかになっていたのでした。
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