獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ハッピークリスマス♪

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 開けた白銀の世界の真ん中に、威風堂々と輝き立つ存在。例年に類を見ない素敵な素敵なクリスマスツリーが有りました。

 「凄いわ。とっても綺麗」
 「本当だね。綺麗で、ピカピカとしているのにとっても穏やかで落ち着くよ」

 ロマンチックなムードに恋人達はウットリと寄り添い、

 「ままー、ぱぱー、クリスマスツリーかっこいいね」
 「そうだね。着いたり消えたりして楽しいね」

 子供連れは楽しむ我が子を慈しみ、

 「ばあさんや。長生きはするもんじゃのう」
 「そうですね。じいさんや」

 子育て終えた老夫婦も、青春を取り戻してお互いにほっぺを赤くさせています。
 そこへサクリ、サクリと雪を踏み締めて後から来た人がいます。

 「見事に集まったな」

 そう言ってニンマリと見回すのはロウ村長です。
 その横でしてやったり顔の三巳が尻尾を振って喜んでいます。

 「にゅふ~、頑張って考えた甲斐があるんだよ」
 「三巳、ロウ村長。これはいったい……」

 クリスマスの飾り付けは例年村の中だけで行われてきました。けれども今いるのは村から近いとはいえ森の中です。

 「へへ、この木な、前に三巳が猫の姿で爪研ぎして倒しちゃったんだよ」

 爪研ぎで木を倒すなんて普通ではありませんが、そこは三巳なので山の民はすんなり納得しています。然もありなんとスンとした顔です。

 「それでな、お詫びに回復がてら神力注いだらな、なんか世界樹に成り掛けてるらしい」
 「あー成る程、世界樹に……」
 「世界樹……」
 「世界樹……?」

 テヘペロっと可愛らしく舌を出した三巳に納得し掛けて、けれどその言葉が重大性を孕んでる気がして揃って首を傾げました。そして、

 ぽくぽくぽくちーん。

 くらいの間を開けて、

 「「「世界樹!?」」」

 一斉に両目をかっ開き、クリスマスツリーになってる木をバッと見ました。

 「え?あれ?本当だ。何処となく神聖な空気を纏いつつある?」
 「え?良いの?これ良いの?」

 まだ成り掛けとはいえ世界樹です。
 山の民達は立派に飾り付けられた状態を指して困惑してしまいました。

 「精霊も生まれ掛けてたからなー。ちゃんと本木ほんにんには了承済みだ。むしろ今はワクワクしてるみたいだなー」

 どうやら三巳に似たフレンドリーな世界樹が爆誕しそうです。
 世界中の人達が知れば驚愕も一入ですが、山の民達は三巳で慣れているのでホッとして、

 「じゃあ世界樹の卵ちゃんも一緒にイヴを楽しもう♪」

 ドンチャカ騒ぎに巻き込んでクリスマスのイヴを目一杯楽しむのでした。



 開けて翌日はクリスマス当日です。
 早朝から村の真ん中に立つ普通のクリスマスツリーに子供達が集まっていました。
 お目当ては勿論サンタさんからのプレゼントです。

 「ふわぁ!新しいお人形だぁ!」
 「くましゃん!くましゃん!」
 「やったー!かっちょいー!」
 「これ!これもすげーぞ!投げても戻る!」

 ちみっ子から年中組まで子供達は包みを開けて大はしゃぎです。特に誰宛というのは無いので、皆で開けて皆で共有します。取っ替え引っ替え譲り合っては新しいおもちゃに夢中です。
 それを久し振りに見守る三巳は、ニッコリ笑みを深めて尻尾をワサワサ振ってご満悦なのが見てわかります。

 「にゅふふ~。久し振りだったけどちゃんと喜んで貰えて嬉しいんだよ」

 三巳は同じく微笑ましく見守る大人達にしかわからない小声で言いました。

 「今年もありがとうね。三巳サンタさん」

 モコモコ手袋越しに頭を撫でられた三巳は満更でも無い顔です。
 暫く見守って、全員が一通り手にした所で三巳は後は山の民達で楽しんでくれとその場を後にしました。
 向かった先は我が家です。
 相変わらず寒くてお家から出られないクロの為に、クリスマスはお家でまったり過ごす予定なのです。

 「ただいまー」

 と言って玄関をガチャリと開けた三巳でしたが、ふと違和感に気付いて中には入らず首を傾げました。

 『どうした三巳よ』

 それをニヤリと口角を上げた母獣が問い掛けました。
 母獣の声に一度はそちらに目を向けた三巳ですが、何か言いたげに口をムニムニ動かして、そしてやっぱり首を傾げました。

 (母ちゃんの様子もおかしい?)

 「うぬ。ちょっと、ちょっと待ってて欲しいんだよ。初めからやり直してみる」

 そう言った三巳は一度扉を閉めました。そして来た道を少し戻って家全体を見回せる位置まで来ると、ドキドキしながらクルリと振り返ります。

 「!!」

 そして気が付きました。

 「家の後ろに何かある!」

 そうです。
 昨日までは無かった筈の大きな建物がドーンと建っていたのです。
 それは硬い枠に透明な板が張り巡らされていて、屋根は積雪対策にか丸く円を描いていました。

 『驚いたか三巳よ』
 「母ちゃん!」

 母獣の声に玄関を見ると、器用に扉を開けて出て来た母獣がのっしのっしと威厳に満ちた顔で近付いて来ています。
 因みにクロは寒いのでモッコモコに着包んで寒さに丸まりながらも母獣の横を歩いています。

 「ハッピークリスマス、三巳。
 ふふふ、とっても良い子の私達の愛しい子にプレゼントだよ」
 「父ちゃん!」

 ニッコニコの優しい微笑みに、三巳は迷わずその懐にダイブしてギュ~っと抱き締めました。

 「三巳!?三巳の!?」
 「勿論そうだよ、愛しい子。私達の愛しい子は三巳だけだよ」
 「はわ!はわぁぁぁっ」

 両親の粋な計らいに、三巳のほっぺたは冬だというのに暖かそうに赤く赤く熟れました。尻尾も耳もブンブカと高速で動いて止まりません。

 「み、見ても良い!?」
 「勿論だよ。あれは君のなのだから」
 「ふにゅおおおおっ」

 許可が出るなり一直線に家の裏手へ駆けて行きます。あまりの勢いに雪が舞い上がりますが今の三巳にはそれを気にする余裕はありませんでした。目には裏手の建物に釘付けです。
 そうして間近で見る建物は、

 「温室だ!え?え?こんなに雪深い所で温室なのか!?大丈夫なのか!?」

 中には緑豊かな植物達が元気に葉を広げていました。中でも異彩を放っていたカカオを含む南の国の植物に、三巳は大きな目を更に大きくしてキラキラと輝かせています。

 『ふん。我が造った物に不備などある訳なかろう。豪雪に埋まろうが山火事に合おうが問題なく機能しよるわ』

 ハウスの脆さを前世で見ていた三巳が心配しますが何の問題もありませんでした。伊達に神も居て、魔法もある世界ではありません。
 三巳は近くで良く観察してみました。

 「凄い!これダマスカスか!それにこれはオリハルコン!?」

 数百年で得た異世界知識から、その素材の凄さを知る三巳です。耳はピーン!と立てて、尻尾は驚きにブワッ!と広がりました。
 更に中を見れば竜石やら何やらで中の温度と湿度を保っていて、人工物に然程興味が無さそうな母獣によく作れたなと感心します。

 (もしかして父ちゃんが設計してくれたのかな?)

 そう思ってクロを見上げる三巳でしたが、

 「喜んで貰えて良かったねぇ。あの説明だけでここ迄の図案を作ってくれた橙君に感謝だよ」

 普通に物作り妖精が大活躍していました。
 三巳は後でちゃんとお礼を言おうと決めて、今は取り敢えず中の植物をもっと良く確認する事にするのでした。
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