獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

クリスマスイヴはピカピカでワクワク♪

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 シャンシャンシャン♪
 村に浸透する鈴の音が、それを耳にした者達の心を上げています。
 この時期になると何処かソワソワしだすちみっ子達の目もキラキラと期待を込めた輝きに溢れています。

 「ことしはさんたさん何くれるかな~」
 「ぼくいいこにしてたからきっともらえるよねっ」

 そうです。今日はクリスマス前夜。イヴの日です。
 とはいえ今はまだ日が明るいのでちみっ子達は手持ち無沙汰に集まって、忙しなくも楽しそうに準備をしている大人達を見ています。

 「あ!リリねーちゃんだ!おーい!リリねーちゃん!」

 そこへ同じくお仕事していたリリが通り掛かりました。ハンナとネルビーも一緒です。

 「あら、皆こんにちは」
 「ねーねーリリねーちゃん!リリねーちゃんはさんたさんから何もらってたのー?」

 ちみっ子達はてててー!と駆け寄るとあっという間にリリを囲んでピーチクパーチク質問の嵐を起こします。

 「さんたさん?とは何でしょうか」

 ちみっ子達から口々に出る名前にハンナは首を傾げます。

 「正確にはサンタクロースと言うらしいわ。聖なる国から今年良い子にしていた子供達にプレゼントを配る素敵なお爺さまなんですって」

 一度経験をしていたリリがハンナに教えます。
 ハンナは

 (成る程。子供達を良い子に育てる為のイベントですね)

 と、瞬時に理解をしました。

 『おれ、貰ったことない!?』

 けれど同じく一度経験した筈のネルビーはズガーン!!とショックの雷に撃たれていました。どうやらすっかり本当に存在すると信じてしまった様です。

 『おれ、犬だから駄目なのか!?』
 「あら」
 「まあ」

 悲痛な声で「くぅ~ん、くぅ~ん」と泣く姿にリリとハンナが大きく開けた目を見合わせます。そしてクスクス鈴を転がす様に笑います。

 「あのね、残念だけれど私の国はこんなに雪が積もらないの。だからサンタさんはソリに乗って来れなかったみたい」

 リリはちみっ子達の夢を壊さない様にそう言ってニッコリ微笑むのでした。
 ちみっ子達は

 「そっかー」
 「ざんねんだったね」

 と言って忙しいリリ達とはバイバイします。

 「さんたさんがこない村があるなんてかわいそう」
 「ほんとうだね」
 「あたちここに生まれてよかった~」

 ちみっ子達は身を寄り添い顔を突き合わせて大人ぶった顔して同情をしています。

 「おとなたちはきょうはきょねんよりいそがしそうね」

 ちっちゃなお手々をほっぺに当てる女の子は、中でも取り分け小さいちみっ子です。大きい子が多いので大人振りたいのがわかる仕草に、通りすがる人は温かい目を向けて行きます。

 「何でも今年はすんごいらしいよ」

 一番大きな男の子がワクワクを隠せない程瞳をキラキラ輝かせて言いました。
他のちみっ子達はつられて

 「「「ふわ~っ」」」

 とワクワクしだします。

 「ぼくおじゃましないようにはしっこであそぶ!おじゃましないようにあそんでまつのがぼくたちのおしごとってままがいってた!」

 ふんすとちっちゃな両拳を小脇で力を入れる男の子に、他のちみっ子達もハッとした顔を向けました。

 「あ、あたちも!あたちもおしごとする!」
 「よーし!みんなあっちで遊ぼう!」

 ちみっ子達がきゃいきゃいはしゃぎ出し、一番大きなちみっ子が皆を先導して日当たりの良い隅っこに向かいます。そこで大人達の動きを見ながら雪だるま作りや雪合戦などをして時間を潰すのでした。

 さてはてお仕事を頑張ってくれたちみっ子達のお陰で、予定通りクリスマスのイヴを準備万端で迎える事が出来ました。

 「もー夕日も沈みそうだなー。そろそろかな?」
 「うむ。三巳のお陰で今年も盛り上がりそうだ」

 村を一望出来る櫓の上で、三巳とロウ村長がお空の色を確認してニンマリと笑っています。
 村内では山の民達もソワソワと村の飾り付けを見つめて今か今かと待ち構えていました。

 「皆も楽しみの最高潮なんだよ!今が好機なんだよ!」
 「よし、では今年もクリスマスイヴパーティーを始める!」

 ロウ村長が声高々に宣言をすると、上空に一筋の光の球が流れて消えました。そして直ぐに二つの光の球が左右から流れて消えていきます。
 光の球は一つから二つへ。二つから四つへ。倍々に増えていき、最後はパー!と全体を明るく照らして消えました。
 光に慣れた目に暫しの闇が訪れます。けれどもその闇は長くは続きませんでした。

 ポッ。ポッポッポッ。パァー!

 そんな擬音が聞こえる様に、村中が明るい光に照らされたからです。

 「「「わあ――――!!」」」

 光が灯ると村中彼方此方で歓声が上がりました。
 山の民達は思い思いに光を見つめてウットリしています。

 「こりゃあ凄いね」
 「毎年灯りは灯してるけど、こんなに素敵な灯火は初めてだわ」
 「ひゃー!ピカピカ!キラキラ!」

 大人も子供もちみっ子も。皆光を見て感嘆の言葉を漏らしました。
 それもその筈です。

 「あっ!あれユトだ!」
 「ふわぁ!あっちにはさんたさん!」

 村中に灯った光は、ライトアップされたイルミネーションだったのです。
 本格的なイルミネーションは始めての試みです。ピカピカ。キラキラ。光が瞬いて、まるでお星様の中に紛れ込んだかの様です。しかも光は様々な形を模してもいたので特にちみっ子達が大興奮のはしゃぎ様です。
 その様子を上から見ていた三巳とロウ村長は、ニマリと笑みを深めてグータッチを交わします。
 山の民達がイルミネーションを堪能していると、女の人が何かに気付きました。

 「あれ?ね、ね。この光ってアーチになってない?」

 そう言って指した先、光の筋をなぞります。

 「本当だ」
 「ん?何だ何だ?」

 指の先を視線で追っていた他の山の民達も気付いて集まって来ました。

 「向こうに続いているな」

 アーチは等間隔に奥へ奥へと続います。山の民達はワクワクしながらアーチを潜って行きました。
 友人同士で語り合いながら、恋人同士で手を繋ぎながら、ちみっ子も両親や兄弟に手を繋がれてアーチの中を進みます。
 アーチの中から見えるイルミネーションもとっても素敵で、奥へ奥へと歩いている事を忘れさせてくれました。お陰で気付いたのは左右のイルミネーションが途絶えた時です。

 「あら、ここで終わりなのね」

 そう言ったのは恋人と手を繋いでいた女の人です。左を見ていた視線を、ふうと息を吐きながら正面に据えます。
 そしてアーチ自体はまだ続いている事に気付きました。

 「何かしら、奥にもキラキラしたものが見えるわ」
 「どうやら村の外れの森の中まで来ていた様だよ」

 恋人の男の人の言葉で他の山の民達もやっと今いる場所が森の中だと気がつきました。夜の闇の森の中、言葉を止めるとシンと静けさが際立ちます。
 でも怖くはありません。イルミネーションはピカピカしているし、アーチの先に見える眩い光がワクワクする気持ちを高めてくれているからです。
 誰とはなしに先へ先へと進みます。すると少し開けた場所に出て来ました。
 そしてそこには、まだまだ育ち盛りの、けれども大きな大きな木が、とっても素敵な光に包まれて悠然と立っているのでした。
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