獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ロウ村長だってちゃんと村長なんです

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 これは三巳が正式に山に帰って直ぐの事です。
 いつも元気溌溂なロウ村長が、いつにも増してワクワクしていました。

 「外の世界は久し振りだな」 

 腕を右に左にわっきわっきと動かしてニカリと笑う姿には、ロウ村長の奥さんも苦笑いです。

 「本当に体動かすのが好きね」
 「まー、それがお父さんだけどさ。外の世界は危険がいっぱいなんでしょ?無理はしないでよね」

 さらにはロウ村長の娘も呆れて、でも言っても聞かないのわかってるって顔で溜め息を吐いています。

 「危険。危険なぁ……。言う程危ない目にはあった事無かったぞ?」

 ケロリとして言うロウ村長に、母娘は顔を見合わせてヤレヤレと言いたげです。

 「そりゃね。お父さんは村一番の強者だし、殆どのモンスターはお父さんに敵わないけどさ。でも絶対って訳じゃないでしょ。リヴァイアサンにはまだ一度も勝てた事ないってボヤいてたじゃない」
 「ぬぅ。それを言われると痛いわい。
 わかったわかった。無理はせん。何、往復は三巳がついでに連れて行ってくれるらしいし、行くのは春過ぎだ。準備はしっかりして行く。それで良かろう」
 「もー……本当にわかってるんだか。
 良い?絶対にロイドでも誰でも後方支援系の人連れてってよ」

 不貞腐れて言うロウ村長に、娘は訝しい目で斜に構えると最後に念を押しました。

 そんな事があった次の日です。
 早速共に行く人募集と声を掛けると、思いの外色良い返事はありませんでした。

 「そうは言ってもなぁ。山の外なんて見た事も無いし、言い伝えじゃ恐ろしい所だと言う」
 「そりゃリリちゃんが育った国なら大丈夫だとは思うがね」
 「いくら三巳のお墨付きがあっても外はなぁ」

 そもそも山の民はご先祖様達が外の戦争から逃げて移り住んだのが始まりです。専守防衛逃走一直線です。逃げるが勝ちです。「傷付け合う位なら他に行けばいいじゃない」な人達です。
 無闇に戦いの場に行こうとする人はいませんでした。

 「往復は三巳が連れて行ってくれる。儂等はリファラからは(多分)出んだろう」

 なんとか説得しようとするロウ村長ですが、途中挟んだ声なき声を山の民達はしっかり拾っていました。半眼でロウ村長を見ています。

 「あー。ごほん。まー儂はちょいとついでに散策するかもしれんが、それに付き合う必要はない」
 「それじゃ何の為に付いて行くのかわからないじゃないさ」

 咳払い一つして場を取り繕うロウ村長に、ミレイが呆れ目でバッサリ言い放ちます。

 「仕方ない。お目付けとして何人か選出しよう」

 最早村長の護衛ではなく、悪戯っ子の保護者選定会です。けれども満場一致で可決されました。とはいえ簡単に決められるものではないですし、時間もまだあるのでゆっくり決める事になりました。
 その様子にロウ村長も「ウム」と口を引き結ぶのでした。
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