獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
185 / 368
本編

秋が来たよ

しおりを挟む
 お山の天辺色付いて、ピュンと木枯らし吹いています。
 山道歩けば落ち葉がカサカサ音を出して、三巳の素足を刺激します。

 「にゅはー、もー秋が来たのかー」

 本来獣の性の方が強い三巳は、夏でも冬でも素足で山道を歩きます。季節はいつも空気と足で感じているのです。

 「ふんすふんす。んー匂いも大分秋めいてきたかなー」

 最後に匂いを嗅いで確認です。そして匂いを嗅げばとっても良いお鼻を持つ三巳の事です。

 「ふなっ!この匂いは!」

 ほぉらやっぱり見つけました。

 「栗!」

 たったか匂いの元まで駆けて見つけたものは山栗でした。トゲトゲに包まれたイガ栗をチョイと摘んで良ぅく観察してみます。

 「うにゅふふふー♪良い艶なんだよ」

 切れ目から覗かせた栗の茶色い皮がテカリと光を反射して誘惑してきます。勿論素直に誘惑された三巳は辺りをキョロキョロ見回して、いっぱい落ちているのを確認するなり嬉しそうに尻尾を振り回します。

 「ぐがー、山神様も栗拾いっすかー」
 『おや、小鬼の旦那に三巳も来たのか』

 秋の実りを感じて集まるのは三巳だけではありません。山には沢山の木の実を食べる生き物がいるのです。

 「あや。皆も栗拾いか?それは楽しいんだよ」

 楽しいは沢山で分かち合うのが大好きな三巳です。早速集まった面々と落ちた栗を確認して、皆に行き渡る事を確認しました。ニッコリと笑みを深めた三巳は、取り敢えず持っていたイガの切れ目に指を入れてパックリと割って中身を取り出します。
 それを見ていた大人のモンスターや動物達がスッと目を細めて真剣な表情になりました。何だろうと首を傾げた三巳です。

 「ぐっぐがっ。アレは獣神だから出来る事だからな。俺達は素手で割ろうとしちゃだめだぞ」

 大人達が子供達に言って聞かせています。それはそうでしょう。イガはトゲトゲがビッシリ付いています。頑丈な肌を持っていなければ、チクチク刺さってとっても痛いですからね。

 「『『はーい!』』」

 ちみっ子なモンスターや動物達は元気にお返事を返します。
 けれどもその視線はパカパカと素手で割っていく三巳の手にありました。
 大人達はその視線に気が付いています。けれども一度は注意しました。だから言ってもわからない事は経験すれば良いと、幼い頃に馬鹿をやった自分を思い出しながら悟り切った顔をするのでした。

 「ぐきゃん!い、いだいよぅ!!」

 案の定。言ったそばから聞かない子がいた様です。指に刺さったイガをブンブンと振り回してギャン泣きです。

 「ぐが!だから言っただろうが!」

 お父さん小鬼がお目々を吊り上げてお説教モードです。けれどもお手々は優しく介抱してくれていて、お父さんの優しさがわかります。
 そんな子小鬼の姿に、触ろうとしていた他の子供達はチロリと両親を見て、

 『つ、摘もうとしただけだよ。割りやすい様に動かすだけだもん』

 と嘯くのでした。

 改めて始めた栗拾いは、ちみっ子達にとって良い遊びとなっています。お互いにこうやって取ると良い、とかこんなに大きいの取ったぞ、とかキャイキャイはしゃいで楽しそうです。
 それを横目に三巳と大人は真剣に栗拾いです。大人のモンスターや動物達は冬に備えて蓄えないといけませんからね。

 「今年の冬も超えられそうか?」

 三巳は栗を拾いなら尋ねます。
 小鬼はそれなりに冬も活動出来ますが、だからこそご飯が手に入り難い冬は生き残るのに必死です。動物や動物型のモンスターは冬眠する種族が多いですが、それでも蓄えは必要です。

 「ぐがぁ、オレ達んとこは畑もやってるからな。なんとかなる」

 というのは小鬼達です。
 確かに人に近い姿と知性を持っているのである程度の文明はある様です。

 『あたし達はねぇ、まだ少し足りないかなぁ。何分体が大きいからねぇ』

 そう言ったのは大熊です。
 川で魚を取れない分、冬は日持ちのする木の実が沢山必要です。

 「うにゅ。体大きいと大変なんだよ」

 困り眉毛な三巳ですが、小鬼がこれに挙手をしてきました。

 「ぐが!なら俺達が干物やドライフルーツ多めに作るから、代わりに材料集め手伝ってくれないか?」
 『おや?良いのかい?それじゃあお言葉に甘えようかね』

 種族が違っても助け合う姿に、三巳はほんわかとして嬉しそうに尻尾を振るのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...