獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
178 / 368
本編

リファラの総理大臣みたいな人

しおりを挟む
 三巳の目の前には所狭しと料理が並んでいます。

 「にゅ~……。にゅ~……」

 そして三巳は其れらを前にお預けを食らっていました。

 「食べるのは話が終わってからだ」

 無論食らわせたのはオーウェンギルド長です。
 大事なお話を食べながらするのは些かお行儀が悪いと「めっ」されてしまったのです。

 「にゅ~……」

 お陰でさっきから三巳の目が恨みがましくオーウェンギルド長を見ています。大量の涎を垂らしながら。

 「はっはっは。気にせず食べて構わないよ」

 目の前に座ったリドルは優しく言ってくれました。
 それに顔を輝かせた三巳は、けれど半眼のオーウェンギルド長を見て俯き唇を噛み締めました。

 「……大丈夫なんだよ……。三巳だって大人だから我慢出来るんだよ……」

 と、全然大丈夫じゃなさそうに言いましたが、決して涙は見せません。血の涙は心の中で流すのです。
 尻尾を丸めてピルピル震える三巳に、オーウェンギルド長は盛大な溜息を吐きました。

 「獣神娘が耐えてる内に話しちまおう」
 「そうだね、それじゃあ改めて」

 頭を抱えるオーウェンギルド長に、リドルも頷き居住まいを正しました。

 「今日は私個人ではなく、リファラの統轄としてお話したいんだったね」

 リドルはそう言って眼鏡を光らせます。
 そうです。気の良いおいちゃんにしか見えないこの人こそ、現在リファラの政治を取り纏めている国のトップなのです。立ち位置的には総理大臣や大統領が近いです。

 「うぬ。そうなんだよ。だからリリの父ちゃんのはとこのリドルおいちゃんは今はお休みしててなんだよ」

 そしてリドルはリリの親戚のおじさんでもありました。リリのお父さんのはとこで、名前はリドル・リフィルです。
 リドルはリリがリファラに帰って来た時には一番大怪我を負っていました。何故なら国民を守る為に体を張って頑張っていたからです。ホロホロで作った薬とリリの回復魔法で今ではすっかり元気の筈ですが、今でも政務を頑張り過ぎて目の下にクマさんを飼っている事が多い人です。
 三巳は元気になったリドルにしか会っていませんが、当時の事を話すリリが涙目なのできっと相当に酷かったのだろうと感じています。

 「でもまたお仕事頑張り過ぎてクマさん飼わないようになー。程々のお話で終わらすんだよ」

 三巳はお母さんの気分でリドルの目の下を鋭く凝視しました。化粧で誤魔化していても、その下にクマさんを飼っているのはお見通しなのです。

 「あはー、やっぱり三巳ちゃんに隠し事は出来ないねぇ。
 でも三巳ちゃんとお話するのは私にとってとても良い息抜きになっているからね。出来れば沢山お話聞きたいな」

 リドルは参った参ったと降参のポーズを取ると、お茶目にウィンクをしてニッコリ微笑みました。

 「うぬ。ならば聞かせてしんぜよー。三巳は今日はいっぱい山の事お話するんだよ!」

 むふーと嬉しさに胸を膨らませた三巳は、そう言うと膨らませた胸を更に逸らして尻尾と耳をピーン!と立たせました。
 そうして山の事とロウ村長とお話した今後のお付き合いの事を、身振り手振りを交えて楽しく語るのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...