獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

リファラの偉い人とお話したいんだよ

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 リファラに着いて早々に、リリはリファラの民に、ロダは大工さん達に囲まれています。
 じゃあ三巳は何しているかというと、子供達に尻尾を揉みくちゃにされてる状態で人を探していました。一人はオーウェンギルド長なので直ぐに合流出来ましたが、もう一人は如何やら噴水広場には来ていない様です。

 「あいつは増えた住人と観光客で仕事が山積みだからな」

 とはオーウェンギルド長の言葉です。
 という事で三巳は子供達が保護者に呼ばれるまで、ひとしきり揉みくちゃにされるに甘んじました。お陰でヨロヨレになりましたが、子供は元気が一番なので三巳も良い笑顔です。

 「お待たせなんだよー」

 広場の入り口で待っていたオーウェンギルド長に手と尻尾を振って近寄ると、

 「律儀に全員相手にするこたぁねーぞ」

 と乱れた衣服と尻尾を軽く直してあげました。手間の掛かる子を持つ親の気分がしないでもありません。

 「にゅふー。子供はおおらかに育って欲しいんだよ」

 満足気に尻尾をブンブン振る姿に苦笑で答えると、オーウェンギルド長は三巳に手を差し出しました。

 「それじゃあ行くとするか」
 「うにゅ!案内よろしくお願いするんだよ!」

 三巳はその手を両手で掴むとニパリと歯を見せて元気な笑顔で答えます。
 リリ達は山にいた間に変わった事などを聞くために、住人達と残って話し中です。なので三巳はオーウェンギルド長と並んで目的の人物に会いに行きました。

 道すがら三巳が山の楽しいを語りつつ大通りを進み、辿り着いたのはお城跡地の直ぐ近くでした。

 「およ、こんなに近くに有ったのかー」
 「大事な役所だ。そりゃ思い入れの深い場所に建てたくもなるさ」

 そうです。三巳がやって来たのはリファラの政治的拠点だったのです。
 城の門跡地周辺は人の出入りが多いので警備的拠点を置き、役所は城跡地の裏手を守る様に建っていました。

 「お役所は三巳には用事無かったからなー。
 そういえばアポ取ってないけどお話出来るのかな?」
 「今言うかよ。まあ良い、話は通してある」
 「おお!流石オーウェンギルド長なんだよ!頼りになるんだよ!」

 オーウェンギルド長の言う通り、門では直ぐに

 「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 と、中に案内して貰えました。
 建ててからそれ程の時間経過を経ていない屋内は、何処もまだ新築同然で歩いていて気持ちが良いです。ヒンヤリとした石造りの廊下を裸足で歩く三巳は、思わず獣型で寝そべりたくなりました。

 「うーにゅ。今度獣型で遊びに来てみようかな」

 小さい姿ならきっと皆快く寝転がらせてくれるだろうと、立てた打算にニヤリと頬が緩みます。

 「お前……ほんっと威厳のいの字もねぇよな……」

 三巳の言葉を聞いていたオーウェンギルド長が半眼で呆れ返っています。けれどもそれが三巳らしいとも思っているので、実はちょっぴし口角が上がっているのでした。

 三巳とオーウェンギルド長は案内されるままに着いて行っています。そして着いた先は社員食堂でした。

 「はわっ!社食があるんだよ!?メニューが豊富なんだよ!?」

 入り口に立て掛けられたメニュー看板を見て、三巳の尻尾が大興奮に振りまくりです。横にいたオーウェンギルド長はモロに尻尾の餌食になっていました。

 「テメェ、この獣神小娘……」

 バシバシと勢い良く当たる尻尾に、しかし仁王立ちでビクともしないのは流石ギルド長を務めるだけあるのでしょう。
 ピクピクと血管が浮き出るオーウェンギルド長ですが、目が看板から微動だにしていない三巳は全く気付きません。
 いよいよもってオーウェンギルド長の拳骨が落ちるかと思われたその時です。

 「はっはっは。そんなに喜んで貰えたなら食堂ここに来て貰って正解だったね」

 朗らかな声と共にやって来た人がいました。
 片手を上げてゆったり優雅に歩くその人は、スーツっぽい服を身に付けて眼鏡を掛けている男性です。格好だけならクールなビジネスマンですが、その穏やかな気性の顔立ちが見る人の心を落ち着かせてくれそうです。

 「リフィル閣下、この度は忙しい中時間を取って頂き感謝する」
 「やあ、オーウェンギルド長。なぁに、三巳ちゃんのおねだりなら街の皆が聞いてしまうというものだよ」

 リフィルと呼ばれた男の人とオーウェンギルド長が挨拶を交わしています。けれども三巳の目はまだまだ看板から離れそうもありません。

 「うーにゅぅー。どれか一つなんて選べないんだよ。全部食べられるんだよ。でも毎日違うの食べるのも楽しいんだよ」

 美味しそうに描かれた料理の数々に、三巳の涎は止まる事を全力拒否しているのでした。
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