獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

ドレスをプレゼントされたんだよ

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 三巳達は、今日も今日とてウィンブルドン邸にお泊まりしています。
 前回は病気のシェザンナが表に出られず、殆どリリとしか接点が有りませんでした。だからシェザンナは改めて三巳とロダと友好を深めたいと引き留めたのです。
 という訳で今三巳は

 「ふぎゃ――――!?」

 悲壮な悲鳴をあげています。

 「もう少しの辛抱ですよ、さあお腹を引っ込めて!」

 あげさせているのはハンナとウィンブルドン邸のメイドです。その手は三巳の体を押さえ、別の人の手は跡が付きそうな程に2本の紐を引っ張り握り締めていました。

 「ふふふ、慣れていないと苦しいかもしれませんわね」

 横ではシェザンナがコロコロと扇子越しに笑っています。

 「私も久し振りだったから苦しかったわ」

 更にその横ではリリも苦笑を滲ませています。
 その2人はとっても清楚なドレスに身を包んでいました。
 そうです。今三巳はハンナとメイドに囲まれてドレスアップをしているのでした。
 ドレスアップ前のエステは前世でも経験があるので夢見心地でしたが、流石の三巳もドレスアップは経験がありません。コルセットでお腹をギューッと絞られるのは中々に苦しいものがありました。

 「「「はぅっっっ」」」

 そうしてメイクアップまでされた三巳に、居合わせた女性陣一同が顔を赤く染めて立ち眩みしました。

 「「「モフ可愛……!」」」

 ふわりと広がるドレススカートは花柄にあしらったレースに縁取られ、胸元には大きなリボン、腰下からはサラリと揺れる艶もふ尻尾、頭は結い上げられて少し垂れてしまっている耳もレースがあしらわれています。
 大きなパッチリお目々もまつ毛を緩くカールされ、健康的に薄く化粧が施されたお顔は、お人形さんの如く可愛らしさがありました。

 (((会心の出来です!!)))

 其れ等を施したハンナとメイド達は、心の中で花弁を舞わせてガッツポーズをしています。けれども主人の前なのでスンとしたお澄まし顔で頭を下げました。

 「はぅぅ~、お嬢様をするのも大変なんだよ~」

 頑張ってじっと耐えていた三巳は、疲れて今にも頽れそうになっていました。けれどドレスを汚しそうなので頑張って立っています。普段裸足の三巳が、ヒールの靴を履いてピルピル震えながら頑張って立っています。

 「絵師!絵師を呼んで頂戴!」
 「まあ!シェーナ、それなら庭園で描いて頂くのが良いわ!」

 そのあまりのいじらしさに、シェザンナが物凄い剣幕で侍女に命じ、リリもなんて素敵な事を思いつくのかと全力で乗っかってきました。
 同じ思いを抱いていた女性陣の行動は素早いものでした。

 「き、着替えたいんだよ!?」
 「もうちょっと、もうちょっとそのままでいて頂戴っ」
 「私からもお願いよっ」
 「「「わたくし達からもお願い致しますっ」」」
 「ぴっ!?」

 たじろぐ三巳は勢いに乗った女性陣に逆らえず、結局絵画が仕上がるまで付き合わされたのでした。



 「もうドレスは懲り懲りなんだよ……!」

 何着も着せ替え人形になった三巳は、やつれた顔でそうボヤいたそうな。
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