獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

年月は状況を変えていてちょっとしんみりするんだよ

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 村を抜け、山を越え、結界を抜けてサクサク進みます。
 2度目のお出掛けは手慣れた様子であっという間にウィンブルドン領の門の前です。

 「ここに来るのも久し振りだね」

 マントは着てても顔を隠していないロダが、塀を見上げて言いました。

 「皆お元気かしら。お嬢様はもう完全に治ってるわよね」

 同じく顔を隠さないリリが塀の向こうへ思いを馳せて言いました。

 「リリが診たから絶対大丈夫なんだよ」

 三角お耳をピコピコ見せて、三巳は自分の事のようにドンと胸を張って答えます。

 『嫌な匂いしないから大丈夫だぞ!』

 ネルビーもフスフス鼻を鳴らして自慢気です。
 唯一以前は一緒にいなかったハンナは会話には参加せず、おっとり慈愛の笑みを深めてリリの斜め後ろに控えています。

 「あ、次順番だよ。通行証の準備しよう」

 先頭にいたロダが列が動いたのを確認して言いました。懐から通行証を出していつでも見せる準備は万端です。
 三巳とリリも同じく懐から通行証を出しました。
 ネルビーも威風堂々と首を上げ、首輪に取り付けた証明書をこれ見よがしに見せています。リファラで作って貰っていたのです。三巳曰く「迷子札のよう」ですが、ネルビーはとっても満足しています。

 「はい次ー、と。ああ!君達か!久し振り、大きくなったなぁ」

 列が進んで一番前に出ると、門番さんが気付いて破顔してくれました。以前も最初に対応してくれた門番さんのゲイツです。
 以前と違い今回は通行証があるので堂々と見せます。
 これに門番さんもニッコリ笑顔が溢れます。

 「はい、確かに確認したよ。ようこそウィンブルドンへ!」

 門番さんが大きく街の中を指し示し歓迎してくれました。これに三巳達もニッコリ満面の笑顔です。
 軽い足取りで中に入れば懐かしい街並みに胸が熱くなってきました。

 「あのお店、初めてお買い物したお店だ」
 「ええ、よく覚えているわ。だってロダが初めてのお買い物で私にプレゼントしてくれたお店だもの」
 「リリ……!」

 ポッと顔を赤くして腕に光る腕輪を触るリリに、ロダも顔を赤くして嬉しそうに破顔しました。

 「進んでないよーで」
 『ロダが男を上げてるの誇らしいぞ』
 「ふふふ、姫様も女の子らしくてとっても喜ばしいわ」

 リリとロダの世界の片隅で、三巳とネルビーとハンナが生暖かく見守っています。
 懐かしいお店を見て回りながらウィンブルドン伯爵のお家に向かっていると、前方から大きく片手を上げてやって来る者がいました。

 「ダーナ爺ちゃん!」

 門番の隊長のダーナーです。

 「よう。元気そうだな」

 ダーナーは三巳のピョコンと動くお耳をわしゃわしゃ撫でて満面の笑みです。

 「ダーナ爺ちゃんも元気そうでなによりなんだよ。今日はお仕事お休みか?」

 三巳はダーナーが私服なのを見て首を傾げます。
 これにダーナーは「わっはっは」と大きく笑い三巳を抱き上げました。

 「はわわっ!?三巳子供じゃないから重いんだよ!?」
 「なぁに、全然軽いさ。それにしても前と変わらんなぁ。後ろの2人は随分と大人になってるが」
 「むむぅっ、三巳だって、三巳だって少しはっ……!」
 「はっはっは!三巳ちゃんは可愛いから良いじゃないか。俺も引退して暇だからな、目一杯可愛がらせてくれよ」

 なんと、ダーナーは会わない数年の間に無職になっていました。三巳は耳と尻尾をピーン!と立たせてビックリです。

 「!!ダーナ爺ちゃんお仕事辞めちゃったのか!?」
 「俺ももういい歳だからよ、後は後陣に譲るってな」
 「ダーナ爺ちゃんだってまだ若いだろー」
 「はっはっは!俺はそのつもりだがな、流石に50過ぎたから定年だよ」

 ダーナーは三巳を降ろすと手を繋ぎました。
 50で定年。前世では70まできっちり働いた三巳にとってそれは衝撃です。

 (50なんてまだまだ働き盛りなのに!)

 とはいえ科学も医学もなんなら管理栄養学も発達していない世界では当然かもしれません。日本だって昔は寿命が短かったですからね。
 でも山の民は違います。先代達はやはり寿命が短かったですが、三巳が皆の健康を気にしたのでとっても長生きになりました。

 「ダーナ爺ちゃん三巳達の村にお引越しするか?」

 眉尻を下げて見上げる三巳に、ダーナーは虚をつかれた顔で視線を合わせます。その心配を全面に出し切った目に、垂れ耳と垂れ尻尾が合わさりグッと心臓に刺さります。

 「ありがとう三巳ちゃん。でもな、息子や孫がこの街にいる。だから俺はここで生きてくよ」

 ダーナーは三巳の頭をわしわし撫でて言いました。

 「そうかー」

 三巳は残念そうに目を閉じて、その気持ちの良い大きな手の平に耳の付け根を押し付けました。
 お互いにいつでも遊びに来てねと約束している内にウィンブルドン伯爵のお家はもう目の前まで来ているのでした。
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