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リリがロキ医師の元に帰って来ました。
久し振りに見る診療所は、一年しか過ごしていなかった筈なのに帰って来たという思いがしました。
「おかえりリリや」
相変わらず閑古鳥が鳴いている診療所の中から、ロキ医師がニッコリと笑みを深めて出て来ました。
皺だらけの手を広げてリリを優しく迎え入れるロキ医師に、リリはリファラで張り詰めていた気が一気に抜けました。そしてその胸に寄り添い抱き締めます。
「ただいま。お義祖父様」
リリがそう言うと、ロキ医師は目を見開きます。そして目尻を柔和に下げ、頑張ったリリの背中を労る様にポンポンと叩きました。初めて祖父と呼んで貰えてとっても嬉しい気持ちでいっぱいです。
目に涙を浮かべるリリを、ハンナは複雑な、けれどもホッとした穏やかな笑みで見守っています。
「おや、お客様とは珍しいのう。どうれリリや、新しいお友達を紹介してくれんかのう」
ロキ医師がハンカチを取り出し目尻に浮かんだ涙を拭っていたハンナに気付きました。
話を振られたハンナは姿勢を正します。そしてゆっくりと頭を下げました。
「お義祖父様、この人はハンナ。血は繋がっていないけれど私のお姉様みたいなひとなの。
ハンナ、この人がロキ医師よ」
リリにお姉様と紹介されたハンナは、頭を下げたまま目を見開きます。そう思って貰えていた事に、そしてそう紹介してくれた事がとっても嬉しかったのです。
「ハンナと申します」
「ようこそハンナ、わしはロキ爺じゃよ。さあさ、立ち話もなんだから中にお入りなさいよ」
ロキ医師はハンナの頭を上げさせて、リリとハンナの背に手を当てて中に促しました。
「三巳もネルビーもおかえり。一緒に中でお茶を飲もう」
「たっだいまー♪」
『ただいまだぞ!』
ロキ医師のリビングで茶卓を囲んで一休み。三巳は久し振りの縁側で、美女母とクロに囲まれてご満悦です。
茶卓にはリリとハンナが並んで座り、リリの足元でネルビーが丸くなっています。その前にロキ医師が湯呑みにお茶を入れています。
その様子を見つめながら、リリは決心していました。
「お義祖父様にお話したい事があります」
改まった物言いに、ロキ医師は好々爺とした片眉を「ふむ」と上げました。
「そうじゃの。リリの話ならいっぱい聞きたいのう」
ホケホケ笑ってお茶を配ったら、居住まいを正して聞く姿勢になりました。
ハンナは心配な顔でリリを見つめます。
リリはそれに晴れやかな笑みで返しました。
「私の事。故郷の事。何があって、何をして来たのか、お義祖父様に聞いて欲しいの」
「うんうん、聞かせておくれ」
何処までも穏やかに構えるロキ医師に、リリは安心して過去の出来事を話し始めました。
ずっと話せなかった心のわだかまり。騙していた訳ではないけれど、ずっと申し訳なく思っていました。
故郷の人々にとてもとても酷い苦行を強いてしまった事を、苦しい思いを飲み込んで話します。だって本当に苦しかったのはリファラの民だと思うからです。
力も知識も無い逃げる事しか出来たなかった幼かった自分を悔いて、恥じて。けれども三巳と山の民達のお陰で前を向いて向き合って、学んで力をつける事が出来ました。
そして教わった全てを惜しみなく発揮し、救えるだけの多くの人々に今度こそ力を尽くせた事を、やっと、ロキ医師に話せる様になったのでした。
久し振りに見る診療所は、一年しか過ごしていなかった筈なのに帰って来たという思いがしました。
「おかえりリリや」
相変わらず閑古鳥が鳴いている診療所の中から、ロキ医師がニッコリと笑みを深めて出て来ました。
皺だらけの手を広げてリリを優しく迎え入れるロキ医師に、リリはリファラで張り詰めていた気が一気に抜けました。そしてその胸に寄り添い抱き締めます。
「ただいま。お義祖父様」
リリがそう言うと、ロキ医師は目を見開きます。そして目尻を柔和に下げ、頑張ったリリの背中を労る様にポンポンと叩きました。初めて祖父と呼んで貰えてとっても嬉しい気持ちでいっぱいです。
目に涙を浮かべるリリを、ハンナは複雑な、けれどもホッとした穏やかな笑みで見守っています。
「おや、お客様とは珍しいのう。どうれリリや、新しいお友達を紹介してくれんかのう」
ロキ医師がハンカチを取り出し目尻に浮かんだ涙を拭っていたハンナに気付きました。
話を振られたハンナは姿勢を正します。そしてゆっくりと頭を下げました。
「お義祖父様、この人はハンナ。血は繋がっていないけれど私のお姉様みたいなひとなの。
ハンナ、この人がロキ医師よ」
リリにお姉様と紹介されたハンナは、頭を下げたまま目を見開きます。そう思って貰えていた事に、そしてそう紹介してくれた事がとっても嬉しかったのです。
「ハンナと申します」
「ようこそハンナ、わしはロキ爺じゃよ。さあさ、立ち話もなんだから中にお入りなさいよ」
ロキ医師はハンナの頭を上げさせて、リリとハンナの背に手を当てて中に促しました。
「三巳もネルビーもおかえり。一緒に中でお茶を飲もう」
「たっだいまー♪」
『ただいまだぞ!』
ロキ医師のリビングで茶卓を囲んで一休み。三巳は久し振りの縁側で、美女母とクロに囲まれてご満悦です。
茶卓にはリリとハンナが並んで座り、リリの足元でネルビーが丸くなっています。その前にロキ医師が湯呑みにお茶を入れています。
その様子を見つめながら、リリは決心していました。
「お義祖父様にお話したい事があります」
改まった物言いに、ロキ医師は好々爺とした片眉を「ふむ」と上げました。
「そうじゃの。リリの話ならいっぱい聞きたいのう」
ホケホケ笑ってお茶を配ったら、居住まいを正して聞く姿勢になりました。
ハンナは心配な顔でリリを見つめます。
リリはそれに晴れやかな笑みで返しました。
「私の事。故郷の事。何があって、何をして来たのか、お義祖父様に聞いて欲しいの」
「うんうん、聞かせておくれ」
何処までも穏やかに構えるロキ医師に、リリは安心して過去の出来事を話し始めました。
ずっと話せなかった心のわだかまり。騙していた訳ではないけれど、ずっと申し訳なく思っていました。
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そして教わった全てを惜しみなく発揮し、救えるだけの多くの人々に今度こそ力を尽くせた事を、やっと、ロキ医師に話せる様になったのでした。
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