獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

待ってる間にも出来る事

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 三巳達はライドゥーラの生き残りを探す旅に同行しませんでした。
 それはそうでしょう。
 いつまで掛かるかわからない。どんな人がいるかわからない。そんな旅路に少女で元とはいえ自国の王女たるリリを連れて行けません。
 そして三巳は母獣にリファラで学べと言及されています。という大義名分で、未だ怖い外の国に行くのは控えました。
 そう、リファラはリリの国だから何となく平気でした。ウィンブルドン領は娘思いの領主のお陰で何となく平気でした。
 けれども他の人族の国はまだ行った事がありません。昔に初代山の民達から聞いた話はどれも怖いものでした。

 (にゅぅぅ~。三巳はもう社畜は嫌なんだよ。一見怖い人も実はそうじゃ無いってわかったけど、三巳みたいな獣神が、栄えた街中なんて行った日には……)

 この世界でも宗教はあります。
 山に住む者だって表立ってはいないだけで、キチンと山神様として敬っているのです。だからこそ三巳の前では誰も血生臭い事をしません。
 でも他の国は堂々と神や精霊を祀っていました。
 リファラにも神や精霊を祀った廟が有るくらいです。他の国でその神本人が表れでもしたら……。
 三巳は想像しただけで毛を逆立てるのでした。

 そんな訳で居残り組となった三巳達ですが、ただ待っているつもりは有りません。

 「それじゃあ使える薬草がないか散策に行きましょう」

 城跡地に建てて貰ったログハウス。今はハンナも交えて4人と1匹で暮らすその家から皆が出ると、リリが先頭きって言いました。
 リファラの為に一生懸命学んだ医学と薬学。ほんの1年程度しか学べませんでしたが、それでも多くのものを教わりました。
 今がその力を使う時と、リリは張り切りまくりです。

 「傷薬になる薬草は出来るだけ欲しいわ。それと炎症を抑えるのと、ああもしかしたら脚気になっている人もいるかも。だとすると……」

 張り切ったリリは緑あふれる森の中、丹念に葉っぱや木の実を確認しながら欲しい物をどんどんとあげていきます。

 「リファラに帰ってからのリリは行動力に磨きが掛かってるなー」

 その行動を眩しく思い見守りながら、三巳が呟きます。
 その横で同じく張り切るリリが可愛いと見守っていたロダが、ピクリと目を見開きました。そして考えてしまいます。

 「リリは……やっぱりリファラで暮らした方が幸せなのかな……」

 視線の先。光さす緑に囲まれて、植物を採取するリリのその姿が、1枚の絵のように見えてしまいました。
 そう、まるで別の世界の住人の様に。

 「うんにゃ。リリは残る事を選ばんと思うぞ」

 なのに三巳がロダのモヤモヤなんて見透かした様に断言しました。

 「何でわかるの。だってリリはこの国のお姫様なんだよ?リファラの民だって放したりしないよ」
 「にゃははー、ロダはまだまだリリをわかってないなー」

 カラカラ笑う三巳に、ロダはムゥーっと口を尖らせました。
 今のところリリと一番の仲良しは三巳です。三巳はリリと同性だから恋のライバルにはならないと分かっています。でもやっぱりちょっと悔しいので、

 (頑張ろう)

 と力瘤を作ってロダは思いました。
 そんな話をしている間にもリリはズンズンと森の奥へと進んでいました。
 その更に前を行くネルビーが不意に立ち止まり、鼻を上に向けてふんふんと熱心に嗅ぎ始めます。

 『リリ!あそこピカピカの花の匂いするぞ!』
 「ピカピカ?」

 ネルビーの興奮した声に、リリは一瞬何だと思います。けれども直ぐに『ピカピカ』に思い至ってハッとしました。

 「それって……!」

 言うが早いか駆け出します。

 「「リリっ」」

 リファラ周辺の生き物は安全とはいえ、何があるかわかりません。三巳とロダも慌てて追い掛けました。
 そうして緑生い茂る先の、明るく光が照らされている場所。その入り口に辿り着くや、リリは目をめいっぱい広げ、息が止まる位に驚き固まりました。
 その後ろから追い付いた三巳とロダも、その光景を見て互いに顔を見合わせました。

 「まだ新しいホロホロの群生地だな」

 何でもない様な口調で言った三巳に、リリは弾かれた様に振り向きます。
 その目には、涙が溢れていました。

 ホロホロは、悪意を嫌います。
 以前のリファラは栄えていただけに、多種多様な人達が出入りしていました。故にホロホロは過去のリファラには無かったものです。
 それが今、目の前に広がっています。
 皮肉な事に、二度の国の瓦解によって人が減り、ホロホロが芽吹ける様になったのでした。
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