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本編
救いの声と助け合い
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三巳は今、リリと一緒に集会所に来ています。
「それじゃあ他にもライドゥーラの方が困っているかも知れないのね」
「ああ。俺達は国を追われた後、散り散りに逃げたからな。
アンタらに迷惑掛けた俺達が言える事じゃねぇのはわかってる。けど、リファラの国民として受け入れて貰えたからこそ、今もなお不遇の生活を送ってる仲間達を救ってやりてぇんだ」
リリが念を押して確認すると、元武装した人達の中でもリーダー格だったジョナサンが頭を下げました。
「俺ぁ今はこいつの親方だからな。ジョナの仲間なら手を貸してやりてぇんだ」
ジョナサンの働き口は、大工でした。
その職場でツラツラと別れた仲間の心配を口にした事で、あれよあれよと大工仲間が話し合いの場を整えてくれたのです。
その大きく暖かく力強い懐のデカさに、ジョナサンはもう悪い事を考えた自分が恥ずかしく思っています。
親方の大きな手で背中を押され、目頭が熱くなります。
(本当に俺は何をやってたんだ。内実も知らず、上の言う事を鵜呑みにして、今はもうただ申し訳ない気持ちでいっぱいだ)
「やめておけ、ジョナサン達はたまたま上手くいっただけだ。人数も増えれば管理なんぞ行き届かんぞ」
苦言を呈するのはオーウェンギルド長です。
酸いも甘いも経験しているからこそ、臭いものは全力拒否の姿勢です。
「私は救えるなら救いたい」
リリはあのかつてのジョナサン達の貧しい姿が頭を過り、胸が締め付けられる思いです。
「でも、私は自分の事すら守れないちっぽけな存在で、ジョナサンさん達の事だってリファラのみんなが助けてくれた事だから」
いくら自国の姫といえど、王国としては既に瓦解しています。みんな敬い大切にしてくれるけれど、最早王族としての権限はほぼ無くなっていました。
いいえ、あったとしてもきっとリリなら独断で決めたりはしなかったでしょう。
「姫様……。
俺達は姫様の優しさにずっと癒されてきた。
だからこそあの時、姫様だけでも逃げ延びてほしいと、国民みんなが願っていた。
そして今、復興途中とはいえ安全な国に戻ったこの地に姫様は戻ってきてくれた。
守れなかったあの時の分。俺達は姫様の思いになるべく答えてやりたいんだ」
リリに願いを込めて見上げられたリファラの民の代表。長躯な体に似合わず付いた筋肉や傷が、これまで苦労してきたと物語る中々に頼れる風情の壮年男性です。
「ゼリアス……」
ゼリアスと呼ばれた男性は、不安そうな、でも強い意志を失っていないリリの瞳を見返して、ゆったりと微笑み返しました。
「姫様は姫様のしたいようにしていいんだ。俺達はいつだってその心積りが出来てる。
まあ、それにこの件に関しては俺達も何とかしたいと話していたんだけどな」
ゼリアスは力強く頷きました。
リリは、そしてジョナサンはその暖かさに嬉しくなって、じわりと顔を赤らめました。感動でお目々もウルウルです。
『よくわからないけどおれはリリが嬉しい事が嬉しいぞ。
リリにはおれがついてるし、リファラにはモンスターのみんながついてるからな』
ネルビーもよくわかっていないけどリリがしたい事ならわかります。
オーウェンギルド長を見上げ、元気よくヘッヘッと息巻いています。尻尾もブンブン振りまくりです。
「だから。俺には犬っころの言ってる言葉わかんねぇっつの」
やる気を見せるネルビーに、しかしオーウェンギルド長は眉を顰めました。
すかさず三巳が通訳をします。けれども通訳を聞いた後の方が顰めて出来る皺が深くなりました。
「それが目下一番の心配事だけどな」
モンスターを平然と受け入れられるのはリファラの民だけです。
ライドゥーラの元民達も今はリファラ籍に入ったとはいえ慣れません。ジョナサン達にはモンスター達の言葉がわからないのですから。
「にゅ?」
『わふ?』
けれども存在が獣な三巳とネルビーはジョナサンに沢山遊んで貰っています。
受け入れられないという状態が想像出来ず、ただただ不思議そうに首を傾げるのでした。
「それじゃあ他にもライドゥーラの方が困っているかも知れないのね」
「ああ。俺達は国を追われた後、散り散りに逃げたからな。
アンタらに迷惑掛けた俺達が言える事じゃねぇのはわかってる。けど、リファラの国民として受け入れて貰えたからこそ、今もなお不遇の生活を送ってる仲間達を救ってやりてぇんだ」
リリが念を押して確認すると、元武装した人達の中でもリーダー格だったジョナサンが頭を下げました。
「俺ぁ今はこいつの親方だからな。ジョナの仲間なら手を貸してやりてぇんだ」
ジョナサンの働き口は、大工でした。
その職場でツラツラと別れた仲間の心配を口にした事で、あれよあれよと大工仲間が話し合いの場を整えてくれたのです。
その大きく暖かく力強い懐のデカさに、ジョナサンはもう悪い事を考えた自分が恥ずかしく思っています。
親方の大きな手で背中を押され、目頭が熱くなります。
(本当に俺は何をやってたんだ。内実も知らず、上の言う事を鵜呑みにして、今はもうただ申し訳ない気持ちでいっぱいだ)
「やめておけ、ジョナサン達はたまたま上手くいっただけだ。人数も増えれば管理なんぞ行き届かんぞ」
苦言を呈するのはオーウェンギルド長です。
酸いも甘いも経験しているからこそ、臭いものは全力拒否の姿勢です。
「私は救えるなら救いたい」
リリはあのかつてのジョナサン達の貧しい姿が頭を過り、胸が締め付けられる思いです。
「でも、私は自分の事すら守れないちっぽけな存在で、ジョナサンさん達の事だってリファラのみんなが助けてくれた事だから」
いくら自国の姫といえど、王国としては既に瓦解しています。みんな敬い大切にしてくれるけれど、最早王族としての権限はほぼ無くなっていました。
いいえ、あったとしてもきっとリリなら独断で決めたりはしなかったでしょう。
「姫様……。
俺達は姫様の優しさにずっと癒されてきた。
だからこそあの時、姫様だけでも逃げ延びてほしいと、国民みんなが願っていた。
そして今、復興途中とはいえ安全な国に戻ったこの地に姫様は戻ってきてくれた。
守れなかったあの時の分。俺達は姫様の思いになるべく答えてやりたいんだ」
リリに願いを込めて見上げられたリファラの民の代表。長躯な体に似合わず付いた筋肉や傷が、これまで苦労してきたと物語る中々に頼れる風情の壮年男性です。
「ゼリアス……」
ゼリアスと呼ばれた男性は、不安そうな、でも強い意志を失っていないリリの瞳を見返して、ゆったりと微笑み返しました。
「姫様は姫様のしたいようにしていいんだ。俺達はいつだってその心積りが出来てる。
まあ、それにこの件に関しては俺達も何とかしたいと話していたんだけどな」
ゼリアスは力強く頷きました。
リリは、そしてジョナサンはその暖かさに嬉しくなって、じわりと顔を赤らめました。感動でお目々もウルウルです。
『よくわからないけどおれはリリが嬉しい事が嬉しいぞ。
リリにはおれがついてるし、リファラにはモンスターのみんながついてるからな』
ネルビーもよくわかっていないけどリリがしたい事ならわかります。
オーウェンギルド長を見上げ、元気よくヘッヘッと息巻いています。尻尾もブンブン振りまくりです。
「だから。俺には犬っころの言ってる言葉わかんねぇっつの」
やる気を見せるネルビーに、しかしオーウェンギルド長は眉を顰めました。
すかさず三巳が通訳をします。けれども通訳を聞いた後の方が顰めて出来る皺が深くなりました。
「それが目下一番の心配事だけどな」
モンスターを平然と受け入れられるのはリファラの民だけです。
ライドゥーラの元民達も今はリファラ籍に入ったとはいえ慣れません。ジョナサン達にはモンスター達の言葉がわからないのですから。
「にゅ?」
『わふ?』
けれども存在が獣な三巳とネルビーはジョナサンに沢山遊んで貰っています。
受け入れられないという状態が想像出来ず、ただただ不思議そうに首を傾げるのでした。
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