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本編
目標を持つということ
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三巳が恥を忍んで暴走の経緯を話し終えました。
その間リリは微笑みを絶やさず、相槌を入れながら聞いていました。
「そう……。私の為に怒ってくれたのね。ありがとう三巳」
「大好きな人の為に怒るのは当たり前なんだよ。でも三巳の場合はちゃんと心の制御をしなきゃいけなかった」
「そうね。でも心は時に思う通りにいかないものだから……」
リリにも覚えがあるのか、目を伏せて自嘲を含んだ笑みをしました。
その反応に、三巳はリリの魔力が使えなくなった原因に思い至ります。
「うん。そうだな」
過ぎた事は悔やんでも始まりません。ただそっと寄り添う様に手を握り合いました。
「三巳。もっと色んな人達を知って、自分を知る」
「ええ、私も。もっと世界を知るわ。知って何故過去の悲劇が防げなかったのか考える。考えて同じ過ちを繰り返さない様に、同じ悲しみを増やさない様に、最後の王族としての責任を果たしたいの」
「三巳達同じだな」
「同じね。だから」
手の平を合わせて握り合うさまは、まるで天へ祈りを捧げているようです。
「うん」
目を瞑り、お互いの目標を心に刻み込みます。
「「一緒に知っていこう」」
互いに重なり合う同質の願いは、やがて三巳の神力と、リリの魔力が重なり合い、混ざり合い、そしてリリの癒し手の力が魔力に乗って三巳の力を鎮めていきました。
鎮められた力は光の粒となり、空に溶けていきます。
ロダとハンナはその幻想的な様子に胸を熱くして見守ります。ハンナはリリの成長振りに目が潤み、ハンカチを目に当てています。
「私、今とっても嬉しいの」
いつもの三巳に戻ったのを確認したリリは、立ち上がり、蹲っていた三巳をヨイショと引っ張り起こしました。
「うん?」
清々しい笑顔に吊られて三巳も二ヘリと力の抜けた笑みを浮かべました。耳をピコピコ動かして話しの続きを待ちます。
「だって、助けられてばかりだった私が三巳の力になれたのよ。こんなに嬉しい事はないわ」
「三巳も助けに来てくれて嬉しかったんだよ。
ロダもネルビーもハンナもありがとう」
「家族を助けるのは当たり前だよ。そう育ててくれたのは三巳じゃないか」
『守るって約束したからな。おれは約束は守るんだぞ』
「三巳様は姫様の大切なご友人です。お力になるのは当然です」
沢山の友達に囲まれて、三巳の気分はポカポカ暖かくなります。さっき迄の悲しみは今はもう何処にもありません。
前を向いて生きていく勇気を、ここにいるみんなから貰えたからです。
「うん。本当にありがとうな」
三巳は尻尾を横に振ってリリと、その横にお座りしていたネルビーを抱き締めました。
「それにしても、随分ボサボサになったね。毛並みを整えない?」
元気にフリフリしている尻尾を見て、ロダが苦笑を漏らします。神気に当てられた毛並みは、静電気を帯びた時みたいにあっちへピョンピョン、こっちへピョンピョン飛び跳ねていたからです。
「本当ね。そのままでも可愛いけど、一度戻って櫛でとかさせて欲しいな」
「うーにゅぅ、見た目だけでバチバチしそうなんだよ。お願いするんだよ」
一応レディの三巳は、流石に今の姿を人目に晒したくない様です。後ろを振り返って見た尻尾に、眉間に皺を寄せて脱力しました。
参った状態の三巳に、みんなは顔を見合わせて微苦笑です。
「街のみんなに騒がせた事謝るの、櫛で梳かしてからじゃだめかなー?」
三巳はダメ元で上目遣いにお願いをしました。
「優先順位的には先に謝った方が良いだろうけど……」
ロダはうーんと唸りますが、女の子の気持ちもわからないではありません。山以外の常識がわからないので正解が導き出せずにハンナに視線で助けを求めました。
「大丈夫ですよ。リファラの民は女性に恥をかかせる方が嫌がりますから」
ハンナは侍女頭として、主人の身嗜みには人一倍煩い立場にありました。その観点からも今の状態を人目に晒すのは宜しくない。寧ろ手入れさせなさいとばかりにニコリと笑い掛けました。その瞳からは闘志が見えます。久し振りに侍女魂に火が着いています。
三巳はその迫力にゴクリと唾を飲んで後ろのめりになりました。
「よ、よろしくお願いします」
なんだかよくわからないけれど背中がゾワゾワしています。けれどハンナは大好きなので素直に頭を下げました。
「さあ姫様、三巳様を可愛くしてしまいましょう」
「ええハンナ、折角だもの。着て欲しいお洋服が沢山あるのよ」
「着替えは必要無いぞ?ほら、早く騒がせてゴメンなさいしたいしな」
「いけません。謝罪をするならば身嗜みも誠意の内です」
「安心してよ。みんなには僕から先に伝えておくから」
「ほほほほほほ。そういう訳ですので」
「ふふふふふふ。一度思いっきり三巳を可愛くしてみたかったのよね」
「お、お手柔らかにお願いするんだよ……」
こうして三巳は、モフラーのリリと侍女魂に燃えるハンナにドナドナされて行くのでした。
その間リリは微笑みを絶やさず、相槌を入れながら聞いていました。
「そう……。私の為に怒ってくれたのね。ありがとう三巳」
「大好きな人の為に怒るのは当たり前なんだよ。でも三巳の場合はちゃんと心の制御をしなきゃいけなかった」
「そうね。でも心は時に思う通りにいかないものだから……」
リリにも覚えがあるのか、目を伏せて自嘲を含んだ笑みをしました。
その反応に、三巳はリリの魔力が使えなくなった原因に思い至ります。
「うん。そうだな」
過ぎた事は悔やんでも始まりません。ただそっと寄り添う様に手を握り合いました。
「三巳。もっと色んな人達を知って、自分を知る」
「ええ、私も。もっと世界を知るわ。知って何故過去の悲劇が防げなかったのか考える。考えて同じ過ちを繰り返さない様に、同じ悲しみを増やさない様に、最後の王族としての責任を果たしたいの」
「三巳達同じだな」
「同じね。だから」
手の平を合わせて握り合うさまは、まるで天へ祈りを捧げているようです。
「うん」
目を瞑り、お互いの目標を心に刻み込みます。
「「一緒に知っていこう」」
互いに重なり合う同質の願いは、やがて三巳の神力と、リリの魔力が重なり合い、混ざり合い、そしてリリの癒し手の力が魔力に乗って三巳の力を鎮めていきました。
鎮められた力は光の粒となり、空に溶けていきます。
ロダとハンナはその幻想的な様子に胸を熱くして見守ります。ハンナはリリの成長振りに目が潤み、ハンカチを目に当てています。
「私、今とっても嬉しいの」
いつもの三巳に戻ったのを確認したリリは、立ち上がり、蹲っていた三巳をヨイショと引っ張り起こしました。
「うん?」
清々しい笑顔に吊られて三巳も二ヘリと力の抜けた笑みを浮かべました。耳をピコピコ動かして話しの続きを待ちます。
「だって、助けられてばかりだった私が三巳の力になれたのよ。こんなに嬉しい事はないわ」
「三巳も助けに来てくれて嬉しかったんだよ。
ロダもネルビーもハンナもありがとう」
「家族を助けるのは当たり前だよ。そう育ててくれたのは三巳じゃないか」
『守るって約束したからな。おれは約束は守るんだぞ』
「三巳様は姫様の大切なご友人です。お力になるのは当然です」
沢山の友達に囲まれて、三巳の気分はポカポカ暖かくなります。さっき迄の悲しみは今はもう何処にもありません。
前を向いて生きていく勇気を、ここにいるみんなから貰えたからです。
「うん。本当にありがとうな」
三巳は尻尾を横に振ってリリと、その横にお座りしていたネルビーを抱き締めました。
「それにしても、随分ボサボサになったね。毛並みを整えない?」
元気にフリフリしている尻尾を見て、ロダが苦笑を漏らします。神気に当てられた毛並みは、静電気を帯びた時みたいにあっちへピョンピョン、こっちへピョンピョン飛び跳ねていたからです。
「本当ね。そのままでも可愛いけど、一度戻って櫛でとかさせて欲しいな」
「うーにゅぅ、見た目だけでバチバチしそうなんだよ。お願いするんだよ」
一応レディの三巳は、流石に今の姿を人目に晒したくない様です。後ろを振り返って見た尻尾に、眉間に皺を寄せて脱力しました。
参った状態の三巳に、みんなは顔を見合わせて微苦笑です。
「街のみんなに騒がせた事謝るの、櫛で梳かしてからじゃだめかなー?」
三巳はダメ元で上目遣いにお願いをしました。
「優先順位的には先に謝った方が良いだろうけど……」
ロダはうーんと唸りますが、女の子の気持ちもわからないではありません。山以外の常識がわからないので正解が導き出せずにハンナに視線で助けを求めました。
「大丈夫ですよ。リファラの民は女性に恥をかかせる方が嫌がりますから」
ハンナは侍女頭として、主人の身嗜みには人一倍煩い立場にありました。その観点からも今の状態を人目に晒すのは宜しくない。寧ろ手入れさせなさいとばかりにニコリと笑い掛けました。その瞳からは闘志が見えます。久し振りに侍女魂に火が着いています。
三巳はその迫力にゴクリと唾を飲んで後ろのめりになりました。
「よ、よろしくお願いします」
なんだかよくわからないけれど背中がゾワゾワしています。けれどハンナは大好きなので素直に頭を下げました。
「さあ姫様、三巳様を可愛くしてしまいましょう」
「ええハンナ、折角だもの。着て欲しいお洋服が沢山あるのよ」
「着替えは必要無いぞ?ほら、早く騒がせてゴメンなさいしたいしな」
「いけません。謝罪をするならば身嗜みも誠意の内です」
「安心してよ。みんなには僕から先に伝えておくから」
「ほほほほほほ。そういう訳ですので」
「ふふふふふふ。一度思いっきり三巳を可愛くしてみたかったのよね」
「お、お手柔らかにお願いするんだよ……」
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