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本編
不穏な気配
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日々は忙しなくも穏やかに進み、気付けば夏の盛りになりました。
夏野菜も豊富に実り、露天に行く度に目にも鮮やかでついつい余分な買い物をしてしまいます。お陰で三巳は異世界料理のレシピが随分と増えました。
「今日はどうするかなー」
朝も満腹食べた三巳は、お腹を摩りながら歩きます。
「料理覚えても母ちゃんの宿題終わった事にはならないよなー」
そうです。三巳はもう少し大人になる為にいるのです。
「多分だけど、傲りとか暴走とか心を乱さない為に心を鍛えろって事だよなー」
三巳も一応一度は社会人を全うした多分良い大人です。
面倒事は嫌いで、スポーツ以外の争いも嫌いで、遊ぶのと縁側で日向ぼっこしながら茶柱を楽しむのが好きだけど、本人は至って真面目に大人のつもりです。
「でも三巳ってばパワハラモラハラにも耐え抜けたから、それ以外に乱しそうなのってどんな事だ?」
山ののほほんとした空気に長年どっぷり浸かっていても、過去の経験は確かに力になっています。
それでも平和な現代日本。いえ、殆どの現代の国で経験していない事があります。そしてそれはこの星の山の外ではごく当たり前に起こり得る事です。
現にリファラはそれが起こってしまったのですから。
それでも三巳は話しに聞いて一緒に悲しみ、復興に力を尽くしました。
だからこそ理解に及ばなかったのです。
聞くと見ると経験するとでは大違いであると。
三巳はのほほんと歩いて街の散策をします。歩けば何かに当たるだろうと。
「今日は畜産のお手伝いにでも行こうかな」
思い至って街の外れに向かった三巳です。裏路地を横切れば近道だと、またまたふと思い至って細い路地に入りました。
そこで三巳の耳は不穏な会話を拾ってしまいます。
「……の生き残りが復讐を目論んでるだと?」
「はい。まだリファラの人々は気付いていませんが、モンスター達がいる今。知るのも時間の問題かと」
「……彼等は既に多くの傷を負った。これ以上の傷を増やすのは忍び無い」
「ええ同感です。出来れば事が起きる前にギルドで対処出来ればと思い、有力な冒険者に声を掛けています」
「そうか。俺も各国のギルド長に連絡を取ってみよう」
「宜しくお願いします。ヴァーンギルド長」
三巳は思わず立ち尽くしてしまいました。
会話は常人には聞こえない程遠くで、声を潜めて行われていました。だから会話の主達と鉢合わせする事はないでしょう。
三巳は大きく目を開けたまま、彼等の気配が消えるまで呆然と動けないでいました。
今初めて、リリに起きた事を身近なものとして実感したのです。
ぐるぐる。ぐるぐる。三巳の頭の中はミキサーにかけられたみたいな気分です。
(終わった事だと思っていたのに)
景色がグニャリと歪む中。リリの笑顔だけはハッキリと頭の中に思い描いています。
(まだ。リリを苦しめるのか?)
思った瞬間。頭の中のリリまで少しづつ歪み始めてしまいました。
三巳の心臓がドキンドキンと大きく早鐘を打ちます。
(駄目だ。そんなの駄目だ)
いつしか三巳の両の瞳からは止めどなく涙が溢れていました。
そして……。
ゴゴゴゴゴゴ……!
三巳の体から漏れ出た神気に呼応して、三巳を中心とした地震が起きてしまいました。
今はまだ「あれ?何か揺れてる?」と誰かが気付く程度の揺れです。けれども揺れは少しづつ強く、大きな波となって広がっていきました。
足元が揺れているのに三巳は気付きません。
リリを傷付ける者達への怒りが沸々と湧き起こり、視界が黒く塗り潰されていきます。
異変は、モンスターとネルビーがいち早く気付きました。
次いでリリとロダが、その後三巳に近い者から気付き、震源地に視線が向く頃。
三巳のいる場所からは金色に輝く光の柱が立ち昇っていました。
夏野菜も豊富に実り、露天に行く度に目にも鮮やかでついつい余分な買い物をしてしまいます。お陰で三巳は異世界料理のレシピが随分と増えました。
「今日はどうするかなー」
朝も満腹食べた三巳は、お腹を摩りながら歩きます。
「料理覚えても母ちゃんの宿題終わった事にはならないよなー」
そうです。三巳はもう少し大人になる為にいるのです。
「多分だけど、傲りとか暴走とか心を乱さない為に心を鍛えろって事だよなー」
三巳も一応一度は社会人を全うした多分良い大人です。
面倒事は嫌いで、スポーツ以外の争いも嫌いで、遊ぶのと縁側で日向ぼっこしながら茶柱を楽しむのが好きだけど、本人は至って真面目に大人のつもりです。
「でも三巳ってばパワハラモラハラにも耐え抜けたから、それ以外に乱しそうなのってどんな事だ?」
山ののほほんとした空気に長年どっぷり浸かっていても、過去の経験は確かに力になっています。
それでも平和な現代日本。いえ、殆どの現代の国で経験していない事があります。そしてそれはこの星の山の外ではごく当たり前に起こり得る事です。
現にリファラはそれが起こってしまったのですから。
それでも三巳は話しに聞いて一緒に悲しみ、復興に力を尽くしました。
だからこそ理解に及ばなかったのです。
聞くと見ると経験するとでは大違いであると。
三巳はのほほんと歩いて街の散策をします。歩けば何かに当たるだろうと。
「今日は畜産のお手伝いにでも行こうかな」
思い至って街の外れに向かった三巳です。裏路地を横切れば近道だと、またまたふと思い至って細い路地に入りました。
そこで三巳の耳は不穏な会話を拾ってしまいます。
「……の生き残りが復讐を目論んでるだと?」
「はい。まだリファラの人々は気付いていませんが、モンスター達がいる今。知るのも時間の問題かと」
「……彼等は既に多くの傷を負った。これ以上の傷を増やすのは忍び無い」
「ええ同感です。出来れば事が起きる前にギルドで対処出来ればと思い、有力な冒険者に声を掛けています」
「そうか。俺も各国のギルド長に連絡を取ってみよう」
「宜しくお願いします。ヴァーンギルド長」
三巳は思わず立ち尽くしてしまいました。
会話は常人には聞こえない程遠くで、声を潜めて行われていました。だから会話の主達と鉢合わせする事はないでしょう。
三巳は大きく目を開けたまま、彼等の気配が消えるまで呆然と動けないでいました。
今初めて、リリに起きた事を身近なものとして実感したのです。
ぐるぐる。ぐるぐる。三巳の頭の中はミキサーにかけられたみたいな気分です。
(終わった事だと思っていたのに)
景色がグニャリと歪む中。リリの笑顔だけはハッキリと頭の中に思い描いています。
(まだ。リリを苦しめるのか?)
思った瞬間。頭の中のリリまで少しづつ歪み始めてしまいました。
三巳の心臓がドキンドキンと大きく早鐘を打ちます。
(駄目だ。そんなの駄目だ)
いつしか三巳の両の瞳からは止めどなく涙が溢れていました。
そして……。
ゴゴゴゴゴゴ……!
三巳の体から漏れ出た神気に呼応して、三巳を中心とした地震が起きてしまいました。
今はまだ「あれ?何か揺れてる?」と誰かが気付く程度の揺れです。けれども揺れは少しづつ強く、大きな波となって広がっていきました。
足元が揺れているのに三巳は気付きません。
リリを傷付ける者達への怒りが沸々と湧き起こり、視界が黒く塗り潰されていきます。
異変は、モンスターとネルビーがいち早く気付きました。
次いでリリとロダが、その後三巳に近い者から気付き、震源地に視線が向く頃。
三巳のいる場所からは金色に輝く光の柱が立ち昇っていました。
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