獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

お婆ちゃんの知恵袋?

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 リファラの復興は毎日少しづつ進んでいます。

 「おおーい!こっち建て終わったぞ!」
 「わかった!次の家待ちの家族呼んで来る!」

 今日もまた新たな住宅が完成しました。
 年若い青年が気合いの入った返事を返して走り去ります。一時避難場所に集まる人達の所へ向かったのです。
 青年はター!と走り去ったと思ったら、ター!と誰も連れずに一人で戻ってきました。

 「もう待ちはいなかった!」
 「え?」
 「へ?」
 「なん、だと?」

 気合いがトップスピードに入ったまま急停止を掛けられ、集まった一同は各々の振るう道具を空転させてしまいました。

 「危ないんだよ!?」

 勢い余ってすっぽ抜けた斧を、三巳が慌てて尻尾に巻き付け回収しました。踊っていただけなので直ぐに対応出来ました。
 三巳が「ふいー」っと冷や汗を拭うなか、おじさん達が困り顔で話し合いを始めます。三巳達の建てる住宅はいつの間にか全世帯分まで建て終わっていたからです。むしろ作り過ぎて余る位です。

 「困ったな。コレ、どうすりゃ良いんだ?」
 「壊すって言っても使った材料が勿体ないよな」

 地球と違って建築材料は木製に頼りきりです。つまりは建築の為に伐採をしてしまっているのです。自然を愛するリファラの民達に、木を無駄にするという選択肢はありませんでした。

 「三巳はよくわからないんだけど、旅人用のコテージとして使うには安全性に欠けるのか?」
 「「「こてーじ?」」」

 三巳は斧を持ち主に返して疑問を口にしました。けれども宿屋という定義はあっても、贅沢旅行なコテージは知識として無かった様です。むくつけきおじさん達が一同に、可愛らしく目を点にしてキョトンと首を傾げました。

 (コテージってこの世界には無いのかな?)

 三巳も不思議に思って耳をピクピクさせています。「うーにゅぅ」と腕を組んで唸り、さてどう説明したものかと思案します。

 「一戸丸ごと一部屋として貸し出す宿?ご飯は自炊しても良いし、別途注文しても良い自由スタイルな宿?」

 悩みが持続しない三巳は思ったままに伝えました。

 「へー!そりゃ面白いな!冒険者なんかだと人数もソコソコいたりするし、部屋を分けて宿を取るより楽だし気兼ねしないし、何より人数によっては安く済むって事か」
 「たまに視察に来る他国の騎士様達も有りかもしれないな」
 「下手に仲悪い人達と同じ宿だと喧嘩になる事もあるしな」

 どうやら概ね理解はして貰えたらしく、三巳はホッと胸を撫で下ろしました。

 「問題は誰がやるかだな」
 「宿屋のジョニーで良いんじゃ無いのか?」
 「ジョニーんとこは商店街だろ、遠過ぎじゃねぇか?」
 「それにあそこも大宿だからな。こっちまで手が回らんだろ」

 おじさん達は「あーでもない。こーでもない」と議論が進みますが、結論には中々至りません。
 三巳は内政干渉にならないと良いなと思いつつ、ビッと元気良く手を上げました。
 おじさん達は議論を止めて三巳を見ます。何かを待つ様に手を上げたまま尻尾を揺らす三巳に、一度視線だけで相談します。そして一番三巳に近いおじさんが「三巳ちゃん何かい?」と尋ねました。

 「オーナー募集してみれば誰かやりたい人出ないかな」

 当てられた三巳は喜びで耳をピーンと立てると、キラキラした目で意見を出しました。
 オーナー募集はよくフランチャイルズの会社で見かけました。三巳にとっては当たり前の意見でした。

 「ぼ、募集!?オーナーを!?」

 けれどもこの世界ではまだ無いシステムだった様です。ザワザワと驚きの喧騒が起きました。
 三巳は変な事言ったのかな!?とビックリしてペタリと耳を垂らしてしまいます。
 ザワザワはさざ波となって広がり、ちょっとした混乱が起きてしまいます。
 三巳は更に尻尾をしゅるしゅると丸めてしまいました。

 「面白い発想だ」
 「基本、店は跡継ぎ制だからな」
 「新しく始めるには金も掛かるし、そうそう出来るもんじゃない」
 「それを舞台だけ用意するから運営は任せるなんて。普通しない。金持ちの道楽でもしない」

 けれども聞こえてきた声は肯定的な色が強く、チランと上目遣いに様子を伺っていた三巳の目がパァっと輝きました。

 「それなら他にも欲しい店はあるよな!」
 「確かに!出来れば近場で肉屋も魚屋も八百屋も欲しいな」

 おじさん達は早速募集を掛けてみようとノリノリです。
 三巳は上機嫌に尻尾をブンブン振って、またもや「はい!」と元気良く手を上げました。

 「おっ。又何か良い案か?」
 「それなら一つの大きな建物の中で区画を作れば屋根も有るし一箇所で済むし便利だと思います!」

 つまりはショッピングモールの要領です。
 個人商店も楽しいですが、忙しい毎日にはやっぱり近くて便利が欲しくなります。更にはスーパーマーケットの提案もすると、おじさん達は「流石は神様だな!博識だ!」と絶賛しました。

 「にゃはー。三巳が凄いんじゃないんだよ。最初に思い付いた人が凄いんだよ」
 「な!?これを思い付いたのは同じ人族なのか!」
 「こうしちゃおれん!俺達も負けずにリファラを盛り立てよう!」

 人族というより地球人ですが、三巳にとってはお婆ちゃんの知恵袋的感覚なので、「そうだよ!頑張るんだよ!」と無邪気に応援するのでした。
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