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本編
癒えない傷
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モニュメントを前に宴が開かれています。
みんなとつとつと思い出話を語り合っています。
リリも失われた多くのものを思い出しては話の輪に加わっていて、三巳とロダはそれを近くで静かに聞いていました。
三巳の苦手な物悲しさに、耳はシオシオと垂れ下がり、尻尾はリリを慮ってクルリと囲んで毛先だけがパタパタと揺れ動いています。
そこへダカダカと音を立てて小さな足音が沢山聞こえてきました。
そのただならぬ雰囲気に、三巳は垂らした耳を瞬時にピンと立たせ警戒を露わにします。
はたしてやって来たのはロハス位の子供達でした。みんな涙で顔をグシャグシャにさせて眉をこれでもかと吊り上げています。
その様子にリリも胸の前で両手をギュッと握ります。
「お、おまえっ、おまえがっ!なんでいきてるんだよっ!」
「おかあしゃんも!おとうしゃんも!もういないのにっ!」
「おまえのせいだ!」
「おまえが父ちゃんと母ちゃんを殺したんだ!」
そしてリリが予想していた通りの事を言われました。
もう寝る時間だというのに何処からか話を聞きつけやって来たのです。自分達の悲しみをぶつけたくて、友達に声を掛けてみんなでやって来たのです。
リリはそれを胸をズキズキさせながら黙って聞いています。反論なんて出来ません。する気も有りません。言われて当然だと思っているからです。
「うん。ごめんね。ごめんなさい」
ただ、子供達が言いたい事を言い終えてから、ゆっくりと静かに頭を下げました。涙はグッと堪えています。
(私がここで泣いたら駄目だわ。泣いた所でこの子達の傷は癒えないのだから)
むしろリリが泣く事で、行き場を求めてやってきた悲しみがさらに行き場を無くしてしまう。そう思いリリは子供達の悲しみを受け入れました。まだ十代中頃程度の少女が。
「リリ……」
そのリリの強さに、三巳は胸を打たれました。精神年齢お婆ちゃんな三巳は、嫌な事から逃げて避け続けて山で生きてきました。
それを今初めて恥ずかしいと思えたのです。
「かえせっ!かえせよぅ!」
子供達は頭を下げるリリを囲むと、ポカポカと叩いて泣きじゃくります。
リリは沢山の子供達に叩かれましたがジッと動かず頭を下げ続けました。
本当はみんなを抱き締めて癒してあげたいと思っていましたが、それをリリがしたところで火に油でしかないとグッと堪えました。
「こら!」
「お前達はあれ程言ったのにまぁだわからんのか!」
代わりに憤りを見せたのはリファラの大人達でした。
暴れる子供達を一人一人抱き上げます。
「だって!だって―――!」
宥めすかす大人に子供達はぐずりが止まりません。
「いいえ、いいえ、この子達の気持ちは正しいわ。私が婚約なんてしなければ良かったのよ」
リリは俯いたまま肩を震わせます。落ちる涙は決して子供達に見せまいと、さらに頭を深く下げました。
「いいえ。それは違います。
確かに姫様との婚約は彼の国に機会を与えたでしょう。
されどあの様なことをする者は理由など無くとも同じ事をしていたと思います」
「みんな……」
泣き叫ぶ子供達とは対照的に、大人達は何処までも冷静でした。
「うあ゛あ゛あ゛ん!!」
「ままー!まぁまー!!」
大人達がリリを慮れば慮る程、子供達の張り裂けんばかりの泣き声が耳を抉ります。
その光景に三巳は泣きたくなりました。
この世に悪い事をする人間がいなければ、今のこの瞬間は無かっただろうから。
三巳は考えました。
(泣く子達にとって、悲しい事があったリファラにこのままいて辛くないのか。
でも悲しい前はきっと楽しい思い出ばかりだったんだろうな。
悲しいと楽しい。それを胸に秘めて明日を生きるにはこの子達は小さ過ぎるんだよな。
いっそ山に連れ帰るか。でもリファラの事はリファラの民達の問題で、子供達も知ってる大人がいた方が安心だろうしな)
悶々と出口の見えない問題を考えて、考えて。
「よし。直接聞こう」
答えが見つからなくて目を回した三巳は、答えを本人に求めました。
「なあ、お前達…………寝とる…………」
しかし三巳がウンウン唸っている間に子供達は泣き疲れて眠ってしまっていました。
意図せず問題が先延ばしになってしまい、モヤモヤを消化出来ない三巳は取り敢えずリリに抱き付き、ガックシと耳を垂らすのでした。
みんなとつとつと思い出話を語り合っています。
リリも失われた多くのものを思い出しては話の輪に加わっていて、三巳とロダはそれを近くで静かに聞いていました。
三巳の苦手な物悲しさに、耳はシオシオと垂れ下がり、尻尾はリリを慮ってクルリと囲んで毛先だけがパタパタと揺れ動いています。
そこへダカダカと音を立てて小さな足音が沢山聞こえてきました。
そのただならぬ雰囲気に、三巳は垂らした耳を瞬時にピンと立たせ警戒を露わにします。
はたしてやって来たのはロハス位の子供達でした。みんな涙で顔をグシャグシャにさせて眉をこれでもかと吊り上げています。
その様子にリリも胸の前で両手をギュッと握ります。
「お、おまえっ、おまえがっ!なんでいきてるんだよっ!」
「おかあしゃんも!おとうしゃんも!もういないのにっ!」
「おまえのせいだ!」
「おまえが父ちゃんと母ちゃんを殺したんだ!」
そしてリリが予想していた通りの事を言われました。
もう寝る時間だというのに何処からか話を聞きつけやって来たのです。自分達の悲しみをぶつけたくて、友達に声を掛けてみんなでやって来たのです。
リリはそれを胸をズキズキさせながら黙って聞いています。反論なんて出来ません。する気も有りません。言われて当然だと思っているからです。
「うん。ごめんね。ごめんなさい」
ただ、子供達が言いたい事を言い終えてから、ゆっくりと静かに頭を下げました。涙はグッと堪えています。
(私がここで泣いたら駄目だわ。泣いた所でこの子達の傷は癒えないのだから)
むしろリリが泣く事で、行き場を求めてやってきた悲しみがさらに行き場を無くしてしまう。そう思いリリは子供達の悲しみを受け入れました。まだ十代中頃程度の少女が。
「リリ……」
そのリリの強さに、三巳は胸を打たれました。精神年齢お婆ちゃんな三巳は、嫌な事から逃げて避け続けて山で生きてきました。
それを今初めて恥ずかしいと思えたのです。
「かえせっ!かえせよぅ!」
子供達は頭を下げるリリを囲むと、ポカポカと叩いて泣きじゃくります。
リリは沢山の子供達に叩かれましたがジッと動かず頭を下げ続けました。
本当はみんなを抱き締めて癒してあげたいと思っていましたが、それをリリがしたところで火に油でしかないとグッと堪えました。
「こら!」
「お前達はあれ程言ったのにまぁだわからんのか!」
代わりに憤りを見せたのはリファラの大人達でした。
暴れる子供達を一人一人抱き上げます。
「だって!だって―――!」
宥めすかす大人に子供達はぐずりが止まりません。
「いいえ、いいえ、この子達の気持ちは正しいわ。私が婚約なんてしなければ良かったのよ」
リリは俯いたまま肩を震わせます。落ちる涙は決して子供達に見せまいと、さらに頭を深く下げました。
「いいえ。それは違います。
確かに姫様との婚約は彼の国に機会を与えたでしょう。
されどあの様なことをする者は理由など無くとも同じ事をしていたと思います」
「みんな……」
泣き叫ぶ子供達とは対照的に、大人達は何処までも冷静でした。
「うあ゛あ゛あ゛ん!!」
「ままー!まぁまー!!」
大人達がリリを慮れば慮る程、子供達の張り裂けんばかりの泣き声が耳を抉ります。
その光景に三巳は泣きたくなりました。
この世に悪い事をする人間がいなければ、今のこの瞬間は無かっただろうから。
三巳は考えました。
(泣く子達にとって、悲しい事があったリファラにこのままいて辛くないのか。
でも悲しい前はきっと楽しい思い出ばかりだったんだろうな。
悲しいと楽しい。それを胸に秘めて明日を生きるにはこの子達は小さ過ぎるんだよな。
いっそ山に連れ帰るか。でもリファラの事はリファラの民達の問題で、子供達も知ってる大人がいた方が安心だろうしな)
悶々と出口の見えない問題を考えて、考えて。
「よし。直接聞こう」
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「なあ、お前達…………寝とる…………」
しかし三巳がウンウン唸っている間に子供達は泣き疲れて眠ってしまっていました。
意図せず問題が先延ばしになってしまい、モヤモヤを消化出来ない三巳は取り敢えずリリに抱き付き、ガックシと耳を垂らすのでした。
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