獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

慰霊碑

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 復興中のリファラの王城跡地に、リリは複雑な思いを抱えてやって来ました。
 一度ボロボロに焼き崩され、その後に他国の様式にお城をリフォームされ、その後さらに沢山の人やモンスター達が押し寄せた結果、再起不能に崩れた王城跡地です。

 「見る影もない位にボロボロね」

 暗闇の中でもわかる位に崩れたお城を見てリリが言いました。
 悲哀の涙を流しながら、もうどうしようも取り返せない現実に空笑いしか作れません。ポッカリ空いた心を埋める様にネルビーにしがみ付いています。

 『リリっ、リリっ、あそこ!天辺の壊れた跡ってドラゴンの爪痕じゃないか!?』

 ネルビーも最初の巣が壊されて憤懣やる方ないと唸っていましたが、城の傷跡を見て今度は飛び上がらんばかりに興奮しました。

 「まあっ、本当!
 ……本当に色んな種族のモンスター達が手を差し伸べてくれたのね」

 ネルビーの鼻先に視線を移し光を当てれば、確かに城の外壁にはクッキリと太く長い大きな爪痕が残されていました。それも元婚約者の国章をあしらった場所にあり、思わず苦笑いになります。

 「それにしても随分と酷い有り様だ。リリも、他のみんなも良く無事でいてくれたんだよ」
 「本当にそうだね。亡くなった方達は残念だったけど……」
 「うん。だから三巳は争い事が嫌いなんだよ。失ったもの達は戻らないし、傷付いた心は永遠に胸に残り続ける」
 「そうだね。山は平和だからつい忘れがちになるけど、これが外の世界の現実なんだね」

 しんみりする気持ちを胸に、三巳達は城と街に長い黙祷を捧げました。
 三巳に至っては悲しい思いをした魂達の為に、神様仲間としてよしなにと、ちゃっかりお願いをしていました。

 (まあ、輪廻を司る神に知り合いはいないんだけど)

 「さて。それじゃあちゃちゃっと場所を作ろうか」

 黙祷を終えた三巳は、周囲を更に明るく照らして大きく尻尾を横に振りました。
 リリ達はそれに合わせて門跡地まで待避します。
 三巳はリリ達の安全を確認すると、その場で踊る様に尻尾を振り回します。
 すると足元に転がる瓦礫の山が、次々と浮いてクルクル踊り出しました。そしてそれが一箇所に集まり形を成していきます。

 「よし。こんなものかな。
 ロダー!あと宜しく」

 何となくモッコリと何かの形に見えた所で、三巳は耳と尻尾をピンと立ててロダを呼びました。

 「相変わらず前衛的だね」

 ロダは瓦礫の塊を見てクスクス楽しそうに笑います。
 リリも近付き見上げました。何を作るか知っていたリリは、けれどもそれが何かは良くわかりませんでした。

 『三匹の大豚か?』

 ネルビーが見えたままを素直に言いました。

 「うぐぅ。仕方ないんだよ。三巳は細かい作業は苦手なんだよ」
 「ふふふ、お絵描きはとっても上手なのにね」
 『でもたまに犬かウサギかわからない時あるぞ』
 「それが三巳の味だけどね。
 ええっと、それじゃあリリのご両親と、騎士他使用人達と、リファラの民と、モンスター達のモニュメントに加工するね」

 そう言ってロダは三巳の作った塊もとい、リファラの復興モニュメントを再加工していきました。リリとネルビーに細部まで確認を取りながらリリの為に一心不乱に心を込めて作りました。

 「これは……!」

 その出来栄えに、遠巻きに見守っていたハンナやリファラの民達が息を飲みます。
 リリは大きく見開いた目を涙で潤ませ、両手で口を塞ぐ事で感情が溢れ出るのを抑えました。そしてフラフラとモニュメントに近付くと、国王と王妃の形の足元にそっと触れて甘える様に額を付けました。

 「……お父様……お母様……みんな……」

 肩を震わせ嗚咽を噛み殺すリリに、集まった人々も貰い泣きです。各々に亡くなった大切な人の名を呼んだり、リリを案じて声を掛け慰めたりします。
 別れを惜しみながらも、モニュメント前の綺麗に広くなった場所に持って来た物を広げ始めました。
 切っ掛けは宴を開くと言ったリファラの民達に言ったリリの一言。

 「三巳に教えて貰ったのよ。墓前にオソナエモノをするとお空で見守ってくれてる人達も美味しく頂けるのですって」

 その言葉はリファラの民達の心に火を灯しました。
 亡くなった人達の為にもまだ出来る事があると。
 さらに遺影は写真がこの世界には無いらしく、遺物を用いようとしたリファラの民達に、三巳が銅像は傑物達だけのものじゃ無いと教えました。広島や長崎にある様なモニュメントもあると。
 それで出来たのがロダが完成させたモニュメントだったのです。
 悲しい出来事を忘れない様に。悲劇を繰り返さない様、後世に伝え残す為に。

 「お父様はチコの実が好きだったわ。
 お母様はリンゴ。騎士達と料理長は異国のお酒。メイドや侍女達は甘いお菓子」

 初めに、リリが用意した食べ物をモニュメントの前に備えます。
 黙祷を捧げて場を譲ると、次々と御供物が山を築いていきました。
 最後に三巳とロダがお香を上げて黙祷を捧げます。
 お香から出る煙は、集まった人達の思いを乗せて、何処までも何処までも高く天へと昇っていくのでした。
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