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本編
貴族令嬢を助けよう①
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三巳達はフードを被って門の列に並んでいました。
三巳とロダは初めて見る目の前の巨大防壁を見上げて感嘆の声を上げています。
「高いなー。中国の長い壁も凄いけど、これは今実際に人族が活用してる生きた壁だもんなー」
「中国?」
三巳の呟きにリリが首を傾げました。
それはそうでしょう。聞いた事の無い国名だったのですから。
「物語に出てくる国の名前だよ」
三巳の代わりにロダが答えました。
三巳は山の子供達に物語として童話以外にも地球の話を沢山しています。
「三国志も僕好きだなぁ。水滸伝も捨て難い」
「ふふふ。三巳から紡がれる物語はとっても面白そうね。今度私にも聞かせてほしいわ」
「おー。任せとけ。いつでも大丈夫だからな」
それは然りとて列は動きます。動けば前に進む訳で、首を垂直に見上げる頃には自分達の番が回ってきていました。
「おや。子供三人だけか?保護者はいないのか?」
門番のおじさんが随分と下にある頭三つを微笑ましく見下ろしました。
「山向こうから修行の旅に出てきたんだ。これから色んな街を渡り歩くんだけど、必要な物がわからないんだよ」
精神的年長者の三巳が前に出て身振り手振りで説明します。緊張で毛が逆立ち、ソワソワと尻尾を揺らします。
説明する度にローブの裾が尻尾につられてはためくので、おじさんはどうしたものかと不思議に思いました。
「それは大変な風習を持ってるね。
そういえば何十年か前にもそんな少年が来たと隊長が言っていたな」
初めてのお使いを見守る近所のおじさんの目をした門番さんは、はてと顎に手を当てて言いました。
それを聞いた三巳は(ロウ村長の事だな)と確信を持って頷きます。
「その子は冒険者登録をする事で通行許可を貰ったそうだよ」
「他の方法は無いのか?」
「多額の通行料を払う方法もあるけど……」
「三巳達はお金無いんだよ」
「だよねぇ。うぅ~ん、他にもあったかな?」
子供達の為に何とか通してあげたい門番さんですが、お仕事なのでそうもいきません。
困ってしまった門番さんの元へ、後ろから貫禄のある白髪混じりの門番さんがやって来ました。
「よう、ゲイツ。如何かしたのか」
若いおじさんの門番さんと三巳達を見やって、貫禄のある門番さんが尋ねます。
ゲイツと呼ばれた門番さんは背後を振り向いてホッとしました。
「隊長、実は……」
ゲイツは貫禄のある門番さん……隊長に事のあらましを説明しました。
門番の隊長は「成る程」と頷くと、三巳達に向き直りました。
「よう、嬢ちゃん達。通行証が欲しいんだってな」
「そうなんだよ。ロウ村長……ローガと違って冒険者したい訳じゃないんだよ。だからどうしたもんかと」
三巳がローブの下の耳と尻尾をシュンと垂らして言うと、門番の隊長はピクリと片眉を上げました。
ローガはロウの名を受け継ぐ前のロウ村長の名前です。
「ローガ?そうか、アイツの知り合いか。なんだアイツ村長なんてやってんのか。道理で顔を見せなくなった筈だ」
どうやら門番の隊長はロウ村長の知り合いだった様です。クツクツとエクボを覗かせて楽しそうに笑います。
「成る程わかった。先ずは話を聞くから守衛室まで来て貰えるか?」
門番の隊長は孫にする様に三巳の頭をわしゃりと撫でました。
「はわ~」
三巳はローブの上からションモリお耳を撫で撫でされて気持ち良さそうに目を閉じます。
門番の隊長は撫でた時の手触りでそこに人のものではない、獣の耳がある事に気付きました。ふむ。と顎に手をやり、でも撫でる手は一層穏やかに耳の裏ら辺を掻く様に撫で続けます。
「門番さん?」
撫で止まらない門番の隊長に、気持ち良さそうにピルピル震えてる三巳は何も言えません。仕方なくロダがオズオズと声を掛けました。
「おっとすまない。孫が丁度君達位なものでね」
門番の隊長は「いかんいかん」とやっと手を離します。でも撫で足りない手は撫でる頭を求めてワキワキ動いていました。
「こっちだ」
「おおー。壁の中に部屋があるんだよ」
「凄いね」
門番の隊長に連れられて来た場所は、壁の厚み部分に作られた小さな部屋でした。
三巳とロダは見慣れない石造りの部屋に、興味津々とキョロキョロします。
そんなお子様二人に門番の隊長はホッコリしました。三人と一匹を席に座らせると、嬉々としてお茶菓子を振る舞いました。
「わあっ、ありがとう門番さん!」
「ありがとうなんだよ」
「ありがとうございます」
「わん!」
早速手に取り美味しそうに頬張る三人と一匹に、門番の隊長も満足気にニッコリします。
「さて、通行許可の話をしようか」
一息付いた所で門番さんが切り出しました。
三巳達はハッと思い出して居住まいを正します。
「先ずは君達の旅の目的を聞かせて貰えるかい?
それ如何によって勧める内容も変わってくるから」
門番の隊長がなるべく優しく微笑んで聞いてきます。
三巳はコクリと頷いて、差し障りの無い範囲で事情を説明するのでした。
三巳とロダは初めて見る目の前の巨大防壁を見上げて感嘆の声を上げています。
「高いなー。中国の長い壁も凄いけど、これは今実際に人族が活用してる生きた壁だもんなー」
「中国?」
三巳の呟きにリリが首を傾げました。
それはそうでしょう。聞いた事の無い国名だったのですから。
「物語に出てくる国の名前だよ」
三巳の代わりにロダが答えました。
三巳は山の子供達に物語として童話以外にも地球の話を沢山しています。
「三国志も僕好きだなぁ。水滸伝も捨て難い」
「ふふふ。三巳から紡がれる物語はとっても面白そうね。今度私にも聞かせてほしいわ」
「おー。任せとけ。いつでも大丈夫だからな」
それは然りとて列は動きます。動けば前に進む訳で、首を垂直に見上げる頃には自分達の番が回ってきていました。
「おや。子供三人だけか?保護者はいないのか?」
門番のおじさんが随分と下にある頭三つを微笑ましく見下ろしました。
「山向こうから修行の旅に出てきたんだ。これから色んな街を渡り歩くんだけど、必要な物がわからないんだよ」
精神的年長者の三巳が前に出て身振り手振りで説明します。緊張で毛が逆立ち、ソワソワと尻尾を揺らします。
説明する度にローブの裾が尻尾につられてはためくので、おじさんはどうしたものかと不思議に思いました。
「それは大変な風習を持ってるね。
そういえば何十年か前にもそんな少年が来たと隊長が言っていたな」
初めてのお使いを見守る近所のおじさんの目をした門番さんは、はてと顎に手を当てて言いました。
それを聞いた三巳は(ロウ村長の事だな)と確信を持って頷きます。
「その子は冒険者登録をする事で通行許可を貰ったそうだよ」
「他の方法は無いのか?」
「多額の通行料を払う方法もあるけど……」
「三巳達はお金無いんだよ」
「だよねぇ。うぅ~ん、他にもあったかな?」
子供達の為に何とか通してあげたい門番さんですが、お仕事なのでそうもいきません。
困ってしまった門番さんの元へ、後ろから貫禄のある白髪混じりの門番さんがやって来ました。
「よう、ゲイツ。如何かしたのか」
若いおじさんの門番さんと三巳達を見やって、貫禄のある門番さんが尋ねます。
ゲイツと呼ばれた門番さんは背後を振り向いてホッとしました。
「隊長、実は……」
ゲイツは貫禄のある門番さん……隊長に事のあらましを説明しました。
門番の隊長は「成る程」と頷くと、三巳達に向き直りました。
「よう、嬢ちゃん達。通行証が欲しいんだってな」
「そうなんだよ。ロウ村長……ローガと違って冒険者したい訳じゃないんだよ。だからどうしたもんかと」
三巳がローブの下の耳と尻尾をシュンと垂らして言うと、門番の隊長はピクリと片眉を上げました。
ローガはロウの名を受け継ぐ前のロウ村長の名前です。
「ローガ?そうか、アイツの知り合いか。なんだアイツ村長なんてやってんのか。道理で顔を見せなくなった筈だ」
どうやら門番の隊長はロウ村長の知り合いだった様です。クツクツとエクボを覗かせて楽しそうに笑います。
「成る程わかった。先ずは話を聞くから守衛室まで来て貰えるか?」
門番の隊長は孫にする様に三巳の頭をわしゃりと撫でました。
「はわ~」
三巳はローブの上からションモリお耳を撫で撫でされて気持ち良さそうに目を閉じます。
門番の隊長は撫でた時の手触りでそこに人のものではない、獣の耳がある事に気付きました。ふむ。と顎に手をやり、でも撫でる手は一層穏やかに耳の裏ら辺を掻く様に撫で続けます。
「門番さん?」
撫で止まらない門番の隊長に、気持ち良さそうにピルピル震えてる三巳は何も言えません。仕方なくロダがオズオズと声を掛けました。
「おっとすまない。孫が丁度君達位なものでね」
門番の隊長は「いかんいかん」とやっと手を離します。でも撫で足りない手は撫でる頭を求めてワキワキ動いていました。
「こっちだ」
「おおー。壁の中に部屋があるんだよ」
「凄いね」
門番の隊長に連れられて来た場所は、壁の厚み部分に作られた小さな部屋でした。
三巳とロダは見慣れない石造りの部屋に、興味津々とキョロキョロします。
そんなお子様二人に門番の隊長はホッコリしました。三人と一匹を席に座らせると、嬉々としてお茶菓子を振る舞いました。
「わあっ、ありがとう門番さん!」
「ありがとうなんだよ」
「ありがとうございます」
「わん!」
早速手に取り美味しそうに頬張る三人と一匹に、門番の隊長も満足気にニッコリします。
「さて、通行許可の話をしようか」
一息付いた所で門番さんが切り出しました。
三巳達はハッと思い出して居住まいを正します。
「先ずは君達の旅の目的を聞かせて貰えるかい?
それ如何によって勧める内容も変わってくるから」
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