獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

篩いの森を抜けて

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 夜が明けて翌日。朝露が残る朝焼け時に三巳は目を覚ましました。
 三巳の尻尾を抱き枕にするリリからソッと尻尾を外し、ノソノソと外に這い出てきました。

 「うぬ。今日もいい朝だ。清々しい」
 「カー」

 うーんと背伸びをする三巳の元へ昨夜のカラス達がやって来ました。

 「お?待っててくれたのか。ありがとうな」
 「カー、カカー」
 「にゃるへそー。そうなのかー。調べてくれてありがとうな。朝食は軽めだけど一緒に食べるか?」
 「「「カー♪」」」

 そんな訳で朝ご飯もカラス達と一緒した三巳達は、キャンプ跡を片付けていよいよ篩いの森の外へ進出です。

 「昨日の冒険者達、今日はまだ来てないな」
 「諦めたのかな?」

 三巳が耳を欹て言うと、ロダが首を傾げて言いました。

 「どーだかなー。森の事は人族の間でも有名みたいだし、諦めたかもだけど……。
 どーもなー。依頼主ってのが貴族らしいんだよ。なんでも病気の愛娘の為に全財産掛けて依頼してるらしくてな」
 「大変!それは一大事だわっ。ねぇ、三巳。三巳の旅なのはわかるけど、そのお嬢様のところへ寄れないかしら」

 三巳がカラスから聞いた情報を伝えると、リリが目を見開いて辛そうな顔をし、三巳に詰め寄り懇願しました。
 三巳もそう言うだろうと思っていました。ニッコリ笑顔で一つ頷くと、「勿論そのつもりだぞ」とリリの肩に手を乗せます。

 「当たり前だよ。困ってる、それも弱った子供を捨て置く三巳じゃないもんね」

 ロダも頷き満場一致で寄り道が決定しました。
 ネルビーは元々リリの行くとこに行くので文句を言うなんて無いのです。

 「それじゃー、その子結構重篤みたいだから急ごうか」

 三巳が早歩きで歩き出すと、リリとロダがキリリと頷きついて行きます。
 森を抜けて拓けた場所に出るなり三巳は本性に戻りました。

 「!!っ三巳!?可愛い!!」

 巨大モフになった三巳に、リリの可愛いものセンサーが振り切れました。
 真っ赤に震える顔を両手で覆って、興奮に見開かれた瞳をキラキラと輝かせています。

 『おー。ありがとなー。
 近くまでこれでいしょぐから乗ってくれー』

 更に未だにサ行が上手く伝えられない三巳に、リリは可愛さから昇天しそうになりました。
 良い笑顔で後ろに倒れいくリリを、ロダが咄嗟に支えて抱き寄せます。ちょびっと役得だと思ったのは内緒です。三巳がニタリと半眼で見てきてますが、内緒なんです。

 「リリ掴まっててね」

 そのままお姫様抱っこをしたロダは、ピョンピョンと跳んで三巳の首元でリリを降しました。
 ネルビーもその後に続きます。そしてリリの前に陣取りました。

 『じゃー行くじょー、しょの辺の毛にちがみ付いててなー』

 リリとロダがモフりと毛の束にしがみ付くのを確認した三巳は、のそりと起き上がりタッと駆け出しました。

 「わっ!凄いっ」
 「景色が線みたいに見えるわっ」

 その新幹線みたいな速い景色の移り変わりに、勿論新幹線に乗ったことのない二人は大興奮です。
 キョロキョロ、キョロキョロ。右に左に忙しく顔を動かします。

 『獣の神はもっと速かったぞ?』

 母獣と旅をしていたネルビーは、勿論慣れていたので動じませんでした。

 「三巳より速いんじゃきっと目を回してしまうわね」
 「確かに」

 ニコニコ、キャッキャと燥ぐ二人に、三巳も微笑ましい思いで景色が見やすい様に首を心持ち下げました。

 『もうちき着くじょー』

 地平線に街らしき陰影が見え始めたので、三巳は知らせて徐々に速度を落としていきました。
 街の人々に悟られないギリギリの近さまで来ると、ピタリと止まります。

 『ここからは歩きで行くんだよ』
 「ふふふ、三巳ってば最高だったわ」
 「うん、また乗らせて欲しいな」

 リリとロダは伏せた三巳から滑り降りて言いました。
 ネルビーもひとっ飛びでリリの横にスタンと綺麗な着地を決めます。
 みんな降りた事を確認した三巳は、フルリと人型になりました。

 「さて、ところで三巳はこのまま街に入って問題ないのかな?」

 耳と尻尾を摘んだ三巳は、コテンと首を傾げてリリに尋ねます。

 「魔力を扱う者なら大抵三巳が神族だってわかるわ。
 そういう意味じゃ見た目は関係無くて目立ちはすると思う」

 リリも魔力が無事なら直ぐに三巳が神族だってわかりました。でもわからなかったお陰で三巳と仲良くなれたので、結果オーライです。

 「むむ?それは望まないんだよ……」
 「神気って隠すとか変質って出来ないの?」

 腕を組んで悩む三巳に、ロダが不思議そうに聞きました。

 「三巳の物語ではそういう神様出てくるよね」

 続けてロダが小さい頃聞かされた物語を思い出しながら話します。
 それに三巳は目を大きく見開いて輝く鱗をポロポロ零しました。

 「目から鱗なんだよ」

 如何やら今まで自分が使うという発想に、全くもって至らなかった様です。
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