獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

篩いの森②

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 地下水脈を抜けて山の反対側に着きました。
 チーちゃんとはそこで別れて先に進みます。
 山の反対側からは特に苦労もなく、悠々自適にピクニック気分で歩いていました。途中途中に動物やモンスターがヒョッコリ現れては『こんにちわ』と挨拶していきます。

 「はぁ~。やっぱり三巳が先導してる時はモンスターも襲ってこないから平和だね」

 虎型のモンスターと挨拶を交わした後、ロダが気の抜けた声で言いました。

 「まあなあ。あの子達にとっても三巳は山神らしいし。
 でも気が立ってる時は三巳でも喧嘩売られるぞ?子育て奮闘中とかまさにそうだな」

 三巳ものほほんと返し、子育て中のママは神経質になるからなー。とウンウン頷きました。
 それにリリはビックリします。

 「?そうなの?私、一度もモンスターに襲われた事無いわ。シンギーの子育てもお手伝いさせて貰ったし」
 「ええ!?そうなの!?リリ凄いね!きっとリリの優しさはモンスターにもわかるんだよっ」

 リリの言葉に今度はロダが驚く番でした。
 リリの近くではモンスターが大人しい事は知っていましたが、まさか一度も襲われた事が無いとは思ってもみなかったのです。しかもシンギーとは一般的に凶暴性の高い肉食モンスターなのです。
 でも三巳は驚きません。だって三巳にはリリに加護が付いている事はお見通しですからね。

 「や、優しくは、ありたいって思ってるけど……」

 リリはロダに食い気味に褒められて、真っ赤な顔で照れてしまいました。
 ロダはそんなリリの姿に(可愛い!!)と悶えています。

 『なぁ、もう直ぐ外道に出るぞ。そのまま道使うのか?』

 談笑をしていても足は進めています。
 気付いたらもう篩いの森の出口まで来ていた様です。

 「おお、お話してると時を忘れるな」

 ついでに注意力も散漫になるなと改めて森の外に耳を欹てました。

 「む」

 外の音を聞いた途端。三巳がしかめっ面で短い呻き声をあげました。

 「どうしたの?」

 尋ねるリリに、三巳はリリの目を見てどうしたもんかと思案しました。

 『冒険者が外の道で喚いてるぞ』

 同じく渋面を作り、鼻にシワを寄せたネルビーが「うぅ~」と唸りをあげて言いました。

 「冒険者っ?」

 途端に怯えの色を見せたリリに、ロダは山に来た頃のリリの怪我の原因を想像しました。けれど本人に聞くのは憚られたので代わりにリリの手をギュッと握り締めました。

 「大丈夫だよ。何があっても僕がリリを守るから」
 『むむ?リリを真に守るのはおれだからなっ』

 キリリと決めたロダに、ネルビーが負けじと食い気味で言ってリリの脇にピッタリ寄り添います。まさに忠犬です。

 「ありがとう」

 リリも両脇に頼もしい仲間がいて落ち着きを取り戻しました。
 その様子に三巳は安堵して、言っても大丈夫だと判断しました。

 「どうやらクエスト攻略にこの森に入りたいらしいんだけど、全く中に入れなくて苛立ってる様なんだよ」
 「クエスト?」
 「うん。なんでもここに自生するホロホロを取りたいらしい」
 「でもそれで入れなくて八つ当たりする人だと、結界に弾かれちゃうよね」
 「うーにゅ。正にその状況なんだよ。ま、暫くすれば諦めて帰るだろ」

 三巳達は冒険者達がいなくなるまで、一旦休憩を取る事にしました。
 三巳は尻尾からオヤツを取り出すとみんなに配ります。そして魔法で柔らかい椅子を作るとすっかりそこに腰を落ち着けました。

 「でもあれだなー。もう夕方近いし、このまま帰らなけりゃ今日はここで野宿だなー」
 「あっ、それなら休んだら食材探しに散策しようよ」
 「あらっ、ステキね。キャンプみたいできっと楽しいわ」
 『おれの鼻役に立つ!』

 もうすっかり腰を落ち着ける気なリリ達に、三巳はクスリと微笑みました。

 「よーし、それじゃあテント張っちゃうか」

 尻尾収納から組み立て式のテントを取り出すと、ロダと力を合わせて組み立てます。
 その間にリリとネルビーは布を張る準備をします。

 「ふふ、なんだかとってもワクワクするわ」
 『キャンプなんてした事ないもんな』
 「ええ、あの頃はお泊まりって言ったら宿に泊まれる位で、冒険者さん達が話してくれる冒険譚が羨ましかったわ」
 『おれもおれもっ。焚き木で炊いた丸焼き食べてみたかったんだっ』

 リリとネルビーは手を動かしながら昔を懐かしみます。

 「いいなぁ。僕は、というか山の民の殆どだけど、山の外に出た事無いから」

 山の民達は山で生まれ山に生き天寿を全うします。
 一部ロウ村長みたいな山の民はそこそこ外を出歩きますが、それもごく稀です。
 まだ未成年のロダは大人と一緒でないと山の外へは行けません。今回三巳が一緒という事で初めての外なのです。

 「ふふふ、外には色んな人達がいるわ。良い人も、怖い人も……」

 言葉尻が小さくなり、俄かに俯き哀しそうな顔をするリリに、ネルビーは心配そうにその顔をペロリと舐めました。

 『……大丈夫だぞ。何があってもおれはもうリリと離れないから』
 「うん……。ありがとうネルビー」

 そのまま黙ってしまったリリとネルビーに、三巳とロダは顔を見合わせて眉尻を下げたのでした。
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