獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
116 / 368
本編

篩いの森①

しおりを挟む
 深い深い森の中。辺りは薄暗く、「カーカー」と烏の鳴き声が四方から聞こえて来ます。

 「あら?コッチは危険みたい」

 烏の鳴き声を聞いたリリが言いました。

 『落石があったってカラスが教えてくれたぞ』

 続けてネルビーが辺りの匂いをピスピス嗅ぎながら言いました。

 「そうなんだ。それじゃあ別の場所から行こう」

 ロダも周囲を確認しながら言いました。

 『む。あっちが良いって言ってるぞ』

 烏の鳴き声を聞いていたネルビーが先頭を切って歩きます。

 「あっちですって」

 リリがネルビーの向かう方を指して通訳します。そしてその後をついて行きました。

 「うん。わかった」

 ロダもリリの横についてネルビーの後ろを歩きます。

 「いやー。三巳の出番が無いんだよ」

 更に後方からぬるま湯に使ったポケ~っとした顔で三巳がついて行きました。
 三巳の勉強の旅なのに本人は何もしていません。楽を享受していた三巳でしたが、急にハッと振り返ると、毛を逆立てて警戒を顕にしました。
 何事かと振り向き同じく警戒するリリ達でしたが、

 「っは!?今母ちゃんの声がした気がする!」

 と言った三巳にヘニョんと脱力しました。

 「三巳、もうお母さんが恋しくなったの?」

 ロダが呆れた顔でクスクス笑いました。

 「うにゅぅ。違うんだよ……。どちらかと言うとお説教が始まりそうな感じだったんだよ……」

 暫く耳を欹てた三巳は、何も聞こえてこない事に安堵すると耳も尻尾もヘショリと力なく脱力させました。
 要領を得ない三巳に、リリ達は首を傾げました。

 「にゃははー、何でもない。先を行こう」

 三巳はヘニャリとだらしなく笑い、リリとロダを追い越してネルビーの横について歩き出しました。

 『あっちは川の増水で危ないって』
 「そだなー。少し遠回りになるけどこの先の滝の裏に抜け道がある。そこから行こうか」

 烏の他にも様々な動物やモンスター達の鳴き声まで聞こえてきて、山の様子を教えてくれます。様々な鳴き声が木霊する様は、他所の人からすれば恐怖に彩られていたかもしれません。
 けれど三巳と守護獣になったネルビーは言葉がわかるし、リリも心を感じるのでその鳴き声達が優しい事はわかっていました。
 ロダも言葉はわかりませんがリリを見れば大丈夫だとわかります。

 「うん。抜け道は大丈夫そうだな」

 滝についた三巳は、その裏からヒョッコリ現れたイタチ型のモンスターに中の様子を聞きました。

 『リリっリリっ、あの子道案内してくれるって』
 『任せてよ。中は迷路になってるから案内なしには出られないのよ』
 「有難う、イタチさん」
 『あらぁ、本当に可愛くて良い子ね。アタシの事はチーちゃんって呼んで?三巳はそう呼ぶわ』

 二足歩行で近寄りリリの手を握るチーちゃんに、リリは内心(可愛い!モフモフしたいわっ)と悶えます。

 「ふふ、有難う貴女もとってもチャーミングよ。でもごめんなさい。お名前を教えてくれてるみたいだけど、言葉として認識出来てる訳じゃないのよ」

 リリも握り返して、肉球を堪能しながら困った顔で眉尻を下げました。

 「チーちゃんって呼んで欲しいって」
 『チーちゃんって名前らしいぞっ』

 三巳とネルビーが同時に通訳をして、綺麗にハモったので名前の所だけハッキリ聞き取れました。
 リリは通訳されてニッコリ微笑み「ありがとうチーちゃん。私はリリよ」と自己紹介を返します。

 『あらぁ、良いわぁ。リリちゃんとぉっても居心地の良い魔力ねぇ』
 「そうだろう。そうだろう」

 チーちゃんのウットリとした物言いに、何故か三巳がドヤ顔で頷きました。尻尾も得意げです。

 「そろそろリリも魔法が使える様になると思うんだよ」
 「えぇっ?本当?」

 山に来てから魔法が一切使えなくなっていたリリは、三巳の言葉にハッとしてホッとして破顔しました。

 「うわあ、リリの魔法見るの楽しみだな」

 ロダも自分の事の様に喜んでいます。

 「まあ、旅をしてれば機会もあるだろ。
 リリも無理せず焦らす魔法使ってこうな」
 「うん!ありがとう三巳っ」

 大喜びのリリは三巳にギュムと抱き付きました。
 三巳も抱き返して「今迄諦めずに頑張った成果だな」と優しくポンポンと背中を叩きました。

 『それじゃぁ、はんなり進みましょうねぇ』

 チーちゃんは日本脚で立った状態で、滝の裏にポテポテ歩きました。
 その後ろを三巳達も一列になってついて行きます。
 滝の裏側に出ると、そこにはポッカリ空いた横穴が奥の奥まで続いていました。穴にも川が有り、その左右に人一人が歩ける程度の足場が有ります。人が均した訳ではないそこは、デコボコしていて気を付けないと川に落ちてしまいそうです。

 「足元気をつけてなー。時折ツマヅキ石が出っ張ってるから」

 チーちゃんの後ろを三巳がヒョイヒョイ進みながら注意を促します。
 その後ろを行くリリが神妙に頷いて、丁度出ていた出っ張っりを慎重に避けました。
 更に後ろをロダがリリを見守りながらついて行き、しんがりはネルビーです。
 暗い水脈通路を魔法の光で照らしながら進んで行きます。

 「ここな、元々地下水脈だったんだよ。それが地殻変動でさっきの滝が出来て中に入れる様になったんだ」

 沢山ある分岐点に、「目が周りそう」と話すリリとロダが目をグルグル回していたのを見て、三巳が山の歴史を語って聞かせます。

 「まあ、世界はそうやって少しづつ姿を変えていくのね」

 人の短い一生の中では経験しない方が多いでしょう。それを生き字引となった三巳から直接教わり、リリは驚き三巳が本当に長い時間を生きてきたんだと実感します。

 「まあ、三巳ってば殆ど山に引き篭もってたからな。山の外の事は多分リリのが知ってるぞ」
 「歴史書なら学んでたけど、それは人の歴史を書いたものだから」
 「ははっ、三巳は人族の事はからっきしだから、これから頼りにしてるな」

 外の人族とは全く関わらない生き方をしてきた三巳です。初めて関わらざるを得ない状態に陥り、チョッピし不安だったのです。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...