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本編
篩いの森①
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深い深い森の中。辺りは薄暗く、「カーカー」と烏の鳴き声が四方から聞こえて来ます。
「あら?コッチは危険みたい」
烏の鳴き声を聞いたリリが言いました。
『落石があったってカラスが教えてくれたぞ』
続けてネルビーが辺りの匂いをピスピス嗅ぎながら言いました。
「そうなんだ。それじゃあ別の場所から行こう」
ロダも周囲を確認しながら言いました。
『む。あっちが良いって言ってるぞ』
烏の鳴き声を聞いていたネルビーが先頭を切って歩きます。
「あっちですって」
リリがネルビーの向かう方を指して通訳します。そしてその後をついて行きました。
「うん。わかった」
ロダもリリの横についてネルビーの後ろを歩きます。
「いやー。三巳の出番が無いんだよ」
更に後方からぬるま湯に使ったポケ~っとした顔で三巳がついて行きました。
三巳の勉強の旅なのに本人は何もしていません。楽を享受していた三巳でしたが、急にハッと振り返ると、毛を逆立てて警戒を顕にしました。
何事かと振り向き同じく警戒するリリ達でしたが、
「っは!?今母ちゃんの声がした気がする!」
と言った三巳にヘニョんと脱力しました。
「三巳、もうお母さんが恋しくなったの?」
ロダが呆れた顔でクスクス笑いました。
「うにゅぅ。違うんだよ……。どちらかと言うとお説教が始まりそうな感じだったんだよ……」
暫く耳を欹てた三巳は、何も聞こえてこない事に安堵すると耳も尻尾もヘショリと力なく脱力させました。
要領を得ない三巳に、リリ達は首を傾げました。
「にゃははー、何でもない。先を行こう」
三巳はヘニャリとだらしなく笑い、リリとロダを追い越してネルビーの横について歩き出しました。
『あっちは川の増水で危ないって』
「そだなー。少し遠回りになるけどこの先の滝の裏に抜け道がある。そこから行こうか」
烏の他にも様々な動物やモンスター達の鳴き声まで聞こえてきて、山の様子を教えてくれます。様々な鳴き声が木霊する様は、他所の人からすれば恐怖に彩られていたかもしれません。
けれど三巳と守護獣になったネルビーは言葉がわかるし、リリも心を感じるのでその鳴き声達が優しい事はわかっていました。
ロダも言葉はわかりませんがリリを見れば大丈夫だとわかります。
「うん。抜け道は大丈夫そうだな」
滝についた三巳は、その裏からヒョッコリ現れたイタチ型のモンスターに中の様子を聞きました。
『リリっリリっ、あの子道案内してくれるって』
『任せてよ。中は迷路になってるから案内なしには出られないのよ』
「有難う、イタチさん」
『あらぁ、本当に可愛くて良い子ね。アタシの事はチーちゃんって呼んで?三巳はそう呼ぶわ』
二足歩行で近寄りリリの手を握るチーちゃんに、リリは内心(可愛い!モフモフしたいわっ)と悶えます。
「ふふ、有難う貴女もとってもチャーミングよ。でもごめんなさい。お名前を教えてくれてるみたいだけど、言葉として認識出来てる訳じゃないのよ」
リリも握り返して、肉球を堪能しながら困った顔で眉尻を下げました。
「チーちゃんって呼んで欲しいって」
『チーちゃんって名前らしいぞっ』
三巳とネルビーが同時に通訳をして、綺麗にハモったので名前の所だけハッキリ聞き取れました。
リリは通訳されてニッコリ微笑み「ありがとうチーちゃん。私はリリよ」と自己紹介を返します。
『あらぁ、良いわぁ。リリちゃんとぉっても居心地の良い魔力ねぇ』
「そうだろう。そうだろう」
チーちゃんのウットリとした物言いに、何故か三巳がドヤ顔で頷きました。尻尾も得意げです。
「そろそろリリも魔法が使える様になると思うんだよ」
「えぇっ?本当?」
山に来てから魔法が一切使えなくなっていたリリは、三巳の言葉にハッとしてホッとして破顔しました。
「うわあ、リリの魔法見るの楽しみだな」
ロダも自分の事の様に喜んでいます。
「まあ、旅をしてれば機会もあるだろ。
リリも無理せず焦らす魔法使ってこうな」
「うん!ありがとう三巳っ」
大喜びのリリは三巳にギュムと抱き付きました。
三巳も抱き返して「今迄諦めずに頑張った成果だな」と優しくポンポンと背中を叩きました。
『それじゃぁ、はんなり進みましょうねぇ』
チーちゃんは日本脚で立った状態で、滝の裏にポテポテ歩きました。
その後ろを三巳達も一列になってついて行きます。
滝の裏側に出ると、そこにはポッカリ空いた横穴が奥の奥まで続いていました。穴にも川が有り、その左右に人一人が歩ける程度の足場が有ります。人が均した訳ではないそこは、デコボコしていて気を付けないと川に落ちてしまいそうです。
「足元気をつけてなー。時折ツマヅキ石が出っ張ってるから」
チーちゃんの後ろを三巳がヒョイヒョイ進みながら注意を促します。
その後ろを行くリリが神妙に頷いて、丁度出ていた出っ張っりを慎重に避けました。
更に後ろをロダがリリを見守りながらついて行き、しんがりはネルビーです。
暗い水脈通路を魔法の光で照らしながら進んで行きます。
「ここな、元々地下水脈だったんだよ。それが地殻変動でさっきの滝が出来て中に入れる様になったんだ」
沢山ある分岐点に、「目が周りそう」と話すリリとロダが目をグルグル回していたのを見て、三巳が山の歴史を語って聞かせます。
「まあ、世界はそうやって少しづつ姿を変えていくのね」
人の短い一生の中では経験しない方が多いでしょう。それを生き字引となった三巳から直接教わり、リリは驚き三巳が本当に長い時間を生きてきたんだと実感します。
「まあ、三巳ってば殆ど山に引き篭もってたからな。山の外の事は多分リリのが知ってるぞ」
「歴史書なら学んでたけど、それは人の歴史を書いたものだから」
「ははっ、三巳は人族の事はからっきしだから、これから頼りにしてるな」
外の人族とは全く関わらない生き方をしてきた三巳です。初めて関わらざるを得ない状態に陥り、チョッピし不安だったのです。
「あら?コッチは危険みたい」
烏の鳴き声を聞いたリリが言いました。
『落石があったってカラスが教えてくれたぞ』
続けてネルビーが辺りの匂いをピスピス嗅ぎながら言いました。
「そうなんだ。それじゃあ別の場所から行こう」
ロダも周囲を確認しながら言いました。
『む。あっちが良いって言ってるぞ』
烏の鳴き声を聞いていたネルビーが先頭を切って歩きます。
「あっちですって」
リリがネルビーの向かう方を指して通訳します。そしてその後をついて行きました。
「うん。わかった」
ロダもリリの横についてネルビーの後ろを歩きます。
「いやー。三巳の出番が無いんだよ」
更に後方からぬるま湯に使ったポケ~っとした顔で三巳がついて行きました。
三巳の勉強の旅なのに本人は何もしていません。楽を享受していた三巳でしたが、急にハッと振り返ると、毛を逆立てて警戒を顕にしました。
何事かと振り向き同じく警戒するリリ達でしたが、
「っは!?今母ちゃんの声がした気がする!」
と言った三巳にヘニョんと脱力しました。
「三巳、もうお母さんが恋しくなったの?」
ロダが呆れた顔でクスクス笑いました。
「うにゅぅ。違うんだよ……。どちらかと言うとお説教が始まりそうな感じだったんだよ……」
暫く耳を欹てた三巳は、何も聞こえてこない事に安堵すると耳も尻尾もヘショリと力なく脱力させました。
要領を得ない三巳に、リリ達は首を傾げました。
「にゃははー、何でもない。先を行こう」
三巳はヘニャリとだらしなく笑い、リリとロダを追い越してネルビーの横について歩き出しました。
『あっちは川の増水で危ないって』
「そだなー。少し遠回りになるけどこの先の滝の裏に抜け道がある。そこから行こうか」
烏の他にも様々な動物やモンスター達の鳴き声まで聞こえてきて、山の様子を教えてくれます。様々な鳴き声が木霊する様は、他所の人からすれば恐怖に彩られていたかもしれません。
けれど三巳と守護獣になったネルビーは言葉がわかるし、リリも心を感じるのでその鳴き声達が優しい事はわかっていました。
ロダも言葉はわかりませんがリリを見れば大丈夫だとわかります。
「うん。抜け道は大丈夫そうだな」
滝についた三巳は、その裏からヒョッコリ現れたイタチ型のモンスターに中の様子を聞きました。
『リリっリリっ、あの子道案内してくれるって』
『任せてよ。中は迷路になってるから案内なしには出られないのよ』
「有難う、イタチさん」
『あらぁ、本当に可愛くて良い子ね。アタシの事はチーちゃんって呼んで?三巳はそう呼ぶわ』
二足歩行で近寄りリリの手を握るチーちゃんに、リリは内心(可愛い!モフモフしたいわっ)と悶えます。
「ふふ、有難う貴女もとってもチャーミングよ。でもごめんなさい。お名前を教えてくれてるみたいだけど、言葉として認識出来てる訳じゃないのよ」
リリも握り返して、肉球を堪能しながら困った顔で眉尻を下げました。
「チーちゃんって呼んで欲しいって」
『チーちゃんって名前らしいぞっ』
三巳とネルビーが同時に通訳をして、綺麗にハモったので名前の所だけハッキリ聞き取れました。
リリは通訳されてニッコリ微笑み「ありがとうチーちゃん。私はリリよ」と自己紹介を返します。
『あらぁ、良いわぁ。リリちゃんとぉっても居心地の良い魔力ねぇ』
「そうだろう。そうだろう」
チーちゃんのウットリとした物言いに、何故か三巳がドヤ顔で頷きました。尻尾も得意げです。
「そろそろリリも魔法が使える様になると思うんだよ」
「えぇっ?本当?」
山に来てから魔法が一切使えなくなっていたリリは、三巳の言葉にハッとしてホッとして破顔しました。
「うわあ、リリの魔法見るの楽しみだな」
ロダも自分の事の様に喜んでいます。
「まあ、旅をしてれば機会もあるだろ。
リリも無理せず焦らす魔法使ってこうな」
「うん!ありがとう三巳っ」
大喜びのリリは三巳にギュムと抱き付きました。
三巳も抱き返して「今迄諦めずに頑張った成果だな」と優しくポンポンと背中を叩きました。
『それじゃぁ、はんなり進みましょうねぇ』
チーちゃんは日本脚で立った状態で、滝の裏にポテポテ歩きました。
その後ろを三巳達も一列になってついて行きます。
滝の裏側に出ると、そこにはポッカリ空いた横穴が奥の奥まで続いていました。穴にも川が有り、その左右に人一人が歩ける程度の足場が有ります。人が均した訳ではないそこは、デコボコしていて気を付けないと川に落ちてしまいそうです。
「足元気をつけてなー。時折ツマヅキ石が出っ張ってるから」
チーちゃんの後ろを三巳がヒョイヒョイ進みながら注意を促します。
その後ろを行くリリが神妙に頷いて、丁度出ていた出っ張っりを慎重に避けました。
更に後ろをロダがリリを見守りながらついて行き、しんがりはネルビーです。
暗い水脈通路を魔法の光で照らしながら進んで行きます。
「ここな、元々地下水脈だったんだよ。それが地殻変動でさっきの滝が出来て中に入れる様になったんだ」
沢山ある分岐点に、「目が周りそう」と話すリリとロダが目をグルグル回していたのを見て、三巳が山の歴史を語って聞かせます。
「まあ、世界はそうやって少しづつ姿を変えていくのね」
人の短い一生の中では経験しない方が多いでしょう。それを生き字引となった三巳から直接教わり、リリは驚き三巳が本当に長い時間を生きてきたんだと実感します。
「まあ、三巳ってば殆ど山に引き篭もってたからな。山の外の事は多分リリのが知ってるぞ」
「歴史書なら学んでたけど、それは人の歴史を書いたものだから」
「ははっ、三巳は人族の事はからっきしだから、これから頼りにしてるな」
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