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本編
前夜祭
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日が落ちて、前夜祭の時間がやって来ました。
題して、
「第一回。夜桜花火祭り、そして三巳とリリとロダとネルビーいってらっしゃいの会を開催する!」
です。
お酒片手にロウ村長が音頭を取れば、大人はお酒を、子供はジュースを片手に「乾杯(かんぱ~い)♪」とコップを打ち鳴らしました。
「明日からは三巳がいないなんて、寂しくなるねぇ」
「本当に。でも直ぐ帰って来るんだろう?」
早速おばちゃん達が三巳達を取り囲んでいます。
「うん。用事が済んだら直ぐ帰るぞ」
大きく頷く三巳ですが、最大の目的は三巳の成長です。その事を聞いている山の民達は、少なくても数年は帰ってこないだろうとわかっていました。
「三巳はこのままで可愛いんだけどねぇ。どうしても成長とやらをしないとダメなのかい?」
「うん。もうちょい大人にならないと暴走しやすいらしいんだ。三巳としては山のみんなに被害出したくないしな。どんな場面でも動じない強さを身につけて来るよ」
一丁前にキリリと眉尻を上げて言う三巳に、山の民達はふと思い出しました。
普段飄々としている三巳ですが、たまに恐怖で局地的小地震を起こしていた事を。
ついこの間の秋にも、突如発生した小地震があった事を。
「そうだね。成長する事は良い事だ。まあ、どうせならその成長過程も見守りたかったけどね」
「仕方ないだろう。この山はあまりにも平和過ぎるんだ。ワシとて三巳に付いてあちこち行かなければ見識は狭かっただろう」
ロウ村長が話に混ざって来ました。集まった山の生き物達との挨拶がひと段落したのです。後ろを見ると様々な生き物が三巳に挨拶しに列をなしていました。
「おー。あの頃も楽しかった」
「まだまだワシも現役を捨てとらんぞ。次代に村長の座を譲って旅をするのも良いかもしれんな」
「おおっ、それも楽しそうだ。でも一人旅は心配だから誰かと仲間組んでくれな」
三巳の心配事に、話の聞こえていた周囲にも同調されて、ロウ村長は腕を組んで「うむ」と頷きました。
「一人でも大丈夫。と言いたいところだが、ワシとて三巳の一人旅は心配に思うしな。
ふむ。誰を誘うかな?」
本気で考え出したロウ村長は後ろで待っている人に場所を譲り、空いてる席に向かいました。
次に来たのはユトです。
その姿を見て、リリは口に手を当ててビックリしました。
「貴方はあの時の……!」
その反応に三巳は(やっぱり知り合いだったか)と、何時ぞやにユトと話した事を思い出しました。
リリはお友達と暫しの別れを惜しんでいましたが、ユトを見て駆け寄ります。
「まあ、とっても久し振りだわ。あの時は私もうんと小さかったから」
嬉しそうにユトの背を撫でるリリに、ユトも気持ち良さそうに目を細めます。
『あの時は我子が世話になったな』
「ふふ、貴方の子供は元気かしら」
『ああ、お陰で有り余る程元気だ。今はもう独り立ちして此処にはいないがな』
二人の会話に三巳は目を丸くしました。
「リリ、ユトの言葉わかるのか?」
「ユト?この子の事かしら。
いいえ。でも何となく気持ちが伝わるのよ」
三巳の疑問にリリはユトを撫でながら答えます。
それを聞いて(そういえば熊五郎とも何となく意思疎通出来てたな)と思い出しました。
『……これからいく先が、君にとって救いになる事を祈るよ』
「ありがとう」
鼻面をリリに押し付けて慈しむ様に言うユト。
リリは言葉は分からずともリリの為に思ってくれている事はわかります。その首筋に顔を埋めてキュゥっと抱き締めます。
『ユトー!』
そこへネルビーが勢い付けて突進して来ました。そしてそのままポスッとユトの腹毛に激突します。
『君も相変わらずだな』
全く動じないユトがリリ越しに腹に埋もれたネルビーを見ました。コロンと地面に落ちた様を見たユトは、クスクス笑います。
『違うぞっ、おれはリリの守護獣になったんだぞっ』
それにパッと軽技で起き上がったネルビーが胸を張ってドヤります。
『ああ、知っているとも。三巳がいるとはいえ、この先の道は平坦ではないだろう。良く、護ってあげるといい』
『当たり前だっ。リリはおれが守る!』
張り切るネルビーに、言葉がわかる者もわからない者も一様に明るい笑い声を上げました。
「ネルビーは本当にリリが好きだな」
「こんなんじゃリリがお嫁さんに行く時は大変じゃないか?」
「あはははっ、確かに。『リリが欲しくばおれを倒していけ』とか言いそう」
常にリリを一番に考えている事は、山の民達もこの一冬で理解していました。ネルビーのふかふかの毛並みを撫で撫でしながら言いたい放題言っています。
『?そんな事を言わない。ロダならリリを幸せにしてくれるだろうしなっ』
人の言葉をしっかり理解出来るネルビーは、もっと撫でるが良いとお腹を見せて首を傾げました。
その言葉を理解出来る者はあまりいません。
けれどリリはしっかり理解出来るので、それが当然と言わんばかりのネルビーの言葉に「ふえっ!?」と奇妙な声を漏らして全身茹で上がりました。
「お?」
『ほぅ』
『ついにかモー?』
「え?まだだったのかい?オイラはとっくにもぐぁっ」
リリの様子に三巳とユトとタウろんと橙が其々ニヤリと言葉を漏らしていきます。
けれど橙の言葉は、「ふやぁぅあ!?」とプチパニックに陥ったリリが両手で鷲掴みにした事で途切れました。
「ちょっ、ギブっギブぅぅっ」
リリの指の隙間から腕を出してパシパシ叩く橙が解放されたのは、三巳が宥め賺して落ち着きを取り戻した後の事なのでした。
「え?え?何?何の話??」
なお話の隅では、勿論言葉がわからないロダは蚊帳の外で寂しく顔を見回しているのでした。
題して、
「第一回。夜桜花火祭り、そして三巳とリリとロダとネルビーいってらっしゃいの会を開催する!」
です。
お酒片手にロウ村長が音頭を取れば、大人はお酒を、子供はジュースを片手に「乾杯(かんぱ~い)♪」とコップを打ち鳴らしました。
「明日からは三巳がいないなんて、寂しくなるねぇ」
「本当に。でも直ぐ帰って来るんだろう?」
早速おばちゃん達が三巳達を取り囲んでいます。
「うん。用事が済んだら直ぐ帰るぞ」
大きく頷く三巳ですが、最大の目的は三巳の成長です。その事を聞いている山の民達は、少なくても数年は帰ってこないだろうとわかっていました。
「三巳はこのままで可愛いんだけどねぇ。どうしても成長とやらをしないとダメなのかい?」
「うん。もうちょい大人にならないと暴走しやすいらしいんだ。三巳としては山のみんなに被害出したくないしな。どんな場面でも動じない強さを身につけて来るよ」
一丁前にキリリと眉尻を上げて言う三巳に、山の民達はふと思い出しました。
普段飄々としている三巳ですが、たまに恐怖で局地的小地震を起こしていた事を。
ついこの間の秋にも、突如発生した小地震があった事を。
「そうだね。成長する事は良い事だ。まあ、どうせならその成長過程も見守りたかったけどね」
「仕方ないだろう。この山はあまりにも平和過ぎるんだ。ワシとて三巳に付いてあちこち行かなければ見識は狭かっただろう」
ロウ村長が話に混ざって来ました。集まった山の生き物達との挨拶がひと段落したのです。後ろを見ると様々な生き物が三巳に挨拶しに列をなしていました。
「おー。あの頃も楽しかった」
「まだまだワシも現役を捨てとらんぞ。次代に村長の座を譲って旅をするのも良いかもしれんな」
「おおっ、それも楽しそうだ。でも一人旅は心配だから誰かと仲間組んでくれな」
三巳の心配事に、話の聞こえていた周囲にも同調されて、ロウ村長は腕を組んで「うむ」と頷きました。
「一人でも大丈夫。と言いたいところだが、ワシとて三巳の一人旅は心配に思うしな。
ふむ。誰を誘うかな?」
本気で考え出したロウ村長は後ろで待っている人に場所を譲り、空いてる席に向かいました。
次に来たのはユトです。
その姿を見て、リリは口に手を当ててビックリしました。
「貴方はあの時の……!」
その反応に三巳は(やっぱり知り合いだったか)と、何時ぞやにユトと話した事を思い出しました。
リリはお友達と暫しの別れを惜しんでいましたが、ユトを見て駆け寄ります。
「まあ、とっても久し振りだわ。あの時は私もうんと小さかったから」
嬉しそうにユトの背を撫でるリリに、ユトも気持ち良さそうに目を細めます。
『あの時は我子が世話になったな』
「ふふ、貴方の子供は元気かしら」
『ああ、お陰で有り余る程元気だ。今はもう独り立ちして此処にはいないがな』
二人の会話に三巳は目を丸くしました。
「リリ、ユトの言葉わかるのか?」
「ユト?この子の事かしら。
いいえ。でも何となく気持ちが伝わるのよ」
三巳の疑問にリリはユトを撫でながら答えます。
それを聞いて(そういえば熊五郎とも何となく意思疎通出来てたな)と思い出しました。
『……これからいく先が、君にとって救いになる事を祈るよ』
「ありがとう」
鼻面をリリに押し付けて慈しむ様に言うユト。
リリは言葉は分からずともリリの為に思ってくれている事はわかります。その首筋に顔を埋めてキュゥっと抱き締めます。
『ユトー!』
そこへネルビーが勢い付けて突進して来ました。そしてそのままポスッとユトの腹毛に激突します。
『君も相変わらずだな』
全く動じないユトがリリ越しに腹に埋もれたネルビーを見ました。コロンと地面に落ちた様を見たユトは、クスクス笑います。
『違うぞっ、おれはリリの守護獣になったんだぞっ』
それにパッと軽技で起き上がったネルビーが胸を張ってドヤります。
『ああ、知っているとも。三巳がいるとはいえ、この先の道は平坦ではないだろう。良く、護ってあげるといい』
『当たり前だっ。リリはおれが守る!』
張り切るネルビーに、言葉がわかる者もわからない者も一様に明るい笑い声を上げました。
「ネルビーは本当にリリが好きだな」
「こんなんじゃリリがお嫁さんに行く時は大変じゃないか?」
「あはははっ、確かに。『リリが欲しくばおれを倒していけ』とか言いそう」
常にリリを一番に考えている事は、山の民達もこの一冬で理解していました。ネルビーのふかふかの毛並みを撫で撫でしながら言いたい放題言っています。
『?そんな事を言わない。ロダならリリを幸せにしてくれるだろうしなっ』
人の言葉をしっかり理解出来るネルビーは、もっと撫でるが良いとお腹を見せて首を傾げました。
その言葉を理解出来る者はあまりいません。
けれどリリはしっかり理解出来るので、それが当然と言わんばかりのネルビーの言葉に「ふえっ!?」と奇妙な声を漏らして全身茹で上がりました。
「お?」
『ほぅ』
『ついにかモー?』
「え?まだだったのかい?オイラはとっくにもぐぁっ」
リリの様子に三巳とユトとタウろんと橙が其々ニヤリと言葉を漏らしていきます。
けれど橙の言葉は、「ふやぁぅあ!?」とプチパニックに陥ったリリが両手で鷲掴みにした事で途切れました。
「ちょっ、ギブっギブぅぅっ」
リリの指の隙間から腕を出してパシパシ叩く橙が解放されたのは、三巳が宥め賺して落ち着きを取り戻した後の事なのでした。
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