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本編
父の名は
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「愛しい我が子。良く顔を見せておくれ」
父猫獣人が、母獣に摘み上げられている三巳を求めて、広げた両手を掲げています。
母獣は愛娘に頬が緩む父猫獣人を見る事が出来てご満悦です。三巳に言いたい百万語を飲み込み、摘んだ三巳をそっと父猫獣人の前に降ろしました。
「ありがとう、愛しい人。
愛しい子、ああ、この子が私の愛しい子だね。一眼でわかったよ。愛しい人にソックリの毛並みだ」
「あぅっ」
猫の獣人で三巳の父親は、目の前に降ろされた初めて見る愛娘のプニプニほっぺを、人の手の様に長い手指を広げて挟んで覗き込みます。
「あぁ、嬉しいなぁ、可愛いなぁ。
神界の掟が無ければ出産に立ち会えたのに、こんなに可愛い我が子。絶対に産まれたても可愛いのに、愛しい人ばかり一緒にいられて羨ましかったよ」
「あぅっ!?はぅっ!?」
三巳の顔の形を手探りで確認しながら慈しむ父猫獣人に、顔を弄ばれてタジタジの三巳は感動の対面を味わう余裕が有りません。
『産まれたての神族は感化され易い。故に三巳は神界で産むよりなかったのだ』
母獣は申し訳無さそうに父猫獣人に鼻先を摺り寄せて弁明しました。
父猫獣人は優しく目を細めると、母獣の鼻先を尻尾でフワリと絡めます。
「わかっているよ、愛しい人。寂しくはあったけど、君との愛の証が無事に誕生する方が大事だったからね」
『クロ……!』
父猫獣人がチュっとキスを交わすと、母獣はバサリと尻尾を揺らしてキスを返しました。
余りにも母獣が大きいので毛並みに埋まってしまいましたが、父猫獣人はとっても幸せそうに目元を緩るませます。
「愛しい人と愛しい子に囲まれて、私は今なんて幸せ者なんだろう」
「あぅ、父ちゃん。感動してるとこ悪いけど、三巳は事情を理解していないんだよ」
子を残して夫婦愛を確かめ合っている所、三巳は置いてけぼりを食らって耳を垂らしていました。
これに眉尻を釣り上げたのは母獣です。
子供の成長を望めど幼くあどけない時が長く続いても欲しい。そう思う事はあれど、全く成長が見られないのも困りものです。
『ほぅ?親離れして久しいが、何も学んでおらなんだか』
「ぴきゅ!?」
頭上から来る圧に、三巳は父猫獣人に揉みくちゃにされながら竦み上がりました。
父猫獣人はそれを抱き寄せてポンポンと軽く撫で叩いて宥めます。そしておっとりと笑みを深めながら母獣を見上げました。
「怒れる愛しい人も愛らしいけれど、今は愛しい子を愛でさせておくれ」
父猫獣人が母獣の圧を霧散させる事に成功します。その時三巳は瞬時に父猫獣人が最大の味方だと理解しました。
「父ちゃん父ちゃん!あのな、三巳は三巳だから三巳って呼んで欲しいんだよっ」
即懐いた三巳は、尻尾をブンブン振って実の父に自己紹介します。
「一度も会った事が無いのに、私を父と呼んでくれるのかい?嬉しいねぇ。それにとっても可愛い名前だね。愛しい子、三巳」
「はわ~~~っ、父ちゃんヌクヌクで気持ちいいんだよ。
父ちゃんが父ちゃんなの、何となくわかるんだ」
父猫獣人のフカフカほっぺにスリスリされて、三巳は夢見心地でスリスリ返します。
『それは三巳が狼型の獣神だからだ。我等は家族の繋がりを大事にする』
何も知らない三巳に、母獣は嘆息しつつも父猫獣人の気持ちを優先して補足だけしました。
「むふふ~、父ちゃんの名前も教えて欲しいな。神族じゃないなら名前あるだろ?」
「私はクロウドだよ、愛しい人にはクロと呼ばれているね」
「クロウド!カッチョいい名前だなっ」
父猫獣人、クロも自己紹介を返した所で、後ろでハンカチ片手に見守っていたリリが「あれ?」っと小首を傾げました。
「三巳?神族には名前が無いの?でも三巳にはあるわよね。お父様が付けてくださったのかしら」
家族との邂逅を邪魔すまいとモフモフ悶えたいのを頑張って堪えていたリリです。邪魔すべきで無いと逡巡しつつ、けれども気になり過ぎて結局聞いてしまいました。
「いいや、如何に父といえど神族に名を付けるのは不遜になるよ。そもそも神々は名など無くとも己がわかるから必要としていないしね」
嫌な顔一つせず答えてくれたのはクロです。リリを見て「娘の友達かい?三巳と仲良くしてくれてありがとう。君もとっても良い気を持っているね。名前は?歳はいくつだい?見た目は三巳と同じ位だけど人族ならうんと若いね」と父親の顔で捲し立てます。
母獣は父親魂を爆発させてるクロを、愛おしそうにグルーミングします。
『三巳の名は自ら名乗り出していたな。魂に刻まれた名のようだ』
三巳が三巳となった当時を思い出し目元を細めて懐かしみむ母獣に、三巳は口を尖らせます。
「だって母ちゃんてばおっきくなっても何時迄も三巳の事小さいのー、とか赤児ーとかって呼ぶんだもん。
だから三巳は三巳と呼んで欲しいって言ったのになかなか呼んでくれないんだもんなー。気付いたら三巳のが三巳を三巳って呼ぶ癖ついてたよー」
『それで通じていたから良いと思っていたのだがな』
「そういう問題じゃないんだよ!名前あるのに呼ばれないのは寂しいんだよ!」
『ふぅむ?そういうものかの』
「そうだねぇ、私も愛しい人に"クロ"と呼ばれた方が嬉しいよ」
『ふむ。クロがそう言うならそうなのだな』
子供の目も気にせずイチャラブる両親に、三巳はリリとネルビーの目を気にして恥ずかしくなりました。そして母獣とクロのヒエラルキーが見えた気がしました。
母獣の尻尾を見ると、嬉しそうにポフポフと地面を叩いています。
(この人が三巳の父ちゃん。そんでこれが三巳の"家族"か)
短い時間でも、何となく三巳家の家族図が見て取れた三巳は、暖かい気持ちが胸からトクトクと湧き出るのを目を閉じて感じるのでした。
父猫獣人が、母獣に摘み上げられている三巳を求めて、広げた両手を掲げています。
母獣は愛娘に頬が緩む父猫獣人を見る事が出来てご満悦です。三巳に言いたい百万語を飲み込み、摘んだ三巳をそっと父猫獣人の前に降ろしました。
「ありがとう、愛しい人。
愛しい子、ああ、この子が私の愛しい子だね。一眼でわかったよ。愛しい人にソックリの毛並みだ」
「あぅっ」
猫の獣人で三巳の父親は、目の前に降ろされた初めて見る愛娘のプニプニほっぺを、人の手の様に長い手指を広げて挟んで覗き込みます。
「あぁ、嬉しいなぁ、可愛いなぁ。
神界の掟が無ければ出産に立ち会えたのに、こんなに可愛い我が子。絶対に産まれたても可愛いのに、愛しい人ばかり一緒にいられて羨ましかったよ」
「あぅっ!?はぅっ!?」
三巳の顔の形を手探りで確認しながら慈しむ父猫獣人に、顔を弄ばれてタジタジの三巳は感動の対面を味わう余裕が有りません。
『産まれたての神族は感化され易い。故に三巳は神界で産むよりなかったのだ』
母獣は申し訳無さそうに父猫獣人に鼻先を摺り寄せて弁明しました。
父猫獣人は優しく目を細めると、母獣の鼻先を尻尾でフワリと絡めます。
「わかっているよ、愛しい人。寂しくはあったけど、君との愛の証が無事に誕生する方が大事だったからね」
『クロ……!』
父猫獣人がチュっとキスを交わすと、母獣はバサリと尻尾を揺らしてキスを返しました。
余りにも母獣が大きいので毛並みに埋まってしまいましたが、父猫獣人はとっても幸せそうに目元を緩るませます。
「愛しい人と愛しい子に囲まれて、私は今なんて幸せ者なんだろう」
「あぅ、父ちゃん。感動してるとこ悪いけど、三巳は事情を理解していないんだよ」
子を残して夫婦愛を確かめ合っている所、三巳は置いてけぼりを食らって耳を垂らしていました。
これに眉尻を釣り上げたのは母獣です。
子供の成長を望めど幼くあどけない時が長く続いても欲しい。そう思う事はあれど、全く成長が見られないのも困りものです。
『ほぅ?親離れして久しいが、何も学んでおらなんだか』
「ぴきゅ!?」
頭上から来る圧に、三巳は父猫獣人に揉みくちゃにされながら竦み上がりました。
父猫獣人はそれを抱き寄せてポンポンと軽く撫で叩いて宥めます。そしておっとりと笑みを深めながら母獣を見上げました。
「怒れる愛しい人も愛らしいけれど、今は愛しい子を愛でさせておくれ」
父猫獣人が母獣の圧を霧散させる事に成功します。その時三巳は瞬時に父猫獣人が最大の味方だと理解しました。
「父ちゃん父ちゃん!あのな、三巳は三巳だから三巳って呼んで欲しいんだよっ」
即懐いた三巳は、尻尾をブンブン振って実の父に自己紹介します。
「一度も会った事が無いのに、私を父と呼んでくれるのかい?嬉しいねぇ。それにとっても可愛い名前だね。愛しい子、三巳」
「はわ~~~っ、父ちゃんヌクヌクで気持ちいいんだよ。
父ちゃんが父ちゃんなの、何となくわかるんだ」
父猫獣人のフカフカほっぺにスリスリされて、三巳は夢見心地でスリスリ返します。
『それは三巳が狼型の獣神だからだ。我等は家族の繋がりを大事にする』
何も知らない三巳に、母獣は嘆息しつつも父猫獣人の気持ちを優先して補足だけしました。
「むふふ~、父ちゃんの名前も教えて欲しいな。神族じゃないなら名前あるだろ?」
「私はクロウドだよ、愛しい人にはクロと呼ばれているね」
「クロウド!カッチョいい名前だなっ」
父猫獣人、クロも自己紹介を返した所で、後ろでハンカチ片手に見守っていたリリが「あれ?」っと小首を傾げました。
「三巳?神族には名前が無いの?でも三巳にはあるわよね。お父様が付けてくださったのかしら」
家族との邂逅を邪魔すまいとモフモフ悶えたいのを頑張って堪えていたリリです。邪魔すべきで無いと逡巡しつつ、けれども気になり過ぎて結局聞いてしまいました。
「いいや、如何に父といえど神族に名を付けるのは不遜になるよ。そもそも神々は名など無くとも己がわかるから必要としていないしね」
嫌な顔一つせず答えてくれたのはクロです。リリを見て「娘の友達かい?三巳と仲良くしてくれてありがとう。君もとっても良い気を持っているね。名前は?歳はいくつだい?見た目は三巳と同じ位だけど人族ならうんと若いね」と父親の顔で捲し立てます。
母獣は父親魂を爆発させてるクロを、愛おしそうにグルーミングします。
『三巳の名は自ら名乗り出していたな。魂に刻まれた名のようだ』
三巳が三巳となった当時を思い出し目元を細めて懐かしみむ母獣に、三巳は口を尖らせます。
「だって母ちゃんてばおっきくなっても何時迄も三巳の事小さいのー、とか赤児ーとかって呼ぶんだもん。
だから三巳は三巳と呼んで欲しいって言ったのになかなか呼んでくれないんだもんなー。気付いたら三巳のが三巳を三巳って呼ぶ癖ついてたよー」
『それで通じていたから良いと思っていたのだがな』
「そういう問題じゃないんだよ!名前あるのに呼ばれないのは寂しいんだよ!」
『ふぅむ?そういうものかの』
「そうだねぇ、私も愛しい人に"クロ"と呼ばれた方が嬉しいよ」
『ふむ。クロがそう言うならそうなのだな』
子供の目も気にせずイチャラブる両親に、三巳はリリとネルビーの目を気にして恥ずかしくなりました。そして母獣とクロのヒエラルキーが見えた気がしました。
母獣の尻尾を見ると、嬉しそうにポフポフと地面を叩いています。
(この人が三巳の父ちゃん。そんでこれが三巳の"家族"か)
短い時間でも、何となく三巳家の家族図が見て取れた三巳は、暖かい気持ちが胸からトクトクと湧き出るのを目を閉じて感じるのでした。
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