獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
65 / 368
本編

ロダの成長①

しおりを挟む
 蝉が大合唱をしている夏の日に、村の池では日課となった光景が見られました。
 ミナミがロダに魔法を教わっているのです。

 「うん、そう、その調子。
 やっぱりミナミは凄いなぁ、もう池の水を蒸留濾過出来る様になって」
 「ありがと。武術は全然ロダに敵わないけど、魔法は得意だから負けないわよ」

 快活と笑い合う二人は近くで見れば気心の知れた友人同士です。けれど遠目に見るとまるで恋人同士に見えなくもありません。
 二人の恋のお相手を理解している大人達は何とも思いませんが、ロダを呼びに来たロハスにはそうはいかなかったようです。

 「ロダ兄ちゃんのバカーーー!!」

 遠目にイチャイチャしている様に見えたロハスが、両手を前に突き出して猛突進してきました。

 「え?」
 「は?」

 そのあまりの勢いに、呆気に取られたロダとミナミは振り返った姿勢で固まります。

 どーーーん!

 ロハスの突進は勢いそのままに、ロダに激突すると一緒に池に落ちそうになりました。ロダが足を踏ん張ったので、落ちませんでしたが。

 「あぶっ、あぶなっ」

 涙目でポカポカ殴ってくるロハスを支えながら、ロダはバクバクと音を鳴らす心臓を宥めました。

 「いや~、惜しいね。もうちょっとでコントみたいで面白かったのに」

 子供だって池に落ちた位でどうこうなる山の民ではありません。
 ミナミは快活に笑って指を鳴らし、悔しがる振りをしました。 

 「ミナミ~っ、僕だけなら兎も角、ロハスもいるんだよ!?」
 「あら、その時は私が責任持ってロハスを守るから安心して?」
 「うわーーーん!ロダ兄ちゃんのうわきものー!」

 ロハスの頭上で軽口を言い合うロダとミナミに、ロダは到頭怒ってしまいました。拳を握りしめてドンドンポカポカ叩いています。

 「は?浮気者??へ?何で?」

 対するロダは意味がわかりません。暴れるロハスを宥めながら混乱しています。
 ミナミはそんな二人のやり取りを理解して「ぷーっ」っと吹き出してしまいました。

 「あはははっ!そっかー、ロハス私とロダの仲を勘違いしちゃったんだね!」
 「ええ!?ちょっ!違うよ!?僕が好きなのはリリだけだよ!」

 やっとロハスが何に怒っているのか理解したロダは、慌てて否定をします。

 「ぐすっ、だって、ミナミ姉ちゃんとイチャイチャしてた」
 「してないしてない!ミナミに水分確保の魔法を教えてただけだよっ」

 ミナミとロダを交互に見やったロハスは、グズグズと鼻をすすりながら自分が見た光景を伝えます。
 ロダは泡を食って否定の言葉を繰り返し、一生懸命に真実を伝えようと必死です。
 ロハスはキョトンとして、もう一度ミナミとロダを交互に見ました。そして池の水を見てから指をさしてロダを仰ぎ見ます。

 「ロダ兄ちゃんがいつも練習してるやつ?
 ロダ兄ちゃんも出来ないから練習してるんだろ?教えれるの?」
 「あら、ロダはもう飲料水作りの魔法は出来るわよ。以前一緒に仕事した時やってたもの」
 「??出来るのに練習するのか?何でだ?」

 尤もな疑問を呈するロハスに、ミナミが呆気らかんと教えます。けれどそれが更に疑問となってロハスは訳がわかりません。

 「色々と改良しようと思って練習してたんだよ」

 ロダは意気消沈と肩を落として言いました。

 「へー!よくわかんないけどロダ兄ちゃんすげー!」
 「うん、誤解が解けたなら良かった。
 それでロハスは何か用があったのか?」

 場の空気が落ち着いた所で、ロダは一つ息を吐き出しロハスに聞きました。
 ロハスはハッと思い出してロダの手を取って引っ張ります。

 「そーだった!ロダ兄ちゃんヘタレだと三巳姉ちゃんにリリ姉ちゃん貰えないんだぞ!リリ姉ちゃんに混ぜてって言わなきゃなんだ!」

 大振りに手足をバタつかせて捲し立てるロハスに、ロダは意味がわからず首を傾げてしまいます。

 「落ち着いてロハス。落ち着いて何があったか説明してくれ」

 ロダは腰を落としてロハスに目線を合わせて問い掛けます。
 ロハスはロダの目を見る事で、少し落ち着けた様です。バタつく事を止めて、両手に力を込めて握りしめました。大きく深呼吸を二回して、改めてロダを見ます。

 「三巳姉ちゃんが言ってたんだ。
 ロダ兄ちゃんがヘタレてたらリリの姉ちゃん任せらんないって。それで今度の休みに三巳姉ちゃんとリリ姉ちゃんが二人で山にお出かけするんだって。それでロダ兄ちゃんが自分から混ざりに来れないのはヘタレなんだって」

 ロハスがフンスと鼻息荒く訴えかけます。
 最後まで事情を聞いたロダは、うぐっと息を詰まらせました。そして瞑目するとグルグルと葛藤を始めます。

 (確かにリリの為に強くなるって決めたのに!
 僕は未だに自分から言えてないっ。言わなきゃ!言わなきゃっ。言う……。
 うわあああっ!)

 頭の中で何度も何パターンもシュミレートをしていたロダは、真っ赤に茹って湯気を出しながらパニックを起こしてしまいました。

 「落ち着きなさいよ」

 そこに空かさずミナミの合いの手がスパーン!と小気味良い音を奏でます。
 正気に戻ったロダは背中を摩りながらお礼を言いました。

 「全く。格好なんて付けなくて良いのよ。
 ただ、一緒に行きたいって言えば良いの。ありのままを受け入れて貰えなきゃ意味なんてないでしょうに」
 「うん……ごめん、ありがと」
 「わかったらサッサと行って来なさいよ。
 私はここで自主練してるからさ」
 「うんっ、ありがとう!」

 ロダはミナミにお礼を言うと、気合を入れて走り去って行きました。
 それを見送るミナミとロハスでしたが、ロハスは三巳と遊ぶ予定を思い出して慌てて後を追い掛けました。

 「待ってー!オレも戻るからー!」
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...