獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

村の雑貨屋さん再び

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 日の沈みかけた夕方前。雑貨屋さんを除く二つの影が店内に伸びています。

 「こんにちわ」
 「ちーす、さっき振りー」

 店内をキョロキョロ見回すリリを連れて三巳が戻ってきました。
 リリの仕事が終わるまで待って雑貨屋での出来事を話したら、目を輝かせて「今から見に行く」とやって来たのです。

 「あら~リリちゃんこんにちわ~、三巳はさっき振り~」

 店内奥のカウンターで揺り椅子に揺られて編み物をするミランダが声を返しました。
 三巳はその手元の編み物が気になって、とととっと近寄って覗きます。

 「リュックをリリに見せに来たんだけど……。それは何作ってんだ?」
 
 三巳の疑問に合わせてリリもミランダの手元を覗き込みました。
 ミランダは編針を持つ手を持ち上げて見やすくしてあげます。それを改めて見れば筒状に編み込まれていました。

 「これはね~プレゼント」
 「プレゼント?」

 ニコーっと笑って言うミランダに、三巳は首を傾げます。
 ミランダの視線はそんな三巳を通り過ぎ、リリに合わせました。これにはリリも首を傾げます。

 「いえ~す。リリちゃんの諸々のお祝いに~」
 「おお!それは嬉しいな」
 「諸々?」

 三巳はピョンコピョンコとリリを見ながら跳ねて喜びます。
 リリは喜びで顔を赤くしますが、諸々がわからず首を傾げました。
 
 「諸々と言ったら~回復祝いに~新たな山の民へに~ロキ医師の後継祝いに~そんな諸々~」

 ミランダがむふふ~と笑いながら説明をします。後半はぼかしましたがロダの初恋の相手祝いも含まれています。
 正確にその内容を察した三巳は釣られる様にむふふ~と笑い返しました。
 リリはそんな含みに気付かず素直に喜んでいます。何が出来上がるか楽しみでなりません。

 「もうすぐ出来るよ~、リュックと水筒選んで待っててね~」
 「はい!」
 
 ミランダが店内を指し示してから編み物を再開させました。
 いい返事を返したリリは早速件のリュックを見に行きます。

 「これがそうだよ。どれも可愛くて迷うだろー」
 「本当っ、ウサミミも尻尾も羽もみんな可愛いっ」

 三つ並べて見せる三巳に、リリは両手を胸の前で握りしめて瞳を輝かせました。その様子を満足そうにニッコリ笑った三巳は一つづつリリに渡して背負って貰います。

 「ふわ~思ったより軽いわ。どうかしら?」
 
 ウサミミリュックを背負ったリリがその場でクルリと回って三巳に感想を聞きました。
 三巳はウンウン頷きながらいろんな角度でリリをそしてウサミミリュックを見ます。

 「うん、やっぱり似合うな。今度はこっちだ」

 ウサミミリュックを渡して犬尻尾リュックを受け取ったリリは早速背負います。同じ様にその場でクルンと回りました。すると腰の辺りにある尻尾が左右に揺れました。
 
 「凄いわ!可愛い!もふもふ!」
 「そして三巳とお揃いだ!」

 揺れるリリの尻尾に三己の尻尾を合わせました。三巳の尻尾が大きすぎて隠れてしまいそうですが、そこは上手く調整して見せています。そしてリリの心をズッキューンと鷲掴みにしました。

 「お揃い……!もふもふ……!おそもふ!」

 鼻も口も覆って潤む目で感動を表すリリに、これはもう決まりかなと思う三巳でしたが、折角なので羽リュックも背負って貰いました。
 羽リュックを背負ってクルンと回るリリを見て、今度は三巳がノックアウトされてしまいました。

 「天使の羽がこんなにリリに合うなんて!三巳は天使の羽を推したいです!」
 「私より三巳のが似合いそうだわ。ということではい!」

 そう言ってリリは両手を振ってはしゃぐ三巳の手から二つのリュックを取ると、その腕にスポンと羽リュックを差し込みました。
 三巳が反応する前に行われた早業に、三巳は目をパチクリさせてから自分の背中を見ました。

 「おお。可愛い。けど、三己には可愛すぎるというかなー」

 子供返りしていても大人だった記憶が天使の羽を拒んでいます。三巳は引き攣る顔に何とか笑みを張り付けました。
 でもリリはそんな三巳にお構いなしに両手をポンと叩いて満面の笑顔を花咲かせました。

 「ううん!可愛い!可愛いわ三巳!かわもふ!むしろ神もふ!」

 正に獣神なので神掛かったもふもふなので間違いではありません。
 三巳は喜ぶリリに困ってしまいましたが、それで喜んでくれるなら良いかと苦笑して息を吐きだしました。
 そんなこんなでリリだけでなく三巳のリュックも新調する運びとなりました。

 「ええっと、じゃあ水筒も見て行こうか」
 「うん。どんなのがあるの?」
 
 水筒の置いてある棚を見て回る三巳とリリですが、地球の様な可愛い柄の水筒はありません。あるのは皮製か瓢箪、もしくはモンスターの素材で出来た物です。形はどうしても袋型になっていて可愛らしさは見受けられません。でもこの世界ではこれが当たり前なので、がっかりする三巳を他所にリリは気にした様子もなく機能性を見て回りました。

 「私今魔法使えないからなるべく大容量の物で軽い物が良いわ」
 「うーん、それならこっちとかどうだ?」
 「そうね、それにするわ」

 リュック選びと違って水筒選びは坦々と終わり、三巳は詰まらなそうに、そして悲しそうに耳をペタンとしょげらせました。
 リリはそんな三巳に慌ててしまいます。でも何がそんなに悲しそうなのか皆目見当もつかずに、手をアワアワさせているだけです。

 「大丈夫だ。ちょっと、水筒の可愛いが足りなかっただけだから」
 「そ、そう?」

 ショボンとしょげたままカウンターに向かう三巳の背を撫でながらカウンターへと戻って来ました。
 
 「ぐ~どたいみ~ん。丁度出来上がったところよ~」

 三巳とリリにじゃーんと両手で広げて見せた物は、手の平大の斑柄の袋でした。見ても何かわかりませんでした。

 「これは?」

 聞いたのは三巳かリリか。停滞する空気を払拭するように発された疑問に、ミランダはニンマリと笑って答えます。

 「ふふふ~水筒はそれで決まりだね~。ならそれにこれをこうしてこ~♪」

 ミランダがリリの選んだ水筒を手に取ると、作った袋を被せました。手の平大の袋は水筒に被せると良く伸びてピッタリとはまったのです。すると如何した事でしょう!斑の袋があら不思議。ワンコの足跡柄が現れたではありませんか!

 「はう!」

 即座に気に入ったリリは震える手でしっかりと、いえがっしりと受け取りウルウルの目にしっかりと焼き付けていました。

 「こりゃやられたなー。ぐっじょぶだミランダ」
 「ふっふっふ~それ程でもあるんだな~」
 「それで今回の交換品はチロチロ、リヴァイアサンの鱗でいいか?」
 「リリの分は医療交換だからいらないのよ~。でもリヴァイアサンの鱗は欲しい~」
 「良いんだ。今回のは三巳がリリにプレゼントしたかったから」
 「!三巳ありがとうっ、大好き!帰ったらいっぱいグルーミングしようね!」

 こうしてリリに犬尻尾リュックとついでに水筒(ワンコの足跡にグレードアップ)をプレゼント出来た三巳は、診療所に帰ると心行くまでグルーミングをして貰いツヤツヤとご満悦に浸るのでした。
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