獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
60 / 368
本編

村の雑貨屋さん再び

しおりを挟む
 日の沈みかけた夕方前。雑貨屋さんを除く二つの影が店内に伸びています。

 「こんにちわ」
 「ちーす、さっき振りー」

 店内をキョロキョロ見回すリリを連れて三巳が戻ってきました。
 リリの仕事が終わるまで待って雑貨屋での出来事を話したら、目を輝かせて「今から見に行く」とやって来たのです。

 「あら~リリちゃんこんにちわ~、三巳はさっき振り~」

 店内奥のカウンターで揺り椅子に揺られて編み物をするミランダが声を返しました。
 三巳はその手元の編み物が気になって、とととっと近寄って覗きます。

 「リュックをリリに見せに来たんだけど……。それは何作ってんだ?」
 
 三巳の疑問に合わせてリリもミランダの手元を覗き込みました。
 ミランダは編針を持つ手を持ち上げて見やすくしてあげます。それを改めて見れば筒状に編み込まれていました。

 「これはね~プレゼント」
 「プレゼント?」

 ニコーっと笑って言うミランダに、三巳は首を傾げます。
 ミランダの視線はそんな三巳を通り過ぎ、リリに合わせました。これにはリリも首を傾げます。

 「いえ~す。リリちゃんの諸々のお祝いに~」
 「おお!それは嬉しいな」
 「諸々?」

 三巳はピョンコピョンコとリリを見ながら跳ねて喜びます。
 リリは喜びで顔を赤くしますが、諸々がわからず首を傾げました。
 
 「諸々と言ったら~回復祝いに~新たな山の民へに~ロキ医師の後継祝いに~そんな諸々~」

 ミランダがむふふ~と笑いながら説明をします。後半はぼかしましたがロダの初恋の相手祝いも含まれています。
 正確にその内容を察した三巳は釣られる様にむふふ~と笑い返しました。
 リリはそんな含みに気付かず素直に喜んでいます。何が出来上がるか楽しみでなりません。

 「もうすぐ出来るよ~、リュックと水筒選んで待っててね~」
 「はい!」
 
 ミランダが店内を指し示してから編み物を再開させました。
 いい返事を返したリリは早速件のリュックを見に行きます。

 「これがそうだよ。どれも可愛くて迷うだろー」
 「本当っ、ウサミミも尻尾も羽もみんな可愛いっ」

 三つ並べて見せる三巳に、リリは両手を胸の前で握りしめて瞳を輝かせました。その様子を満足そうにニッコリ笑った三巳は一つづつリリに渡して背負って貰います。

 「ふわ~思ったより軽いわ。どうかしら?」
 
 ウサミミリュックを背負ったリリがその場でクルリと回って三巳に感想を聞きました。
 三巳はウンウン頷きながらいろんな角度でリリをそしてウサミミリュックを見ます。

 「うん、やっぱり似合うな。今度はこっちだ」

 ウサミミリュックを渡して犬尻尾リュックを受け取ったリリは早速背負います。同じ様にその場でクルンと回りました。すると腰の辺りにある尻尾が左右に揺れました。
 
 「凄いわ!可愛い!もふもふ!」
 「そして三巳とお揃いだ!」

 揺れるリリの尻尾に三己の尻尾を合わせました。三巳の尻尾が大きすぎて隠れてしまいそうですが、そこは上手く調整して見せています。そしてリリの心をズッキューンと鷲掴みにしました。

 「お揃い……!もふもふ……!おそもふ!」

 鼻も口も覆って潤む目で感動を表すリリに、これはもう決まりかなと思う三巳でしたが、折角なので羽リュックも背負って貰いました。
 羽リュックを背負ってクルンと回るリリを見て、今度は三巳がノックアウトされてしまいました。

 「天使の羽がこんなにリリに合うなんて!三巳は天使の羽を推したいです!」
 「私より三巳のが似合いそうだわ。ということではい!」

 そう言ってリリは両手を振ってはしゃぐ三巳の手から二つのリュックを取ると、その腕にスポンと羽リュックを差し込みました。
 三巳が反応する前に行われた早業に、三巳は目をパチクリさせてから自分の背中を見ました。

 「おお。可愛い。けど、三己には可愛すぎるというかなー」

 子供返りしていても大人だった記憶が天使の羽を拒んでいます。三巳は引き攣る顔に何とか笑みを張り付けました。
 でもリリはそんな三巳にお構いなしに両手をポンと叩いて満面の笑顔を花咲かせました。

 「ううん!可愛い!可愛いわ三巳!かわもふ!むしろ神もふ!」

 正に獣神なので神掛かったもふもふなので間違いではありません。
 三巳は喜ぶリリに困ってしまいましたが、それで喜んでくれるなら良いかと苦笑して息を吐きだしました。
 そんなこんなでリリだけでなく三巳のリュックも新調する運びとなりました。

 「ええっと、じゃあ水筒も見て行こうか」
 「うん。どんなのがあるの?」
 
 水筒の置いてある棚を見て回る三巳とリリですが、地球の様な可愛い柄の水筒はありません。あるのは皮製か瓢箪、もしくはモンスターの素材で出来た物です。形はどうしても袋型になっていて可愛らしさは見受けられません。でもこの世界ではこれが当たり前なので、がっかりする三巳を他所にリリは気にした様子もなく機能性を見て回りました。

 「私今魔法使えないからなるべく大容量の物で軽い物が良いわ」
 「うーん、それならこっちとかどうだ?」
 「そうね、それにするわ」

 リュック選びと違って水筒選びは坦々と終わり、三巳は詰まらなそうに、そして悲しそうに耳をペタンとしょげらせました。
 リリはそんな三巳に慌ててしまいます。でも何がそんなに悲しそうなのか皆目見当もつかずに、手をアワアワさせているだけです。

 「大丈夫だ。ちょっと、水筒の可愛いが足りなかっただけだから」
 「そ、そう?」

 ショボンとしょげたままカウンターに向かう三巳の背を撫でながらカウンターへと戻って来ました。
 
 「ぐ~どたいみ~ん。丁度出来上がったところよ~」

 三巳とリリにじゃーんと両手で広げて見せた物は、手の平大の斑柄の袋でした。見ても何かわかりませんでした。

 「これは?」

 聞いたのは三巳かリリか。停滞する空気を払拭するように発された疑問に、ミランダはニンマリと笑って答えます。

 「ふふふ~水筒はそれで決まりだね~。ならそれにこれをこうしてこ~♪」

 ミランダがリリの選んだ水筒を手に取ると、作った袋を被せました。手の平大の袋は水筒に被せると良く伸びてピッタリとはまったのです。すると如何した事でしょう!斑の袋があら不思議。ワンコの足跡柄が現れたではありませんか!

 「はう!」

 即座に気に入ったリリは震える手でしっかりと、いえがっしりと受け取りウルウルの目にしっかりと焼き付けていました。

 「こりゃやられたなー。ぐっじょぶだミランダ」
 「ふっふっふ~それ程でもあるんだな~」
 「それで今回の交換品はチロチロ、リヴァイアサンの鱗でいいか?」
 「リリの分は医療交換だからいらないのよ~。でもリヴァイアサンの鱗は欲しい~」
 「良いんだ。今回のは三巳がリリにプレゼントしたかったから」
 「!三巳ありがとうっ、大好き!帰ったらいっぱいグルーミングしようね!」

 こうしてリリに犬尻尾リュックとついでに水筒(ワンコの足跡にグレードアップ)をプレゼント出来た三巳は、診療所に帰ると心行くまでグルーミングをして貰いツヤツヤとご満悦に浸るのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...