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本編
山の巡回①
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山といえど夏の日差しの暑い時期。三巳は山のモンスターや動物達の巡回をしていました。
三巳は人間の神ではなく山の神なので、村ばかり構う訳では無いのです。
最近は特にリリが心配で、たまにしか来れませんでした。そんなリリも大分村に馴染んで友達も増えた様なので一安心です。
三巳は久し振りに隅から隅まで巡回します。
結界の影響で悪さする子はいませんが、彼等の手に負えない事があれば手を貸しているのです。
「やー。ウサやん壮健そうでなによりー」
木が生え揃う斜面に空いたサッカーボール程の大きさの穴。そこをひょいと覗き込んで三巳が挨拶をします。
暗い穴からキラリと二つの赤い光が見えました。
『やー。久し振りやねぇ。そっちは落ち着いたん?』
光が近付いてきて現れたのは可愛い兎さんです。額に鋭く尖った角を持ち、爪も鋭く尖らせる可愛い兎さんです。
出て来た兎さんこと、兎型モンスターでホーンラビットのウサやんは、三巳とお鼻をチョンとくっつけて挨拶します。
「おー。やっぱりコッチの事情知ってたかー」
『そりゃあ知っとるさぁ。何せ加護持ちやしねぇ』
ウサやんは優しく目を細めて鼻とお髭をヒクヒクさせました。
それに三巳も耳をピクピクさせて答えます。
「珍しい加護だよなー。モンスターに脅かされない加護なんて」
そうです。リリにはモンスターに脅かされない加護が付いているのです。
だからこそ木のウロで安全でいられたのです。匂いがキツイとはいえ子供でも見つけられる場所で、いつまでもモンスターに襲われないのは奇跡です。でも加護があるなら当然です。
『ありゃあ、強い加護やねぇ。
うっとこだけやのぅて山の他の種族さん等ぁもあの子にゃ手ェ出さんもんなぁ』
「まあ、多分あの子がやったんだろうし最強の部類だと思うぞー」
『心当たりあるんやなぁ。
ゆうても詮索はしとらんようやけどなぁ』
「んー。今はまだ時期尚早かなーって。
リリの心もまだ不安定ぽいからなー」
特に恋愛方面に対しては拒絶しそうで怖いと思う三巳です。
無理強いはしませんが、リリには心を預けられる相手が必要だと感じてます。
『大丈夫やよぅ。うっとこ等だけやのぅて、動物達に異様に好かれよる。
あぁいう子ぉは強いでぇ』
「うん。日常生活は落ち着いたようだからな。こうして巡回再開してるんだ」
ニッコリ笑って尻尾を大きく一振りする三巳に、ウサやんは目を細めて鼻をヒクヒクさせて優しく笑いました。
『この辺は目立った事は起きとらんなぁ』
「ん。みたいだなー。
また来るけど何かあったら言ってなー」
一頻り会話を楽しんだ三巳は、次の巡回地に向かいます。
山の斜面を斜め奥に降って着いた先は、山と山の裾野を流れる早くて広くて深い川です。
何処からか足を滑らせて落ちた鹿が流れて来ました。
すると川底からゆら~りと影が近付いて来ました。
影はどんどん大きく長くなり、とうとう鹿の真下に来ると、ざっばーん!と大きな大きな蛇が大きく口を開けて出てきました。そしてそのままパックン!鹿を丸呑みしてしまいました。
「やっほーい。チロチロ今日も元気に丸呑みかい?」
『何しに来た。毛玉神』
片手を上げて元気に挨拶をする三巳に、リヴァイアサンの亜種、チロチロが素気無く返した。
「巡回ー♪」
見た目に反して可愛らしく呼んでも怒らないチロチロが、三巳は存外好きです。
素っ気無くても意に返さず楽しく答えます。
『そうか』
「チロチロ触らせてくれー」
チョロチョロと舌を出して、やっぱり素っ気無く返すチロチロです。
そして三巳はやっぱり意に返さずチョロチョロ出る細く長い舌に、両手をのばします。
チロチロは、何も言わずに三巳の全身をチョロチョロ舐めました。
「にょはほほはー!こしょばゆーい!」
三巳はそのヒンヤリする舌をペタペタ触って喜びます。
『お前だけだ。喜ぶの』
チロチロがチョロチョロさせながら無感情に言います。
「亜種とはいえチロチロがリヴァイアサンだからだろー?
三巳にとっては海水苦手な可愛いチロチロだけどなー」
リヴァイアサンは本来海のモンスターです。でもチロチロはしょっぱい海の水が口に合わず山まで引っ越した変わり者です。
『……お前だけだ』
チロチロは三巳の耳をチョロチョロ舐めました。
「にゃほほほー!
チロチロ照れ隠しに耳の中舐めるのやめてー!」
どうやら照れていたようです。
「もー、チロチロは相変わらずモフモフ好きだなー。
その様子じゃこの辺も変わりなさそうだなー」
そしてモフモフを堪能していたようです。
三巳はチロチロが普段通りなのを確認して結論付けました。
『水は多い』
「そら雪解けと梅雨が多かったからだ」
『そうか』
もっと三巳といたいチロチロは、引き止める為に言いましたが、軽く返されて終わりガッカリです。見た目にはわかりませんが。
『モクモク谷が騒がしい』
「おん?地獄谷が?行ってみる。
ありがとなー」
諦めたチロチロが山の裏手を見ながら舌をチョロチョロさせて仰ぎ見ました。
三巳も一緒に見上げて次の行き先は決定です。
三巳は次の目的地に向かい歩き出しました。
三巳は人間の神ではなく山の神なので、村ばかり構う訳では無いのです。
最近は特にリリが心配で、たまにしか来れませんでした。そんなリリも大分村に馴染んで友達も増えた様なので一安心です。
三巳は久し振りに隅から隅まで巡回します。
結界の影響で悪さする子はいませんが、彼等の手に負えない事があれば手を貸しているのです。
「やー。ウサやん壮健そうでなによりー」
木が生え揃う斜面に空いたサッカーボール程の大きさの穴。そこをひょいと覗き込んで三巳が挨拶をします。
暗い穴からキラリと二つの赤い光が見えました。
『やー。久し振りやねぇ。そっちは落ち着いたん?』
光が近付いてきて現れたのは可愛い兎さんです。額に鋭く尖った角を持ち、爪も鋭く尖らせる可愛い兎さんです。
出て来た兎さんこと、兎型モンスターでホーンラビットのウサやんは、三巳とお鼻をチョンとくっつけて挨拶します。
「おー。やっぱりコッチの事情知ってたかー」
『そりゃあ知っとるさぁ。何せ加護持ちやしねぇ』
ウサやんは優しく目を細めて鼻とお髭をヒクヒクさせました。
それに三巳も耳をピクピクさせて答えます。
「珍しい加護だよなー。モンスターに脅かされない加護なんて」
そうです。リリにはモンスターに脅かされない加護が付いているのです。
だからこそ木のウロで安全でいられたのです。匂いがキツイとはいえ子供でも見つけられる場所で、いつまでもモンスターに襲われないのは奇跡です。でも加護があるなら当然です。
『ありゃあ、強い加護やねぇ。
うっとこだけやのぅて山の他の種族さん等ぁもあの子にゃ手ェ出さんもんなぁ』
「まあ、多分あの子がやったんだろうし最強の部類だと思うぞー」
『心当たりあるんやなぁ。
ゆうても詮索はしとらんようやけどなぁ』
「んー。今はまだ時期尚早かなーって。
リリの心もまだ不安定ぽいからなー」
特に恋愛方面に対しては拒絶しそうで怖いと思う三巳です。
無理強いはしませんが、リリには心を預けられる相手が必要だと感じてます。
『大丈夫やよぅ。うっとこ等だけやのぅて、動物達に異様に好かれよる。
あぁいう子ぉは強いでぇ』
「うん。日常生活は落ち着いたようだからな。こうして巡回再開してるんだ」
ニッコリ笑って尻尾を大きく一振りする三巳に、ウサやんは目を細めて鼻をヒクヒクさせて優しく笑いました。
『この辺は目立った事は起きとらんなぁ』
「ん。みたいだなー。
また来るけど何かあったら言ってなー」
一頻り会話を楽しんだ三巳は、次の巡回地に向かいます。
山の斜面を斜め奥に降って着いた先は、山と山の裾野を流れる早くて広くて深い川です。
何処からか足を滑らせて落ちた鹿が流れて来ました。
すると川底からゆら~りと影が近付いて来ました。
影はどんどん大きく長くなり、とうとう鹿の真下に来ると、ざっばーん!と大きな大きな蛇が大きく口を開けて出てきました。そしてそのままパックン!鹿を丸呑みしてしまいました。
「やっほーい。チロチロ今日も元気に丸呑みかい?」
『何しに来た。毛玉神』
片手を上げて元気に挨拶をする三巳に、リヴァイアサンの亜種、チロチロが素気無く返した。
「巡回ー♪」
見た目に反して可愛らしく呼んでも怒らないチロチロが、三巳は存外好きです。
素っ気無くても意に返さず楽しく答えます。
『そうか』
「チロチロ触らせてくれー」
チョロチョロと舌を出して、やっぱり素っ気無く返すチロチロです。
そして三巳はやっぱり意に返さずチョロチョロ出る細く長い舌に、両手をのばします。
チロチロは、何も言わずに三巳の全身をチョロチョロ舐めました。
「にょはほほはー!こしょばゆーい!」
三巳はそのヒンヤリする舌をペタペタ触って喜びます。
『お前だけだ。喜ぶの』
チロチロがチョロチョロさせながら無感情に言います。
「亜種とはいえチロチロがリヴァイアサンだからだろー?
三巳にとっては海水苦手な可愛いチロチロだけどなー」
リヴァイアサンは本来海のモンスターです。でもチロチロはしょっぱい海の水が口に合わず山まで引っ越した変わり者です。
『……お前だけだ』
チロチロは三巳の耳をチョロチョロ舐めました。
「にゃほほほー!
チロチロ照れ隠しに耳の中舐めるのやめてー!」
どうやら照れていたようです。
「もー、チロチロは相変わらずモフモフ好きだなー。
その様子じゃこの辺も変わりなさそうだなー」
そしてモフモフを堪能していたようです。
三巳はチロチロが普段通りなのを確認して結論付けました。
『水は多い』
「そら雪解けと梅雨が多かったからだ」
『そうか』
もっと三巳といたいチロチロは、引き止める為に言いましたが、軽く返されて終わりガッカリです。見た目にはわかりませんが。
『モクモク谷が騒がしい』
「おん?地獄谷が?行ってみる。
ありがとなー」
諦めたチロチロが山の裏手を見ながら舌をチョロチョロさせて仰ぎ見ました。
三巳も一緒に見上げて次の行き先は決定です。
三巳は次の目的地に向かい歩き出しました。
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