38 / 368
本編
リリと木の洞と
しおりを挟む
リリがロキ医師に山の薬草を学んでいる頃。
三巳は三巳で山を散策していました。
「うーん。やっぱりだなー」
三巳がいる場所は、リリが倒れていた木の洞です。
鼻をふんふんとさせて周辺の匂いを嗅いでいます。
「雨で大分薄れたけど、洞の中はまだリリともう一つの匂いがする」
それが意味する事は、リリは一人で虚に来たわけでは無いかもしれないという事です。
「この匂いは絶対あの子だよなー」
しかも三巳はその匂いに心当たりがあるようです。
三巳は匂いの主を探るべく、目も耳も鼻も研ぎ澄ませました。
主らしき音が山頂付近から聞こえた三巳は、耳をピピクッと動かし更に目を凝らしました。
「おー、いたいたー。てかあっちもこっち見てる?
……違った。あれはリリの方かー」
視線の先を追うと、そこにはリリがいました。
どうやらリリが洞にいた事に関わりがあると確信した三巳は、一足飛びに匂いの主へと行きました。
「おはよー。久方振りだなー」
相手は着地するなり挨拶する三巳を振り返り驚きます。
『久しい、か?つい先日も会ったろう』
そう言った相手は明らかにモンスターです。
トナカイとユニコーンを足した様な姿です。
「数年前もユトに掛かれば先日かー」
『お前さんにとっても先日だろうに』
カラカラと笑う三巳に対して、ユトと呼ばれたモンスターは不服そうです。
「三巳は人間と混じって生活してるからなー」
ムフンとドヤ顔を決め込む三巳に、ユトは呆れた溜息を溢しました。
『全く。相変わらずだな。
過ぎ行く者達と居たら辛くはならないものかね』
「んー。寂しくない訳じゃ無いけど。
死者の行き着く先が判ってるからなー。
そしたら又違った形で逢えるのも楽しみだなー」
ヘヘー♪と鼻歌を刻む様にあっけらかんと言う三巳に、ユトはポカーンと口を開けました。
『ぷ。くははっ。そうか、そうだな』
暫く呆けていたユトでしたが、次第に可笑しくなったのか、楽しそうに笑い出しました。
「それよかユトだろ?リリ助けてくれたの」
三巳は、楽しそうに笑うユトの顔を撫でながら聞きました。
『やはり気付きおったか』
顔を撫でられるユトは、目を眇めて言います。
「隠してもないだろー。そりゃ気付くさー。
でもどう云う風の吹き回しなんだ?」
そこに至った原因は判っても、理由は判りません。三巳は素直に尋ねました。
ユトは瞑目したまま黙っています。
言いたくないのか。言いにくい事なのか。言い方が思いつかないのか。
お互いに口を閉ざすので静けさが辺りを包みます。
聞こえるのは風と葉のサワサワとした音。そして獣の耳だから聞こえる、遠くのリリ達の話声だけです。
『ふっ。元気にやっているようだね』
不意にユトが優しい眼差しでリリを見て言いました。
その目に母性を感じた三巳はフワフワした心地よい気持ちになりました。
「実は知り合いだったり?」
『さて、な。知りたくば彼女の心の闇を払っておくれ。
我等が山神殿』
真剣な目、真剣な口調で言われ三巳は神妙に頷きます。
「リリの心を晴らせるのは、リリの心次第だ。
でも、だからこそ三巳達はリリがちゃんと地に足付けて居られる様に傍にいるんだ」
遠く忘れていた大人の顔で前を見据えて断言します。
子供達が健やかで居られるのは、ちゃんと周りの人達が見ていてくれるからだ。
三巳は前世でニュースに上がったような子供達を想い、リリに重ねて放っておくなんて出来ないのでした。
三巳は三巳で山を散策していました。
「うーん。やっぱりだなー」
三巳がいる場所は、リリが倒れていた木の洞です。
鼻をふんふんとさせて周辺の匂いを嗅いでいます。
「雨で大分薄れたけど、洞の中はまだリリともう一つの匂いがする」
それが意味する事は、リリは一人で虚に来たわけでは無いかもしれないという事です。
「この匂いは絶対あの子だよなー」
しかも三巳はその匂いに心当たりがあるようです。
三巳は匂いの主を探るべく、目も耳も鼻も研ぎ澄ませました。
主らしき音が山頂付近から聞こえた三巳は、耳をピピクッと動かし更に目を凝らしました。
「おー、いたいたー。てかあっちもこっち見てる?
……違った。あれはリリの方かー」
視線の先を追うと、そこにはリリがいました。
どうやらリリが洞にいた事に関わりがあると確信した三巳は、一足飛びに匂いの主へと行きました。
「おはよー。久方振りだなー」
相手は着地するなり挨拶する三巳を振り返り驚きます。
『久しい、か?つい先日も会ったろう』
そう言った相手は明らかにモンスターです。
トナカイとユニコーンを足した様な姿です。
「数年前もユトに掛かれば先日かー」
『お前さんにとっても先日だろうに』
カラカラと笑う三巳に対して、ユトと呼ばれたモンスターは不服そうです。
「三巳は人間と混じって生活してるからなー」
ムフンとドヤ顔を決め込む三巳に、ユトは呆れた溜息を溢しました。
『全く。相変わらずだな。
過ぎ行く者達と居たら辛くはならないものかね』
「んー。寂しくない訳じゃ無いけど。
死者の行き着く先が判ってるからなー。
そしたら又違った形で逢えるのも楽しみだなー」
ヘヘー♪と鼻歌を刻む様にあっけらかんと言う三巳に、ユトはポカーンと口を開けました。
『ぷ。くははっ。そうか、そうだな』
暫く呆けていたユトでしたが、次第に可笑しくなったのか、楽しそうに笑い出しました。
「それよかユトだろ?リリ助けてくれたの」
三巳は、楽しそうに笑うユトの顔を撫でながら聞きました。
『やはり気付きおったか』
顔を撫でられるユトは、目を眇めて言います。
「隠してもないだろー。そりゃ気付くさー。
でもどう云う風の吹き回しなんだ?」
そこに至った原因は判っても、理由は判りません。三巳は素直に尋ねました。
ユトは瞑目したまま黙っています。
言いたくないのか。言いにくい事なのか。言い方が思いつかないのか。
お互いに口を閉ざすので静けさが辺りを包みます。
聞こえるのは風と葉のサワサワとした音。そして獣の耳だから聞こえる、遠くのリリ達の話声だけです。
『ふっ。元気にやっているようだね』
不意にユトが優しい眼差しでリリを見て言いました。
その目に母性を感じた三巳はフワフワした心地よい気持ちになりました。
「実は知り合いだったり?」
『さて、な。知りたくば彼女の心の闇を払っておくれ。
我等が山神殿』
真剣な目、真剣な口調で言われ三巳は神妙に頷きます。
「リリの心を晴らせるのは、リリの心次第だ。
でも、だからこそ三巳達はリリがちゃんと地に足付けて居られる様に傍にいるんだ」
遠く忘れていた大人の顔で前を見据えて断言します。
子供達が健やかで居られるのは、ちゃんと周りの人達が見ていてくれるからだ。
三巳は前世でニュースに上がったような子供達を想い、リリに重ねて放っておくなんて出来ないのでした。
21
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる