獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
5 / 330
本編

三巳の鼻

しおりを挟む
 三巳のお鼻は人間の形をしています。
 それは人型に変身しているからです。本当の姿はフェンリルの様な格好いい姿なのです。本当はお鼻も少し濡れている獣のヒクヒクお鼻です。

 今日の三巳はとあるお宅へ嚙り付いています。
 そこは新しく出来た村初めてのパン屋さんでした。
 これまでは、パンは各家庭が仕込んでいました。しかし村一番のパン作りの名手が山の民の熱い熱意に答えて開業したのでした。
 開業とはいっても村の中のお話です。お金なんて存在しません。パンは物々交換されるのです。

 しかし三巳にとってパン屋は魅惑の響きでした。
 それはそうでしょう。前世の幕を閉じてから何十年。いえ、何百年ぶりの邂逅でしょう。
 鼻をヒクヒクさせて香ばしい香りを堪能します。
 けれど残念。三巳は物々交換出来るものを持っていません。どうしたらいいのでしょう。
 三巳は考えています。

 「そうだ。再現できそうな前世のパンの材料を集めて交換して貰おう。
 あわよくば、再現して貰おう」

 と強かに考え付いた三巳は、美味しそうな匂いを求めて山を駆けまわります。

 山では、たわわに実ったオレンジやイチゴを発見しました。
 キノコもそこかしこに生えています。
 牛や山羊を放牧しているので、ミルクもチーズもバターもあります。
 これはもう作って貰うしかないでしょう。フルーツサンドにピザ。
 想像しただけで涎が止まりません。

 三巳は他にないか真剣に鼻をヒクヒクさせています。
 すると微かに香るものがあります。匂いを頼りに近寄ると野生のアスパラが生えていました。

 「やったー!アスパラ乗せたピザ大好き!」

 物凄いはしゃぎ様です。もう作って貰う気まんまんです。
 思わぬ収穫に機嫌よく、たったか、たったか村まで駆けます。アスパラは鮮度が命です。
 
 村に付いた三巳は早速パンの名手に鼻息荒くお願いしました。
 特に断る理由のない名手です。苦笑はしますが、快く引き受けます。

 「三巳は神様だから、交換無くてもいつでも食べに来て良いのよ」
 「それはダメだ。不公平だろ」

 不真面目そうで割と生真面目な三巳なのでした。


 ちなみに、出来上がったサンドやピザは村で大流行し、暫くどこの家庭でもサンドやピザが続いたのだとか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幽霊のSNS~晒し者は蜜の味~

ホラー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:4

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,457pt お気に入り:1,956

エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,558pt お気に入り:1,665

神槍のルナル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:10

神の子~本当は神様の子どもだったらしいから自由に生きる~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:26

異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:10

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,591pt お気に入り:217

処理中です...