姫と王子の男女問題!?

蒼穹月

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ただしい恋のはじまり後編

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 期待の眼差しが四方八方から私を突き刺す。
 言いよどむ口も閉じることが出来ずに、時間が過ぎていく。
 このまま何も言わずにいてはダメだろうか。
 いや、フォルの為にも今ファルがいる場で伝えた方がいい気がする。

 「す」
 『す?』
 「す」
 『す。』

 ええい!男は勢いだ!!確か以前騎士が意中のメイドに告白して上手くいった時に話していたのを通りすがりに聞いた!やれ、やるんだ!やればできる子!
 真っ赤に染まった顔とグルグル回る目を意識して抑えながら、大きく息を吸う。気合は入った。後は言うだけだ。

 「すきやきうどんが食べてみたいですわ!」

 フォルとファル以外全員こけた。
 フォルは固まり、ファルは大爆笑だ。
 ごめんなさい勇気が足りなかった。

 「そうだね。母に言って今夜作って貰おう」

 がっかりした苦笑でフォルは言ってくれるが、そうじゃないのぉぉぉぉぉ!ただ、口から意味のない言葉が紡がれただけなの。むしろ存在するのね。すきやきうどん。楽しみにしています、すきやきうどん。
 悄然と項垂れるが、それで終わらせてはフォルに申し訳ない。

 「あの、そうではなくて、いえすきやきうどんは楽しみですけれど。
 私はフォルの事が、す~、すぅ~!」

 再度勇気を振り絞りフォルを潤む瞳で見つめると、ごくりと唾をのみ再度期待で目を輝かせてくれる。
 ファルは相変わらず愉快そうに笑みを崩さずフォルを細めた目で見守る体制になっている。
 周囲ではこけた体制を半ば起き上がらせた状態で、操舵者と背後の護衛騎士、先ほどちらりと確認してみたら安定のビーだった。が、釣られたのか固唾を飲みこみじっと見守る。だから、そうやって見られるから余計に緊張するので、視線は出来れば体ごと逸らして耳を閉じて欲しい。エイは呆れた顔で、でも少しほっとした顔で再度見守てくれる。エイはいいの。心強いから。その目は男を見せろとでも言っているよう。国際問題になったら力を貸してね。

 「すすすすす」

 真っ赤な顔で目をつむり周囲の視線を見ない様にすることで、少しは恥ずかしさが和らいだ。ような気がする。病は気からだから大丈夫、の筈。それでも「好き」の一言が言えずに同じ言葉を繰り返していると、不意に肩を抱かれる感触がして、次いでくいっと顎を横に上げられて思わず目を開ける。するとそこには色気駄々洩れの迫力美人の妖艶な笑みがございました。何故!?

 「ふふ。これなら私にも口説くチャンスがありそうだ。
 そんなに真っ赤になって大変な思いをするくらいなら、私についてこないか?」

 口説かれた!?たしかに当初の目的は恋のし直しでしたけれども、フォルへの恋を辞めることを諦めた今は嬉しいけれど困ります!
 あわあわと離れようともがいていると、急に前方に引っ張られて逃げられない様にぎゅうっと抱きしめられた。もちろんフォルにである。

 「やめてくれ!!私のアンだ!!アンへの愛は誰にも負けない!!誰にもアンは渡す気は無い!!」

 フォルからの愛の告白と顔の近くにある早く力強い鼓動に、感極まる。熱く泣きそうな目でしっかりとフォルを見つめ、想いがあふれた途端、自らその首に抱き着いていた。

 「私も大好きです!」
 「アン!」

 更に強く掻き抱かれ、私もさらに力を籠める。そのままフォルの顔が近づいてくる。

 「やれやれ。やっと言えたか。へたれめ」

 顔がぶつかりそうだな、と思った時にファルが放った一言はフォルの動きを止めた。そのまま、ぎぎぎ、と音がしそうな動きでファルを睨んでいるけれど、たしかに私勇気が足りなかったから、へたれと言われても怒らないよ?

 「ああ。ヘタレはアンの事じゃないから安心して」

 ファルに快活に笑われたけれど、私では無いならフォルの事?フォルは格好いいよ?男の私が大好きになってしまったのだもの。ああ、そうだそのことも告白しなくてはならない。でも流石に一般の方には為るべく聞かれない方が問題にはなりにくいだろうから、城に戻ったら告白しよう。それでも嫌わないでいてくれるといいけれど、きっとそれはとても難しいことだろうな。
 憂鬱になった顔を見られない様にフォルの肩に顔をうずめて隠すと、嬉しそうに腰と頭を抱かれ頭に「ちゅ」された。大好きな人からの初「ちゅ」、体の熱がオーバーヒートした私は気を失いました。


 気づいたら自室のベッドでした。
 横には私の手を握り、フォルがいました。デジャブである。

 「おはよう、アン」
 「おはよう、フォル」

 空気が甘い。照れても目を逸らす気にはならない。
 体を起こして、はたと気づく。寝巻に着替えてある。蒼褪めてフォルを仰ぎ見ると、心配されたフォルにおでことおでこで熱を測られすぐ赤くなる。いや、だからドキドキしている場合ではない。前回と違って、今回はフォルの前で気を失ったのだ。手厚く介抱されていたら告白する前にばれていることに。

 「あの、着替え」
 「ああ、君の侍女、エイといったかな。あの後彼女が颯爽と現れて、アンを城まで連れて行ったんだよ。あまりの早業に付いて行くのがやっとだったよ」

 苦笑いで教えてくれたので、エイを見るといつもの顔で頷かれたので、着替えはエイがしたのだろう。

 「あの、心配かけてごめんなさい」
 「いや、あれは私がいけない。ごめん」

 二人で謝り頭を下げるので、それが可笑しくてクスリと笑ってしまう。

 「あの、それとは別に謝らなくてはいけないことがあるの」

 ここは自室なので身内の者しかいないのは確認済み。今、告白する方がいい。後にすればそれだけ、傷つけてしまう。嫌われて傷つくのは私だけでいい。
 フォルは首を傾げて、笑顔で続きを促してくれる。
 この笑顔が軽蔑の目で冷たく凍るのは怖い。でも、それは私の勝手な感情。フォルは優しい人。不誠実のまま相対することもう出来ない。

 「私は、父上にも、兄上にも秘密の事でしたけれど」

 これを誰かに話したことは無い。今日初めて誰か、それも恋した人に打ち明ける。怖い。きちんと話せるだろうか。フォルは優しく見守ってくれている。最後まで言うまで根気強く待ってくれるだろう。優しい人だから、でもだからこそ待たせてはいけない。これを打ち明けなければ、私はフォルと始めることも終わることもできない。

 「末姫だと、そう育てられていましたけれども」

 その優しさが、今は怖い。声が震える。言いたくない。でも言わなくては。目を逸らしたい、固く閉ざしたい。でも、それはダメ。きっと誠実さに欠けてしまう。そんな気がする。
 だから、しっかり目を見て伝えるんだ。
 不安に揺れる目に決意の色を乗せて、天国の母上と遠い地にいる姉上達に勇気を下さいと念じる。

 「本当は」

 あまりにもゆっくり噛みしめる様に話す私が心配になったのか、私の両手を、フォルの両手で優しく包み込んでくれる。その温もりに、堪え切れなくなったひと雫がほほを伝う。
 この温もりとフォルの優しさを信じよう。

 「王子、なのです」

 震える声で、伝えきる。
 フォルはなんと言われたか理解できなかったのだろうか。目をパチクリさせている。これが理解した事によってどう変わるのか、いいえ、信じよう。先程そう決意したばかりではないか。

 「うん?勿論覚えているよ?」

 ん?何故困惑しているの?というより、覚えている?どういう事??

 「あれ?覚えてくれていたのでは無い?だから、私の元へ来てくれたのでしょう?」
 「?何のこと?」

 フォルが傾げる方向と合わせて首を傾げると、フォルは恐る恐るエイを見る。エイはといえば、その視線を受けて首を横に振っている。
 何だというのだろう。
 青くなり狼狽するフォルが、恐る恐る私を見る。

 「私達は幼い頃、一度お会いした事が有るよね」
 「?遠目に拝見した事はあるけれど?」

 驚愕と悲しみに打ちひしがれたフォルはがくりとベッドの淵に沈む。
 本当に意味が分からない。取り敢えず判るのは、フォルは何故か私が男である事を知っていた事と、国際問題には初めからなりそうもなかった事くらい。
 でも、判っていて伴侶に選んでくれるなんて、フォルはエイが言っていた同性愛の人なのだろうか?だとすると後継は如何するのだろう?
 フォルが沈んで何事かブツブツ言っている間、私は疑問の淵に沈み込んでいたけれど、不意に据わった目をして幽鬼の様にゆらりと上体を起こしたので考える事を中断する。

 「冷戦協定を結んだ後、アンの城で親善パーティを開いた事は覚えている?」
 「残念な事にパーティの翌日に流行病の高熱で倒れたらしくて。数日の記憶が抜けてしまっているの」
 「それでか」

 正直に話すとガックリと項垂れてしまった。協定を結んだのは私がまだ幼い頃だったけれど、その時に何があったのだろう?話の流れからすると、その時にお会いしているのだろうけど。その時に幼い私が男である事を言ってしまったのだろうか。

 「じゃあ、アンは私を男だと思って嫁ぎに来てくれたの?」
 「はい」
 「じゃあ、同性が恋愛対象なの?」
 「いいえ」
 「じゃあ、何で来てくれたの?」
 「他の国の方に政略結婚させられそうになって、冷戦国の王子に想いを寄せていると言えば、結婚自体を回避出来るかと想って」
 「そうか。末姫を溺愛していると有名なあの方だ。叶えてしまわれた訳か」
 「はい」
 「それなら婚姻は出来ないと思っていたのだろう?如何するつもりだったんだ」

 先程から一度も離されていない両の手に力が籠もって少し痛い。それに目が昏く淀んでいる。大丈夫だろうか。

 「フォルに嫌われれば婚姻回避出来ると思って、嫌味を言ったりしたの。ごめんなさい。
 でも、恋に落ちてしまって、止めようとしたけれど無理で、如何しようもないくらい大好きになってしまって」

 真摯に目を見て訴えると、フォルの顔が沸騰したように真っ赤になる。男でも好きでいてくれていると思うと嬉しくて、涙が流れる。

 「フォルは同性が好きなのね」
 「違うよ!?」

 あれ?否定された?それも力いっぱい。これはもしかして、たまたま好きになったのが同性だったとかいう、いつだったかシィが熱弁してたことだろうか。だとしたら、嬉しすぎてほおが弛む。

 「私は女だよ!?」

 ・・・。
 ・・・うん?

 世界が一瞬止まった気がする。

 「幼い頃にも話したのだけれど、父に子供が私しか生まれなかったから、他国に舐められて面倒くさいことにならない様に男として育っただけだよっ。自国の民はみんな私が女だって知っているし、アルに初恋のアンの事を話したら国中に広めてくれたおかげで、アンが男だってことも知れているんだ」

 肩をがっしと鷲掴まれる。力加減はしてくれているのか痛くはないけれど。
 というより、今爆弾発言されませんでした?
 国民全員に私が男だと知られている?
 サスケも?畑で出会った娘も?カフェテリアの店員さんやゴンドラの操舵者の人も?今まで出会った全ての人も?

 「な、な、なんていう事!
 変態だと思われてたとしたら、恥ずかし死ねる!」
 「え?死なないで?大丈夫だよ。私が女で王子だから、みんな王族はそういう事もあるくらいにしか思っていないよ」
 「そう、かな?」

 フォルの胸に縋りついて、潤んだ瞳で聞くとフォルに「可愛い」と抱きしめられる。
 あれ?男だと知っているのに可愛いと思われていたのか!それも女の子に!女の子の方が格好良いとか情けなぃ・・・。

 「言っておくけれど、可愛いアンが大好きなんだからね」

 意気消沈していた内容などお見通しと、「ちゅ」と眉間にされる。 「ちゅ」2度目!心臓爆発するけど、何とか気絶しない様に気をしっかり持つことに成功。男として何度も気絶なんて、情けないにも程がある。
 
 「私も、格好いいフォルが大好き」

 涙で濡れた顔で格好もつかないし、おそらく可愛くもない、それでも心から笑う。
 熱っぽく潤んだフォルの顔がゆっくり近づいてくる。

 そして二つの影が重なった。
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