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ただしい恋のはじまり前編
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拝啓、遠く異国の地へ嫁がれた姉上。
寒さが厳しくなった今日この頃、如何お過ごしでしょうか。
こちらは先日初雪を観測いたしました。ちらちらと舞う雪の結晶が、大地を薄っすら白く染めていく様は、とても綺麗でした。
最近ではめっきり畑仕事も減り、時折様子を伺ったり、当日使用する野菜を収穫したりする程度です。
そうそう、雪が降る前にフォルが街へ案内をしてくれました。祖国でも街に降りたことが無い私は、直接触れる民達の生き生きとした生活の様子に心躍りました。地平線も見えそうなほどの眼前に広がる田畑を案内された時には興奮が最高潮に達し、王子に「可愛い」と楽しそうにクスクス笑われ少し恥ずかしくもありました。
知っていましたか?農家は城より広大な大地を各家々で管理していると。それを聞いた私が城の畑たちは本当に遊びの範疇なのだと驚愕したものです。あの程度の広さの管理にも大変(それでも楽しいので苦にはなっていませんが)なのに、本物の農家の皆様には驚嘆に値します。ちなみにたまたま現れた大きな猪を、鍬一つで一撃のもと屠った農家の娘には今更驚きません。
さて、最近困ったことがあるのです。男であるにも関わらず、姫として嫁ぎに来たこの国の王子に恋をしてしまいました。国際問題になる前に婚姻回避をしたかったのですが、最近の王子は甘さがましてどんどん離れがたくなり困ってしまいます。少しの段差でも手を取られスマートにエスコートされた時には男なのにドキリと胸が高鳴りました。
このままではいけないので、これ以上好きになる前に、嫌われないように婚姻回避をする知恵をお貸しください。
PS。最近第一子がお生まれになったそうですね。遠い地の為直接言祝げないことが残念でなりません。
こちらが落ち着いたら、ぜひお伺いさせてください。
「姫様。そのような事は独白でなく、直接お手紙にしたためてください」
「にゃああ!?
侍女!?だから独白を読まないで!それに私がもにょもにょ(男)ということが検閲でばれたら大変だから書けないでしょ!?」
「左様でございますね。至らず申し訳ありません」
「その謝罪は前者に対して?後者に対して?それとも両方に対して?」
「もちろん後者にございます」
したり顔で頷かれた。最近侍女が優しくない気がする。というより面白がわれている。確実に。
「もういいです。それなら侍女が知恵をだして」
ぷんとむくれてそっぽを向くと背後の侍女が「最近の姫様が可愛くてつらい」とかのたまわっている。むしろ最近の君の壊れ具合の方が心配でつらいよ。
それにしても最近侍女との接触が増えたのでいい加減「侍女」だと誰が誰だかわからなくなる。たしか、侍女頭で普段から傍に付いて心を読む侍女は「エイ」。その背後に控える最近言動と行動が壊れつつある侍女が「シィ」。普段入り口に控えて以前野盗狩りに付いてきた護衛騎士が「ビー」といった筈。その他の者はたまに交代で変わるくらいでここまで接点がないから、取り合えず彼らだけはこれから名前で呼ぶかな。
「それでエイ。何か案はある?」
さっそく名前で呼んでみると、私の髪を整えていたエイは目を見開き固まり、その手から櫛を落とす。
あれ?名前呼び駄目だったかな。
「姫様。急に名前を呼ぶのは卑怯ですよ」
ほほを染め反芻するように目をゆっくり閉じている所を見ると嫌ではないのだろうけど、卑怯ってなんで?
そして横でエイの補佐をしていたシィよ、何故そのような嫉妬に身をやつした敵意の目をエイに向けるだ。
「何か駄目だったのかなぁ。どう思う?シィ」
首を傾げて鏡越しにシィに聞くと、一転して太陽すらしのぐ程の満面の笑顔を見せる。両手を握りしめ悦に入り咽び泣いている。
二人とも戻ってきてほしい。
「申し訳ありません。全くダメではございませんとも。ええ。急だったもので心の準備がなかったので虚を突かれ感動しすぎただけです。名を呼ばれる誉れは仲間内で自慢いたします」
え。名前ってそんなに大事な事だった?ごめん。今まで役職で読んでて。だって、みんな陛下とか殿下とか閣下とか騎士団長とか役職で呼んでいる人ばかりだったから、気にした事なかったんだよ。
でも、確かにこの国の人たちは総じて名前や愛称で呼び合っている事ばかりで、侍女達が羨ましそうにしていたな。これからは他の人たちもなるべく名前で呼ぶことにしよう。
「ねぇ、エイ、シィ。話を戻したいのだけれど」
「そうでしたね。いい知恵・・・ですか」
気を取り直したエイは、落ちた櫛を片付けて新しい櫛で髪をすかしてくれる。
シィは未だに夢見心地だ。しばらく帰ってきそうにない。
「好意に関しましては、嫌いなところを探すですとか、他の方に新たな恋を見出すですとか・・・。
もう一つの方に関しましては、今はまだ良い案が浮かびません」
「ありがとう。まずは嫌いなところね・・・」
フォルの嫌なところか。最初は格好良さに嫉妬を感じたものだけれど、最近はそこが好意を加速させているし。言動も行動も嫌味なく、むしろ甘い。蕩ける様な笑顔は胸を熱くする。
「・・・格好良すぎて嫌なところが思いつかないのが嫌・・・とか?」
「それでは駄目でしょう」
「ですよねー」
でも現状思いつかないので、次の案に移る事にする。
「でもフォル殿下にもいきなり恋に落ちているのよ?ほかの方に恋する方法がわからないわ」
「では手始めにドゥナフォルト殿下に似た女性と仲良くなるところから始めてみてはいかがでしょう」
「そうね。そうするわ」
でも、似た方がそう簡単に見つかるかしら。フォルには兄弟姉妹はいないし、親戚に年の近いご令嬢がいらっしゃらないか聞いてみよう。姫と思わている私がご令嬢と仲良くしたいと言っても不信にはならないでしょう。
普段着用の落ち着いた色合いのドレスに着替え終えた私は、早速フォルの元へと向かう。
今は農家と猟師と漁師の代表の方々と応接室にて会合が行われているとのなので時間がかかりそう。仕方がないので王妃の元へ聞きに行くことにする。王妃ならこの時間は庭園にてお茶を嗜んでいるころだろう。庭園からは城下町を見る事出来るので私もお気に入りの場所だ。案の定王妃はそこにいた。誤算だったのは、王によく似たご婦人も共にいたことだ。踏み入るのを躊躇していたら、王妃に気付かれた。
「まあ。おはよう、アン」
最近は王も王妃も愛称で呼んでくれる。お客様方がいらしても、そこは変わらないらしい。
「おはようございます。フォリステレサ王妃」
「あら、いつもみたいにリサお義母さんと呼んでほしいわ」
いえいえ。お客様の前でそれはどうなのだろう。ほら、ご婦人がこちらをじっと見ていますよ。
「リサ。この方が例の隣国のお姫様ね。是非とも紹介して欲しいわ」
あ。お客様も気安い方でしたか。そうですよね。明らかにこの国の方ですし。王に似ていらっしゃるし。親族関係ですよね。気安いのはお国柄ですものね。
おいでおいでと手招きされたので、静々と傍に拠る。椅子に促されたので着席すると、温かい飲み物が差し出される。ありがたい。今日は日差しが強く比較的暖かいとはいえ、冬の空気は寒いのです。ちなみに近くには暖炉が設置されています。暖炉の中には王妃が入れたであろうパンとお芋が焼かれている。焼き芋はおいしい。
「アンジュ姫よ。私の自慢の義娘なの。
アン。こちらニオのお姉さまのドゥーチェリア様。外務大臣に嫁がれているのよ」
紹介されて驚いた。ではこの方の旦那様が我が国との冷戦交渉に来られた使節団の方。兄上によると、とても油断ならない方だとか。どう油断できないのかはお聞きしても冷や汗をかいてはぐらかされましたけれど。
「お初にお目にかかれて光栄ですわ。外務大臣といえば冷戦協定の立役者ですもの」
「ふふ。大した人じゃないのよ。戦う暇があるなら釣りをしたいとつい最近も、隣国にできた釣り仲間と内緒で出かけてしまったのよ」
コロコロと鈴が鳴くように笑われて戸惑うばかりだ。魚の一匹も釣れずに帰ってきて一晩外に放置したと言われて、祖国で聞いていた使節の方と結びつかなくなる。というより大臣って身分ある人だよね。いいの?そんなので。
「ま、いいじゃない。殿方の事は置いときましょ。
それより何か用があって来られたのではなくて」
「そうなのですけれど」
この人の底知れない恐怖に身をすくめていたら、王妃が両手を軽く合わせて「そうよね」と話を促される。
う~ん。親族の方だし、ここで言ってもいいか。
「この国に訪れてずいぶん経ちました。しかし、未だに同年代の同性の方とお知り合いになれていなせん。
ですのでどなたか、できればご親戚の方の方がよいのですけれども、良いご令嬢を紹介いただけないかと思いまして」
「あらあら、それもそうね。それに確かにはじめは身近な人の方が安心よね」
ほほに手を当てて可愛らしく首を傾げる王妃。
「なんだ、それならうちの娘がうってつけじゃない。
年も近いし、フォルとは従姉同士なんだからこれから接点も増えるだろうし」
「そうね。それがいいわ」
拍子抜けするくらい簡単に話が進んだ。確かに王によく似たこの方の娘ならフォルにも似ていそうだ。
「ではぜひお願いいたします」
頭を下げてお願いすると。ニヤリと笑まれた。なぜだ。
「いいねぇ。私もこんな嫋やかな娘が欲しいよ」
はい?お宅様の娘様は令嬢らしくいらっしゃらないのですか?
ちらりと王妃を伺うと、可笑しそうに笑われている。
「ふふふ。あの子は嫋やかというより、勇ましいものね」
あ、ご令嬢も漏れずにこの国使用ですか。そうですか。
いやまあ、その方がよりフォルに近くて恋に落ちやすいかも。
「まあね、どうしてああ育ったんだか。
ねえ、アン。ちょっと私の事チェリお姉さまって呼んでみてくれない?」
はい?お姉さまって年じゃないのでは・・・。あれ、エイの目が女性はみんな娘だと訴えている。逆らわない方がよさそうだ。
「チェリお姉さま?」
上目遣いに恐る恐る呼んでみると豪快に喜ばれた。テーブルをバンバンたたいているので振動で揺れている。
「いいじゃないか。よし、これからはそう読んどくれ!」
決定事項ですかそうですかわかりました。
それから私たちは他愛もない話、主に私の事を聞かれたので差しさわりのないことだけ答えてその場はお開きになった。件のご令嬢は後日日程を合わせてご紹介くださることになった。
寒さが厳しくなった今日この頃、如何お過ごしでしょうか。
こちらは先日初雪を観測いたしました。ちらちらと舞う雪の結晶が、大地を薄っすら白く染めていく様は、とても綺麗でした。
最近ではめっきり畑仕事も減り、時折様子を伺ったり、当日使用する野菜を収穫したりする程度です。
そうそう、雪が降る前にフォルが街へ案内をしてくれました。祖国でも街に降りたことが無い私は、直接触れる民達の生き生きとした生活の様子に心躍りました。地平線も見えそうなほどの眼前に広がる田畑を案内された時には興奮が最高潮に達し、王子に「可愛い」と楽しそうにクスクス笑われ少し恥ずかしくもありました。
知っていましたか?農家は城より広大な大地を各家々で管理していると。それを聞いた私が城の畑たちは本当に遊びの範疇なのだと驚愕したものです。あの程度の広さの管理にも大変(それでも楽しいので苦にはなっていませんが)なのに、本物の農家の皆様には驚嘆に値します。ちなみにたまたま現れた大きな猪を、鍬一つで一撃のもと屠った農家の娘には今更驚きません。
さて、最近困ったことがあるのです。男であるにも関わらず、姫として嫁ぎに来たこの国の王子に恋をしてしまいました。国際問題になる前に婚姻回避をしたかったのですが、最近の王子は甘さがましてどんどん離れがたくなり困ってしまいます。少しの段差でも手を取られスマートにエスコートされた時には男なのにドキリと胸が高鳴りました。
このままではいけないので、これ以上好きになる前に、嫌われないように婚姻回避をする知恵をお貸しください。
PS。最近第一子がお生まれになったそうですね。遠い地の為直接言祝げないことが残念でなりません。
こちらが落ち着いたら、ぜひお伺いさせてください。
「姫様。そのような事は独白でなく、直接お手紙にしたためてください」
「にゃああ!?
侍女!?だから独白を読まないで!それに私がもにょもにょ(男)ということが検閲でばれたら大変だから書けないでしょ!?」
「左様でございますね。至らず申し訳ありません」
「その謝罪は前者に対して?後者に対して?それとも両方に対して?」
「もちろん後者にございます」
したり顔で頷かれた。最近侍女が優しくない気がする。というより面白がわれている。確実に。
「もういいです。それなら侍女が知恵をだして」
ぷんとむくれてそっぽを向くと背後の侍女が「最近の姫様が可愛くてつらい」とかのたまわっている。むしろ最近の君の壊れ具合の方が心配でつらいよ。
それにしても最近侍女との接触が増えたのでいい加減「侍女」だと誰が誰だかわからなくなる。たしか、侍女頭で普段から傍に付いて心を読む侍女は「エイ」。その背後に控える最近言動と行動が壊れつつある侍女が「シィ」。普段入り口に控えて以前野盗狩りに付いてきた護衛騎士が「ビー」といった筈。その他の者はたまに交代で変わるくらいでここまで接点がないから、取り合えず彼らだけはこれから名前で呼ぶかな。
「それでエイ。何か案はある?」
さっそく名前で呼んでみると、私の髪を整えていたエイは目を見開き固まり、その手から櫛を落とす。
あれ?名前呼び駄目だったかな。
「姫様。急に名前を呼ぶのは卑怯ですよ」
ほほを染め反芻するように目をゆっくり閉じている所を見ると嫌ではないのだろうけど、卑怯ってなんで?
そして横でエイの補佐をしていたシィよ、何故そのような嫉妬に身をやつした敵意の目をエイに向けるだ。
「何か駄目だったのかなぁ。どう思う?シィ」
首を傾げて鏡越しにシィに聞くと、一転して太陽すらしのぐ程の満面の笑顔を見せる。両手を握りしめ悦に入り咽び泣いている。
二人とも戻ってきてほしい。
「申し訳ありません。全くダメではございませんとも。ええ。急だったもので心の準備がなかったので虚を突かれ感動しすぎただけです。名を呼ばれる誉れは仲間内で自慢いたします」
え。名前ってそんなに大事な事だった?ごめん。今まで役職で読んでて。だって、みんな陛下とか殿下とか閣下とか騎士団長とか役職で呼んでいる人ばかりだったから、気にした事なかったんだよ。
でも、確かにこの国の人たちは総じて名前や愛称で呼び合っている事ばかりで、侍女達が羨ましそうにしていたな。これからは他の人たちもなるべく名前で呼ぶことにしよう。
「ねぇ、エイ、シィ。話を戻したいのだけれど」
「そうでしたね。いい知恵・・・ですか」
気を取り直したエイは、落ちた櫛を片付けて新しい櫛で髪をすかしてくれる。
シィは未だに夢見心地だ。しばらく帰ってきそうにない。
「好意に関しましては、嫌いなところを探すですとか、他の方に新たな恋を見出すですとか・・・。
もう一つの方に関しましては、今はまだ良い案が浮かびません」
「ありがとう。まずは嫌いなところね・・・」
フォルの嫌なところか。最初は格好良さに嫉妬を感じたものだけれど、最近はそこが好意を加速させているし。言動も行動も嫌味なく、むしろ甘い。蕩ける様な笑顔は胸を熱くする。
「・・・格好良すぎて嫌なところが思いつかないのが嫌・・・とか?」
「それでは駄目でしょう」
「ですよねー」
でも現状思いつかないので、次の案に移る事にする。
「でもフォル殿下にもいきなり恋に落ちているのよ?ほかの方に恋する方法がわからないわ」
「では手始めにドゥナフォルト殿下に似た女性と仲良くなるところから始めてみてはいかがでしょう」
「そうね。そうするわ」
でも、似た方がそう簡単に見つかるかしら。フォルには兄弟姉妹はいないし、親戚に年の近いご令嬢がいらっしゃらないか聞いてみよう。姫と思わている私がご令嬢と仲良くしたいと言っても不信にはならないでしょう。
普段着用の落ち着いた色合いのドレスに着替え終えた私は、早速フォルの元へと向かう。
今は農家と猟師と漁師の代表の方々と応接室にて会合が行われているとのなので時間がかかりそう。仕方がないので王妃の元へ聞きに行くことにする。王妃ならこの時間は庭園にてお茶を嗜んでいるころだろう。庭園からは城下町を見る事出来るので私もお気に入りの場所だ。案の定王妃はそこにいた。誤算だったのは、王によく似たご婦人も共にいたことだ。踏み入るのを躊躇していたら、王妃に気付かれた。
「まあ。おはよう、アン」
最近は王も王妃も愛称で呼んでくれる。お客様方がいらしても、そこは変わらないらしい。
「おはようございます。フォリステレサ王妃」
「あら、いつもみたいにリサお義母さんと呼んでほしいわ」
いえいえ。お客様の前でそれはどうなのだろう。ほら、ご婦人がこちらをじっと見ていますよ。
「リサ。この方が例の隣国のお姫様ね。是非とも紹介して欲しいわ」
あ。お客様も気安い方でしたか。そうですよね。明らかにこの国の方ですし。王に似ていらっしゃるし。親族関係ですよね。気安いのはお国柄ですものね。
おいでおいでと手招きされたので、静々と傍に拠る。椅子に促されたので着席すると、温かい飲み物が差し出される。ありがたい。今日は日差しが強く比較的暖かいとはいえ、冬の空気は寒いのです。ちなみに近くには暖炉が設置されています。暖炉の中には王妃が入れたであろうパンとお芋が焼かれている。焼き芋はおいしい。
「アンジュ姫よ。私の自慢の義娘なの。
アン。こちらニオのお姉さまのドゥーチェリア様。外務大臣に嫁がれているのよ」
紹介されて驚いた。ではこの方の旦那様が我が国との冷戦交渉に来られた使節団の方。兄上によると、とても油断ならない方だとか。どう油断できないのかはお聞きしても冷や汗をかいてはぐらかされましたけれど。
「お初にお目にかかれて光栄ですわ。外務大臣といえば冷戦協定の立役者ですもの」
「ふふ。大した人じゃないのよ。戦う暇があるなら釣りをしたいとつい最近も、隣国にできた釣り仲間と内緒で出かけてしまったのよ」
コロコロと鈴が鳴くように笑われて戸惑うばかりだ。魚の一匹も釣れずに帰ってきて一晩外に放置したと言われて、祖国で聞いていた使節の方と結びつかなくなる。というより大臣って身分ある人だよね。いいの?そんなので。
「ま、いいじゃない。殿方の事は置いときましょ。
それより何か用があって来られたのではなくて」
「そうなのですけれど」
この人の底知れない恐怖に身をすくめていたら、王妃が両手を軽く合わせて「そうよね」と話を促される。
う~ん。親族の方だし、ここで言ってもいいか。
「この国に訪れてずいぶん経ちました。しかし、未だに同年代の同性の方とお知り合いになれていなせん。
ですのでどなたか、できればご親戚の方の方がよいのですけれども、良いご令嬢を紹介いただけないかと思いまして」
「あらあら、それもそうね。それに確かにはじめは身近な人の方が安心よね」
ほほに手を当てて可愛らしく首を傾げる王妃。
「なんだ、それならうちの娘がうってつけじゃない。
年も近いし、フォルとは従姉同士なんだからこれから接点も増えるだろうし」
「そうね。それがいいわ」
拍子抜けするくらい簡単に話が進んだ。確かに王によく似たこの方の娘ならフォルにも似ていそうだ。
「ではぜひお願いいたします」
頭を下げてお願いすると。ニヤリと笑まれた。なぜだ。
「いいねぇ。私もこんな嫋やかな娘が欲しいよ」
はい?お宅様の娘様は令嬢らしくいらっしゃらないのですか?
ちらりと王妃を伺うと、可笑しそうに笑われている。
「ふふふ。あの子は嫋やかというより、勇ましいものね」
あ、ご令嬢も漏れずにこの国使用ですか。そうですか。
いやまあ、その方がよりフォルに近くて恋に落ちやすいかも。
「まあね、どうしてああ育ったんだか。
ねえ、アン。ちょっと私の事チェリお姉さまって呼んでみてくれない?」
はい?お姉さまって年じゃないのでは・・・。あれ、エイの目が女性はみんな娘だと訴えている。逆らわない方がよさそうだ。
「チェリお姉さま?」
上目遣いに恐る恐る呼んでみると豪快に喜ばれた。テーブルをバンバンたたいているので振動で揺れている。
「いいじゃないか。よし、これからはそう読んどくれ!」
決定事項ですかそうですかわかりました。
それから私たちは他愛もない話、主に私の事を聞かれたので差しさわりのないことだけ答えてその場はお開きになった。件のご令嬢は後日日程を合わせてご紹介くださることになった。
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