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トを追って
慢心
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「なんで、いまさらだ!? 」
「はやく準備せんと!! 」
「前にヤツらが来たのは、まだこの子たちが生まれてなかったときだ!! 」
「また俺たちは半分殺されるんすかっ!! 」
「落ち着くんじゃ! ヤツらは昼行性。まだ時間があるじゃろ!! 」
鬼たちは焦っている。何となく、サリュには状況が理解できた。ヤツらというものが、鬼たちに何かしらするらしい。ヤツらに殺されるから、鬼たちは恐怖しているのかもしれない。サリュはそう考えた。鬼たちは恐怖している。お互い会話している様で噛み合っていない。こういう時は、誰かが冷静にならなければ解決しないことをサリュは知っていた。鬼たちが動揺している中、
「僕たちが、どうにかしましょう!! 」
と甲高い声が集会所に響き渡る。鬼たちは時が止まった様に自身の行動を止め静かになった。一番驚いたのはサリュだ。誰がこの言葉を発したのだろうか。でも、こんな甲高く鬱陶しい声を出せるのをサリュは一人知っていた。いや一匹知っていた。あのウサギだ。今まで、鬼の前では一言も喋っていなかった。いざ言葉を発したと思ったら、これだ。サリュは再びウサギに対して呆れた。それと同時にサリュは思い出した事もあった。そうだ、この世界を救いに来たんだと。
鬼たちも驚いていた。皆、大きな目を見開いてウサギを見ている。
「だから、ぼくたちにあなたたちのことを詳しく聞かせてくださいな! 」
ウサギは言った。大した度胸だなとサリュは、逆に感心もしていた。鬼たちは、お互いに顔を見合わせていた。このウサギを頼っていいものか、などと思っているのだろうとサリュは考えた。暫くして、鬼たちがサリュに事情を話した。
どうやら、食糧を奪われた村の人間は鬼たちを討伐する為に、ヤツらを雇ったらしい。それはそうだ。人間は大抵の場合、やられっぱなしで終わらない事をサリュは知っていた。ヤツらは四人いて、一人は翼が生えていて、一人は獣耳が付いていて、一人はお面を被っている。最後の一人は、額に鉢巻を巻いていて、こいつが頭領だと言う事もサリュは知った。ヤツらが来るのは、今回が初めてではない。前回はうんと昔の事だったらしいが、村に住む鬼たちの半分が殺された。
サリュは思った。逃げればいい。鬼たちは農耕をしていないのだから、移住も簡単であろうと。そして、半分も殺されたのになぜ略奪を続けたのだろうかと。きっと自尊心だろう。人間たちに負けてなるものかという自尊心だろう。その自尊心がどんな犠牲を払っているのかも知らずに。サリュは、自尊心がどれだけ周りに影響するのか、そしてその事がどれだけ愚かな事かを知っていた。だけども、サリュはその思いを鬼たちに伝えなかった。だって、鬼たちが自尊心を持とうが持たまいが、サリュにとってはどうでもよかったからだ。
「鬼さんたちは、家の戸を閉めといてください! その4人が入って来ないように。それだけで大丈夫! あとはぼくたちに任せて! 」
ウサギは場違いに明るく言った。鬼たちが輝きを持ってウサギを見ている事が、サリュには分かった。きっとウサギに従うしかないのだろう、それくらい窮地に立っているのだろうとサリュは思った。
「ヤツらは朝方来ると思います。どうぞ、それに備えてここでお休み下さい 」
赤い鬼がそう言った。優しい声が更に優しくなったとサリュは思った。そんな事をサリュが思っていると、鬼たちは子どもを連れて集会所を後にした。サリュがどのようにヤツらを対処するのかも聞かずに。その事がサリュには不思議でならなかった。何も聞かずに、自分の命が預けられるのかと。これも文化の違いなのかと。
鬼たちが集会所から居なくなると、サリュはずっと言いたかった事をウサギに言った。
「思い切って勝負に出たわね。 」
と。ウサギはその言葉に直ぐ答えた。
「サリュ、ぼくはね、勝負は勝てるもんだと思ってるんだ! だってね、勝てる勝負しかしないんだから! 」
笑いながら言う。サリュは、ウサギがヤツらをどうにかしてくれるだろうと考えた。それ程、ウサギを頼もしく思えたのだった。それと同時にサリュは急に眠気を感じた。頼もしさを感じると眠気を感じる事をサリュは知っていた。寝具は用意されていなかったから、サリュはそのまま床に寝転んだ。そして、このまま寝てしまおうかとサリュは思った。そんなことを思っていると、ウサギがサリュの顔を覗き込んでいう。
「さあ! サリュ! 誰を救おうか!? 鬼さんたちを救うかい? それとも人間たちを救うかい? うーん、ヤツらを救う…? サリュが決めておくれよ! 」
サリュは理解できなかった。だって、サリュには答えが出ていたからだ。当然の様に鬼たちを救うと思っていたからだ。笑顔で問い掛けてきたウサギに、サリュは少しの狂気を感じた。ウサギが鬼たちをどうにかすると言ったじゃないか。サリュは訳が分からなかった。問い掛けの意図が分からなかった。
何も答えないサリュを見て、ウサギは続けて言った。
「うーん、やっぱり鬼さんたちを救った方がいいよね! だって、4人倒すだけで鬼たちは救えるもんね! 」
ウサギの言葉に考えの差異をサリュは感じた。だけれども、ウサギは鬼たちを救う気だとサリュは思った。それで良いのだとサリュは思った。思い掛けない事をするには、大変な労力を必要とする事をサリュは知っていた。だから、流れ通りに鬼たちを救いたかった。鬼たちを救う事が今までの流れからいって当然だとサリュは考えた。
ウサギが何をしようとしているのか、ヤツらをどう対処するのか、サリュは気になっていた。だけども、サリュは眠かった。聞かなければいけないのは知っていたが、眠気には勝てなかった。サリュは、眠気に負けて眼を閉じた。
「起きて! サリュ! 起きて! 朝だよ! 勝負の時間だよ!! 」
甲高い声を聞いて、サリュは眼を覚ます。鬱陶しかったが、大事な用を寝過ごすよりはよっぽどマシだと思った。辺りはまだ薄暗かった。
「はやく準備せんと!! 」
「前にヤツらが来たのは、まだこの子たちが生まれてなかったときだ!! 」
「また俺たちは半分殺されるんすかっ!! 」
「落ち着くんじゃ! ヤツらは昼行性。まだ時間があるじゃろ!! 」
鬼たちは焦っている。何となく、サリュには状況が理解できた。ヤツらというものが、鬼たちに何かしらするらしい。ヤツらに殺されるから、鬼たちは恐怖しているのかもしれない。サリュはそう考えた。鬼たちは恐怖している。お互い会話している様で噛み合っていない。こういう時は、誰かが冷静にならなければ解決しないことをサリュは知っていた。鬼たちが動揺している中、
「僕たちが、どうにかしましょう!! 」
と甲高い声が集会所に響き渡る。鬼たちは時が止まった様に自身の行動を止め静かになった。一番驚いたのはサリュだ。誰がこの言葉を発したのだろうか。でも、こんな甲高く鬱陶しい声を出せるのをサリュは一人知っていた。いや一匹知っていた。あのウサギだ。今まで、鬼の前では一言も喋っていなかった。いざ言葉を発したと思ったら、これだ。サリュは再びウサギに対して呆れた。それと同時にサリュは思い出した事もあった。そうだ、この世界を救いに来たんだと。
鬼たちも驚いていた。皆、大きな目を見開いてウサギを見ている。
「だから、ぼくたちにあなたたちのことを詳しく聞かせてくださいな! 」
ウサギは言った。大した度胸だなとサリュは、逆に感心もしていた。鬼たちは、お互いに顔を見合わせていた。このウサギを頼っていいものか、などと思っているのだろうとサリュは考えた。暫くして、鬼たちがサリュに事情を話した。
どうやら、食糧を奪われた村の人間は鬼たちを討伐する為に、ヤツらを雇ったらしい。それはそうだ。人間は大抵の場合、やられっぱなしで終わらない事をサリュは知っていた。ヤツらは四人いて、一人は翼が生えていて、一人は獣耳が付いていて、一人はお面を被っている。最後の一人は、額に鉢巻を巻いていて、こいつが頭領だと言う事もサリュは知った。ヤツらが来るのは、今回が初めてではない。前回はうんと昔の事だったらしいが、村に住む鬼たちの半分が殺された。
サリュは思った。逃げればいい。鬼たちは農耕をしていないのだから、移住も簡単であろうと。そして、半分も殺されたのになぜ略奪を続けたのだろうかと。きっと自尊心だろう。人間たちに負けてなるものかという自尊心だろう。その自尊心がどんな犠牲を払っているのかも知らずに。サリュは、自尊心がどれだけ周りに影響するのか、そしてその事がどれだけ愚かな事かを知っていた。だけども、サリュはその思いを鬼たちに伝えなかった。だって、鬼たちが自尊心を持とうが持たまいが、サリュにとってはどうでもよかったからだ。
「鬼さんたちは、家の戸を閉めといてください! その4人が入って来ないように。それだけで大丈夫! あとはぼくたちに任せて! 」
ウサギは場違いに明るく言った。鬼たちが輝きを持ってウサギを見ている事が、サリュには分かった。きっとウサギに従うしかないのだろう、それくらい窮地に立っているのだろうとサリュは思った。
「ヤツらは朝方来ると思います。どうぞ、それに備えてここでお休み下さい 」
赤い鬼がそう言った。優しい声が更に優しくなったとサリュは思った。そんな事をサリュが思っていると、鬼たちは子どもを連れて集会所を後にした。サリュがどのようにヤツらを対処するのかも聞かずに。その事がサリュには不思議でならなかった。何も聞かずに、自分の命が預けられるのかと。これも文化の違いなのかと。
鬼たちが集会所から居なくなると、サリュはずっと言いたかった事をウサギに言った。
「思い切って勝負に出たわね。 」
と。ウサギはその言葉に直ぐ答えた。
「サリュ、ぼくはね、勝負は勝てるもんだと思ってるんだ! だってね、勝てる勝負しかしないんだから! 」
笑いながら言う。サリュは、ウサギがヤツらをどうにかしてくれるだろうと考えた。それ程、ウサギを頼もしく思えたのだった。それと同時にサリュは急に眠気を感じた。頼もしさを感じると眠気を感じる事をサリュは知っていた。寝具は用意されていなかったから、サリュはそのまま床に寝転んだ。そして、このまま寝てしまおうかとサリュは思った。そんなことを思っていると、ウサギがサリュの顔を覗き込んでいう。
「さあ! サリュ! 誰を救おうか!? 鬼さんたちを救うかい? それとも人間たちを救うかい? うーん、ヤツらを救う…? サリュが決めておくれよ! 」
サリュは理解できなかった。だって、サリュには答えが出ていたからだ。当然の様に鬼たちを救うと思っていたからだ。笑顔で問い掛けてきたウサギに、サリュは少しの狂気を感じた。ウサギが鬼たちをどうにかすると言ったじゃないか。サリュは訳が分からなかった。問い掛けの意図が分からなかった。
何も答えないサリュを見て、ウサギは続けて言った。
「うーん、やっぱり鬼さんたちを救った方がいいよね! だって、4人倒すだけで鬼たちは救えるもんね! 」
ウサギの言葉に考えの差異をサリュは感じた。だけれども、ウサギは鬼たちを救う気だとサリュは思った。それで良いのだとサリュは思った。思い掛けない事をするには、大変な労力を必要とする事をサリュは知っていた。だから、流れ通りに鬼たちを救いたかった。鬼たちを救う事が今までの流れからいって当然だとサリュは考えた。
ウサギが何をしようとしているのか、ヤツらをどう対処するのか、サリュは気になっていた。だけども、サリュは眠かった。聞かなければいけないのは知っていたが、眠気には勝てなかった。サリュは、眠気に負けて眼を閉じた。
「起きて! サリュ! 起きて! 朝だよ! 勝負の時間だよ!! 」
甲高い声を聞いて、サリュは眼を覚ます。鬱陶しかったが、大事な用を寝過ごすよりはよっぽどマシだと思った。辺りはまだ薄暗かった。
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