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5.なかよしゲーム
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それから、娘ちゃんは苦いオムライスとおいしいプリンを交互に食べた。
そして、お皿に一欠片のごはんも残さずに食べ終えると、両手を合わせて合掌する。
「ごちそうさま、おいしかった」
「お粗末さまでした!」
娘ちゃんにおいしかったと言われ、ご満悦の貴仁は、空っぽになったお皿をキッチンに運び、洗い始める。
貴仁は実にご機嫌だが、小学生の娘ちゃんからすれば、この時間は何もすることがなくつまらない。
先ほどは、ニャン五郎を撫でるという暇つぶしがあったからこそ、30分待つことができたが、そのニャン五郎も今はどこかに隠れてしまった。
「それで、この後どうするの?」
ついに我慢の限界になった娘ちゃんは貴仁に問う。
「どうするって?」
「暇。つまんない」
「つまんないって言われても何もすることがないんだよなぁ……」
そう、貴仁の家には暇をつぶせるものどころかテレビすらない。あるのは、必要最低限の家具のみ。
どうしたものかと困る貴仁だったが、1つ良い案が浮かんだらしく、軽く手を打った。
「なかよしゲーム!」
「なかよしゲーム?なにそれ」
「それはね……」
貴仁によると、なかよしゲームというのは、交互に質問をし合って親睦を深めるゲームらしい。
ただ、普通の自己紹介と違うのは、リズムにのせて質問すること。
「なるほどね。楽しそう」
娘ちゃんは、なかよしゲームのことを気に入ったらしく、もう既に何を質問しようかと企んでいる。
「リズムは、山手線ゲームと同じね!あと、リズムにのれなかったら負け!じゃあ、いい?娘ちゃん」
「いいよ」
「よーい、スタート!」
その言葉と共にふたりは手を打つ。
先行は、貴仁。聞きたいことはたくさんあるが、一番最初に質問したいことは予め決まっていた。
「何歳?」
「8歳」
なるほど、8歳か、と貴仁が納得しているうちに構わず娘ちゃんは続ける。
「独身?」
「ど、独身!何年生?」
まさか、一番最初に聞かれるのが独身かどうかだと思っていなかった貴仁はリズムを崩しかけ焦った。
「3年生。彼女は?」
「ちょ、ストップ!ストーップ!」
56歳の恋愛事情を遠慮なく、率直に聞いてくる娘ちゃんに思わず、待ったをかけた。
このまま続けたら、告白された回数やら、なんで結婚しないのか、など包み隠さずに答えることになったかもしれない。
「なんで止めるの?」
「あのね、娘ちゃん、私にもプライバシーというものが……」
「プライバシー?なにそれ、わかんなーい」
絶対知っているだろうに、あえて分からないふりをして茶化す娘ちゃん。
「いや、絶対知ってるでしょ」
「小学生だから、わかんなーい」
こういう場面で、小学生の特権を使えるのは少しというかかなりずるいと思う貴仁。
だが、始まったばかりのなかよしゲームがこれで終わりとなるのは寂しい。
「分かった、分かった!じゃあ、続きからね!」
貴仁の言葉を聞いた娘ちゃんは、これまた、勝ったと言わんばかりのにんまり顔。
そして、ゲームを続けるためにふたりはまた手を打つ。
「彼女は?」
同じ質問を投げてきた娘ちゃん。懲りないなとは思いながらもまた止めていてはキリがない。
「いません!趣味は?」
「数学。職業は?」
「秘密!」
「ストップ。秘密ってなに?無職なの?」
痛いところをつかれた貴仁は、目の泳ぎが止まらない。
さて、どう答えたものか。
別に、答えたから何か変わるというわけではない。
だが、何となく貴仁は自分の仕事を秘密にしておきたかった。
「ごめん!職業だけは、どうしても秘密」
「へぇー。なんで?」
「なんでって……なんとなく……」
目を逸らしながら、都合が悪そうにぼそぼそ喋る貴仁を見て、娘ちゃんは一つため息をつく。
「まあ、誰にでも秘密はあるからね。仕方ないか」
「え、いいの?」
何がなんでも追求するだろうと思っていた貴仁は、娘ちゃんがすんなり諦めてくれたことが意外だった。
「いや、どうしても秘密って言ったのはじじいね?」
「それは、そうだけど、なんか意外」
「意外って失礼ね。私にも秘密はあるし、無理は言わない。小学生でも、そのくらいの人間性はできてる。当たり前でしょ」
人間性を語る娘ちゃんを見て、本当にこの子は小学生なのかと怪訝そうな表情を浮かべる貴仁。
「娘ちゃんって本当に小学生?」
「歴とした小学生」
「本当に?」
「本当に」
「そっかー!本当に小学生なのかー!」
ずっと考えていたクイズの答えが分かった時のような清々しい顔で大笑いする貴仁。
その貴仁の笑いにつられて、娘ちゃんも笑う。
「じじいって本当に変なおじさん」
「変なおじさんで悪かったね」
何が面白いのかは分からないが、なぜか笑いが込み上げてきて、家の中にはしばらくの間、ふたりの笑い声が鳴り響いた。
そして、お皿に一欠片のごはんも残さずに食べ終えると、両手を合わせて合掌する。
「ごちそうさま、おいしかった」
「お粗末さまでした!」
娘ちゃんにおいしかったと言われ、ご満悦の貴仁は、空っぽになったお皿をキッチンに運び、洗い始める。
貴仁は実にご機嫌だが、小学生の娘ちゃんからすれば、この時間は何もすることがなくつまらない。
先ほどは、ニャン五郎を撫でるという暇つぶしがあったからこそ、30分待つことができたが、そのニャン五郎も今はどこかに隠れてしまった。
「それで、この後どうするの?」
ついに我慢の限界になった娘ちゃんは貴仁に問う。
「どうするって?」
「暇。つまんない」
「つまんないって言われても何もすることがないんだよなぁ……」
そう、貴仁の家には暇をつぶせるものどころかテレビすらない。あるのは、必要最低限の家具のみ。
どうしたものかと困る貴仁だったが、1つ良い案が浮かんだらしく、軽く手を打った。
「なかよしゲーム!」
「なかよしゲーム?なにそれ」
「それはね……」
貴仁によると、なかよしゲームというのは、交互に質問をし合って親睦を深めるゲームらしい。
ただ、普通の自己紹介と違うのは、リズムにのせて質問すること。
「なるほどね。楽しそう」
娘ちゃんは、なかよしゲームのことを気に入ったらしく、もう既に何を質問しようかと企んでいる。
「リズムは、山手線ゲームと同じね!あと、リズムにのれなかったら負け!じゃあ、いい?娘ちゃん」
「いいよ」
「よーい、スタート!」
その言葉と共にふたりは手を打つ。
先行は、貴仁。聞きたいことはたくさんあるが、一番最初に質問したいことは予め決まっていた。
「何歳?」
「8歳」
なるほど、8歳か、と貴仁が納得しているうちに構わず娘ちゃんは続ける。
「独身?」
「ど、独身!何年生?」
まさか、一番最初に聞かれるのが独身かどうかだと思っていなかった貴仁はリズムを崩しかけ焦った。
「3年生。彼女は?」
「ちょ、ストップ!ストーップ!」
56歳の恋愛事情を遠慮なく、率直に聞いてくる娘ちゃんに思わず、待ったをかけた。
このまま続けたら、告白された回数やら、なんで結婚しないのか、など包み隠さずに答えることになったかもしれない。
「なんで止めるの?」
「あのね、娘ちゃん、私にもプライバシーというものが……」
「プライバシー?なにそれ、わかんなーい」
絶対知っているだろうに、あえて分からないふりをして茶化す娘ちゃん。
「いや、絶対知ってるでしょ」
「小学生だから、わかんなーい」
こういう場面で、小学生の特権を使えるのは少しというかかなりずるいと思う貴仁。
だが、始まったばかりのなかよしゲームがこれで終わりとなるのは寂しい。
「分かった、分かった!じゃあ、続きからね!」
貴仁の言葉を聞いた娘ちゃんは、これまた、勝ったと言わんばかりのにんまり顔。
そして、ゲームを続けるためにふたりはまた手を打つ。
「彼女は?」
同じ質問を投げてきた娘ちゃん。懲りないなとは思いながらもまた止めていてはキリがない。
「いません!趣味は?」
「数学。職業は?」
「秘密!」
「ストップ。秘密ってなに?無職なの?」
痛いところをつかれた貴仁は、目の泳ぎが止まらない。
さて、どう答えたものか。
別に、答えたから何か変わるというわけではない。
だが、何となく貴仁は自分の仕事を秘密にしておきたかった。
「ごめん!職業だけは、どうしても秘密」
「へぇー。なんで?」
「なんでって……なんとなく……」
目を逸らしながら、都合が悪そうにぼそぼそ喋る貴仁を見て、娘ちゃんは一つため息をつく。
「まあ、誰にでも秘密はあるからね。仕方ないか」
「え、いいの?」
何がなんでも追求するだろうと思っていた貴仁は、娘ちゃんがすんなり諦めてくれたことが意外だった。
「いや、どうしても秘密って言ったのはじじいね?」
「それは、そうだけど、なんか意外」
「意外って失礼ね。私にも秘密はあるし、無理は言わない。小学生でも、そのくらいの人間性はできてる。当たり前でしょ」
人間性を語る娘ちゃんを見て、本当にこの子は小学生なのかと怪訝そうな表情を浮かべる貴仁。
「娘ちゃんって本当に小学生?」
「歴とした小学生」
「本当に?」
「本当に」
「そっかー!本当に小学生なのかー!」
ずっと考えていたクイズの答えが分かった時のような清々しい顔で大笑いする貴仁。
その貴仁の笑いにつられて、娘ちゃんも笑う。
「じじいって本当に変なおじさん」
「変なおじさんで悪かったね」
何が面白いのかは分からないが、なぜか笑いが込み上げてきて、家の中にはしばらくの間、ふたりの笑い声が鳴り響いた。
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